第10話 天空の神ゼウスの愛 2

 半裸で太鼓を叩きまくる父。

 その周りで謎の動作をする村人達。


 そんな謎の儀式を見せられては、僕は立ち尽くすしかない。

 もう世界観がTRIC○なんよ。


「あっ! あれは……嘘……でしょ……」


 謎の儀式をしている人の輪の中に、よく知った顔があった。

 メイ=タウラ。

 小さい頃僕のベビーシッターをして面倒見てくれてたあのメイちゃんだ。


 輪の中に混じって、手を伸ばして天と地に祈りを捧げている。

 そんな……こんな怪しい集団に入ってしまうなんて.……


 というか、よく見るとメイの両親も輪の中にいるな。メイの隣で同じような謎の儀式を行っている。


 うーん、どうしよう。

 近寄りがたいなあ……。


「見なかったことにして帰ろ……」

「あ! リイルくんだ!」


 踵を返そうとしたところで、僕を呼ぶ元気な声が響いた。

 その声の主はもちろん、メイだ。


 メイは輪を離れ、僕のところへ駆け寄ってくる。

 土で汚れたままの膝と額は儀式の一心不乱さが現われていて半分感心半分畏怖だ。


「う、うん、太鼓の音が聞こえて何かと思って」

「あー、そうだよね、凄い音だもんね。リイル君のパパパワー全開だよ」


 僕が9歳になったということは、メイは17歳である。

 見た目はすっかりお姉さんって感じだけど、中身はそんなに変わってなくて安心する。


「う、うん。シュターク父さんが太鼓叩いててびっくりしたよ。それにメイお姉ちゃんも……何やってるの?」


 僕は泥のついた額と膝を指さしながら言った。

 メイははぁ~~っと大げさにため息をついて、答えを溜めている。


 答えないまま、僕の肩をつかんで、ぐるりと回転させてくる。

 それはどうやら、僕に周囲の様子を見せるように。


「ここは畑がたくさんあるよね? でも、見てよー」

「なんだか、カラッカラだね」


 そう、畑は今の盛夏の時期なら様々な野菜が青青たおした葉を茂らせているはずなのが僕も見慣れた例年のことなのだが、今の畑は植物が力なく萎びている。中には茶色く変色してどう見ても終わってる姿の野菜もある。


「ずいぶん野菜が今年は惨状だね」

「うん。そうなんだよリイルくん。今年は雨が全然降らなくてカラッカラでさ、畑の野菜帯が喉カラカラで瀕死の状態なの。このままじゃ収穫できなくてだいぶまずいことになるって、お父さんとお母さんも言っててね」


 そういえば、メイの家は農家だった。

 家の手伝いをしつつ僕の面倒を昔見てくれていたけれど、今は家で手伝いどころかバリバリ農作物の世話をしている。


 のだが、こんなことになっていたとは……あ。


「もしかして、あの変な踊りみたいなのって……」

「そう! 【雨乞い】だよ! 変じゃないけどね!」


 メイが言うと、輪になっている村人達も一緒にうん、うん、と頷いた。


 なるほど、そういうわけか。

 あんまり雨が振らなくて凶作の危機だから雨乞いをしてたと。

 

 言われてよく見てみれば、畑で農作業をしている様子を見たことある人ばかりだ、輪を作っているのは。もちろんメイも家族で農業をしているから参加しているんだ。


 そんなことをして雨が降るとは思えないけど、でも町の雰囲気からしたら、地球の中世くらいの感じだしそんな迷信があってもしかたないか。

 怪しいカルトな儀式だと思ってごめん!


 と心の中で謝っていると、メイが僕の手をぎゅっと握った。


「だから、さあ、リイル君も!」

「おう、そうだ! せっかくだからリイルも農家の人達と一緒にやっていけ!」


 シュターク父さんも太鼓のバチを握り背筋を強調しながら僕を誘う。

 

 なぜ筋肉アピール。

 うーん、誘ってくれてはいるけど意味がないのにやるのもなんかなあ。

 とはいえここで断るのも変な価値観持ってる奴っぽいかなあ、転生とかそんなこと皆は知らないわけだし。


 などと僕は心の中で逡巡したのだが、その時ふと気付いた。

 

 しかし、これって本当に迷信で効果ないのか?

 という疑問が僕の心に浮き上がってきたのだ。


 地球とは違ってこの世界には魔法があるし、僕は神様の力を使えると神官が言っていた。

 そんな世界なら実際に雨を降らせる神様がいて、こういう儀式で神様が雨を降らせてくれるっていうことも十二分にありえるのでは?


 そう思うと、実際に僕の方が間違った価値観を持っていることになる。

 そうだ、このミリオネートの世界では昔持ってた常識は通じない。

 それなら……。


「うん、僕もやるよ! 雨降って欲しいし……」

「ん? どうしたのリイル君、メイの方見て。あ! 泥がついてるからでしょ! うわ恥ずかちゅ」


 メイは額と膝小僧の泥を慌てて払うが、別にそういうことを言いたいわけじゃない。


「いや、メイお姉ちゃんのためにも雨降って欲しいしって思って」

「…………あーーーっ! もういい子なんだからー! よしよし! よしよし! よしよし!」


 メイは僕の首を腕でしっかりと掴み、頭を撫で撫で撫で撫で撫で撫でと激しく撫でられる。髪の毛が台風の日に外に出たみたいにぼさっぼさになってしまうほどだ。メイすごい。


「まったく、メイを喜ばせるのがうまいんだから、リイルくんは。じゃ、一緒に踊ろう」


 と手を引かれて僕も輪の中に混じらされた。

 そして例の1~6の行程を太鼓にあわせて繰り返す。


 本当に雨乞いの効果なんてあるんだろうか?

 という疑念が浮かぶが、いろんな神様が実在する可能性の高いこのミリオネートの世界では、祈りは通じるはずだと信じて雨よ降れ~と願いながら一心不乱に皆とともに儀式を行う。


 何回も繰り返した時、ふと空が一際明るくなったような気がした。


 これは――そうだ、久しぶりに見た光景。

 光の柱が僕の頭上から降りてきたんだ。

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