第11話 天空の神ゼウスの愛 3
この光は――!
天から頭上へと差す光は、小さい頃僕が神々の権能を使えるようになった時に起きた現象。だったら、今回も――!
「なんだ? 急に冷たい風が」
輪になっている人の中から戸惑った声が上がった。
僕も感じた。夏真っ盛りなのに、ひんやりとした風が吹いてきたのを。
この風は誰しも覚えがある。
夏の夕立前に吹く風だ。
その見立ては当たった。
見る間に青空が黒雲で覆われ、ポツ、と掌に水滴が落ちてきたのだ。
「おお!」
「雨? 雨だ!」
「祈りが通じたぞ!」
降り始めた雨に、雨乞いをしていた人達が沸き立つ。
その熱狂は雨が蒸発しそうなほどだ。
「よおーーーし! 雨が降ったぞーー!」
ドンドンドンドン!とシュターク父さんも太鼓を連打して盛り上げている。
農家の人にとっては文字通り死活問題だったろうし、いいところで神様がサポートしてくれてよかった。
そういえば天気の神様って誰なんだろう?
やっぱりお礼の一つくらい言っておくべきだと思うし、あとで調べよう。
と考え込む僕の正面に不意に人影が回り込んできた。
ん? と思って顔を上げると、僕の顔をのぞき込むようなメイのにんまり顔が。
「皆は雨乞いの儀式が成功して雨が降ったと思ってるけど……メイはわかるよ。リイルくんがやってくれたんだよね?」
「え」
「だって、あの時と同じだもん。ずっと小さいときだからリイルくんは覚えてないかもしれないけど、メイがリイルくんのお世話して遊んでた時に、今みたいに光がふわーって差したかと思うと、地面が凄いことになったんだよ。だったらきっと今も、って。そうでしょ?」
腰をかがめて、さらに顔を近づけて内緒話のようにヒソヒソ声でメイは言う。
「うーん……多分、そうかも。僕も意識してやったわけじゃなくて、一緒に雨よ降れ~ってやってたらこうなったから、確信は持てないけど」
「絶対そうだって! だって二回目だもん、偶然じゃないよ。ありがと、リイルくん。これで私の家も飢え死にせず済みそうだよ~」
そう言うとメイは背筋を伸ばして、「よーしじゃあ、祈りが通じて感謝の踊りだねー!」と大きな声を出して太鼓に合わせてステップを踏み始めた。
「ほらほらリイルくんも」と手を取って謎ダンスを始める。
もう祈りは通じたから踊る必要はないんだけれど……楽しそうにしてるしまあいいか。
と僕も慣れない足取りで踊るのだった。
――が。
「うおお雨が激しすぎる! 太鼓が駄目になるぞ!」
と叫んだシュターク父さんの声でプチ感謝祭は中断した。
ぱらぱらりと降っていた雨がやがてザーザー降りになり、今ではもう声を張り上げないと何を言ってるかわからないほどの大雨になっている。
さすがに踊っている場合ではなく、僕らは急いで撤収した。
「ここまで降らせなくてもいいんだけど、まあたくさん降ればたくさん潤うしいいか」
そんなことを思いながら僕も帰宅する。
これで不作も解消してグリーンティアの村に平和が訪れるね。
あれから一週間が経った。
いまだに雨はやまない。
「いやさすがに雨降りすぎでしょ! 極端すぎないか!?」
家の窓から外を見るが、ザーザー降りの雨は降り続いている。
しかも一週間休みなく。
さすがに雨乞いの効果てきめんにもほどがある。
ここまで来ると逆に困るレベルだぞ。
あれから本で調べたけど、天の神はゼウスという名らしい。
「ゼウス様もうちょっといい塩梅ってものを調節して欲しいんですけど……」
このまま雨がさらに降ったら、結構まずい気がする。外に出られないとかのレベルじゃなく、土砂崩れとか地層の流出とか洪水とか、凶作に勝るとも劣らない災厄が起きかねない。
いや本当雨やんでくれないとまずいねこれ。
ゼウス様人間は雨が降りすぎてもダメなんですその辺忖度してください。
「……もしかして、あの時の願いの効果がまだ継続してるのかな? ひょっとして取り消さない限り永遠に雨が降るとか……?」
普通に考えたらまとまった雨が降ったらそれで終わると思うけど、普通が通じる保証は無い。もしかしたら、はっきりやめる宣言をしなきゃいけないのかも。
「ものは試しだ。やってみよう」
僕は神の力を再び使うことにした。
天気を操った経験はないけれど、しかし神の力の使い方は風や地で十分習熟している。
こう、頭のてっぺんのさらに上に力を入れて念じる感じ。空の上と自分の脳を繋ぐようなイメージで……。
「雨よやめ!」
………………。
一瞬空に広がる雲の奥が雷がなったときのように光った気がした。
すると激しく地面を打ち付けていた雨の音が徐々に弱まり始めた。
どんどん雨は弱くなり、雲が薄くなり太陽の光が透け始め……三十分とたたずに雨は完全にやみ、雲一つない快晴へと変貌したのだ。
「うわ、本当に思った通りだった。指示待ち天気じゃん」
こんなことじゃ、言われたことしかやらないようじゃ社会で通用しないぞ、って言われるぞゼウス様。
まあ、晴れたからいいけど。
でもこれ僕がうっかり忘れてどこかに旅行に行ったりしたらヤバいことになってたな。
やはり神の力は軽々に使ってはならない、しっかり心に刻んでおこう。
僕は快晴の空を見て誓うのだった。
一週間後。
快晴の空の下、空気は乾ききっている。
今度は一週間の間、一つしか無い空が継続していた。
「やっぱり極端すぎるだろ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます