第13話 水の神オケアノスの愛 2
湖の宝!?
湖畔で憂鬱そうにため息をついていた男の人の言葉に、僕の好奇心が刺激された。
エンターレの町名の由来にもなっている雄大なエンターレ湖。
そこに宝があると聞いたら黙ってはいられない。
……いきなり聞くと怪しい奴と思われて警戒されないかな。
いや、でも今の僕はほんの9歳児! 子供相手ならガードも緩む、そういう強み最大限に生かしていけ。
「ねえねえおじさん、宝って何?」
というわけで、いきなり近づいて尋ねてみることにした。
髪を頭の上でまるめているこの世界でも珍しい髪型の中年男性は、少し驚いたように僕の方に顔を向けたが、子供の僕の姿を見て表情を和らげる。
よし、作戦成功。
「なんだガキか……他人の独り言に聞き耳立てるなんて品がねーぞ」
「えーだって声が大きくて勝手に聞こえただけだよ。それより宝って何? 何?」
あえてちょっと生意気で好奇心旺盛な感じで攻めていく。
この無愛想そうなおじさんには変に礼儀正しいより踏み込む方が効果的だと思われる。
「ったくうるさいガキだな、教えてやるからあっちに行け。宝っていうのはだな――」
しかし男の人は急に固まった。
何かを思い出すように、眉間にしわを寄せて僕の顔を見つめている。
「…………いや、お前なんか見た顔のような気がするな……もしかして雨乞いしてるところにいなかったか?」
「い――」
「いたよな! ああ思い出した! こんなガキだけで来るわけねえし、親も雨乞いしてただろ!」
「お――」
「お父さんとお母さんも参加してた!? やっぱりそうか」
いやそんなこと言ってないしこの人脳内補完能力高すぎる。
シュターク父さんはともかくサリア母さんは参加してないのに。
「とっとと消えな! お前らの変な儀式のせいで湖の水位があがって俺の夢がパアだ。せっかく日照りで洞窟の入り口が見えてたっていうのに! 全部お前らのせいなんだよ!」
「そ――」
「……って、俺は何ガキごときに熱くなってんだ。ガキが儀式して雨降らせるなんてできるわけないし、親に付き合わされただけに決まってるのにな。まったく、焼きが回ったぜ。俺もガキの頃行きたくもねえお上品なオペラに連れて行かれたしな。ああいうの聞くと胃が痒くなるんだよ、俺みたいな人間は」
めちゃくちゃ脳内補完してめちゃくちゃ勝手に話を進められている!
気軽に話しかけた時はこんなことになるとは思ってなかったのに。
「しゃーねえから話聞いてやるよ。親に無理矢理参加させられたよしみだ。んで、なんだったか?」
別に無理矢理参加させられてないけど、なんか謎に仲間意識を持たれてしまった。
まあいいか、話を聞いてくれるならなんでも。
「湖の宝について聞きたいんだ」
「ああ、宝。そういや言ってたな。エンターレ湖には昔っから伝説があってな。湖の中にはオケアノスとヘパイストスが作った洞窟があって、そこには伝説の鉱物アダマンタイトが隠されてると言われてるんだ」
「伝説の鉱物アダマンタイト!?」
「お、食いつきやがったな? わかるぜ、男のガキはそういうの好きだよな」
男の人はうんうんと、満足げに頷いてる。仲間がいて嬉しそうである。
しかし、それよりもアダマンタイト!
伝説の鉱物として名高いアレじゃないですか。
異世界に来たなら、これは絶対押さえておきたいってものの五本の指には入ってくるやつ。これはもっと話を聞かなければ!
「それがここの湖にあるの!?」
「ああ、そう言われてる。鍛冶をやってる者としては、是が非でも手に入れたいってもんよ」
「おじさん鍛冶屋さんなの?」
「ああ。ガンツ工房ってのをこの町でやってる。エンターレの鍛冶屋が、エンターレの幻の鉱石をほしがるのは当然だよなあ?」
うんうん、と僕は頷いた。
鍛冶屋じゃない僕でも欲しいんだし、地元の鍛冶屋なら言うまでもないね。
「あー! それで、洞窟の入り口が見えてそのアダマンタイトが手に入るかもしれないと思ったのに、雨が降ってきたから」
「そうだ。日照り続きで湖の水位が下がってきたら、本当に洞窟の入り口らしきものが見えたんだ! あと少しで完全に洞窟から水がひいて中に入れるってところで、心待ちにしてたら――」
ガンツは忌々しげに地面をこぶしで叩く。
「どこぞの村からしゃしゃりでてきた奴らが雨乞いをして、雨が降ってきて入り口は隠れちまった。一生に一度のチャンスだったのによ、本当に余計なことをしやがって!」
あちゃー、そういうことだったのか。
ちょっと自責の念がわいてくる。
実際に雨を降らせたのは、雨乞いじゃなくて僕だから、僕のせいで激レア鉱石が手に入らなくなってしまったってことだし。
それに、僕自身もアダマンタイトなんて聞いたら欲しいのに、自分のしたことで見れなくなってしまった。
「はぁ~そういうわけだ、わかったかガキんちょ。まったく、こんな愚痴を聞かせるなんて俺も焼きが回ったな」
頭をかきながらガンツは立ち上がり、そして町の方へと去って行った。
しかし僕は湖の方を見る。
この湖の中に超激レア鉱物があるなら一目見てみたい。
ゼウスの力で日照りにすればまた入り口が出てくるか? いやでもそれしたら農家の人が困るし町自体も飢えるしさすがにダメだろ。時間もかかるし待ちきれない。
かといって風や地面の力でなんとかできるかというと……難しそう。
干上がらせるのが無理なら、自分が水の中に潜るという線もあるな。
風とか土で酸素ボンベ的なのを作れないか……いやさすがに難しいか……うーん。
としかめつらで湖を見ていると、ピカっと頭の上が光った。
瞬間、はっとした。
僕には水に潜れる力がある!
「って、何を突然。いや、この感覚は……この光も……そうか、もしかして水の神様が!」
湖の際に言ってチャプチャプと水を触ると、それはまるで空気みたいに自分の周りにあって当然の、なんの障害にもならないもののような感覚として感じられた。
やっぱりそうだ!
水の神オケアノスが僕に力を与えてくれた。
これがあれば、水の中でも空気の中みたいに問題なく行動して、水中の洞窟に行くこともできる!
「楽しそうにお話ししてたわね~、あのおじさんと仲良くなったの?」
サリア母さんが湖を見ている僕の元にやってきた。
「うん! 鍛冶屋をやってるんだって。鍛冶のお話って初めてだから面白いこと話してもらえた!」
「へ~良かったわね。グリーンティアは行商人から金物買うだけで、作れる人はいないからここに来てよかったわ」
「かじや! かじや!」
妹クラリアも意味はわかってなさそうだけど、とりあえずはしゃいでいる。
かわいいなあもう。
そして再び親子三人で湖で水遊びを僕らは始めた。
だが僕の心には、その水中にあるものがずっと気になっている。
翌日――。
僕は再びエンターレ湖に来ていた。
もちろん今日の目的は――。
「水の神オケアノスよ、僕に力をお貸しください!」
体の表面を薄く、ベールのようなエネルギー体の衣が包んでいく。
よし、これならきっと――。
僕は湖に勢いよく飛び込んだ。
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