第9話 天空の神ゼウスの愛 1
小さい頃に起きた神の力の目覚め。
それから数年、僕はグリーンティアの村で両親や村の人達に囲まれ平穏な日々を送っていた。
神の力(とファティオが言っていた魔法のような魔法を超えた力)の使い方の練習をしたり、家のことを手伝ったり、普通に勉強をしたり(算数なんかはさすがにもうわかりきっていて面白くなかったけど、歴史や地理は楽しかった)、そんなことをしながら毎日過ごしていた。
「おーにーちゃーんー」
庭で日課の風起こしの訓練をしていた僕の足元に、ボールがころころと転がってきた。
転がしてきたのは――。
「ボール投げるのうまくなったねー、クラリア」
「うん! すごいでしょ!」
僕はてててっと走る目がくりくりした女の子にボールをふんわりと放った。
そうそう、妹のクラリアの遊び相手なんかもこの数年の過ごし方だったな。
僕は妹とサッカーボールくらいの大きさのボールを投げ合って遊び続ける。
あの神官と出会った時から二年後くらいに妹が生まれた。
まああの両親だし、ねえ。そりゃ妹も生まれるわ。
赤ちゃんが生まれるって聞いた時はやっぱりな、って思ったよね。
まあそんなわけで、現在の僕は9歳で、妹は3歳。
赤ちゃんの時もかわいかったけど、3歳の今もかわいい。クラリアは俺が守護らねば。
「ほーら、ボールが空を飛んでるよ~」
「すごーい! もっと! もっととばして!」
風の力でボールをふわふわホバリングさせながら右へ左へと動かしてみせると、クラリアが手をぶんぶん振って大喜びする。
風神の力が使えて本当によかったなあ。
しばらくクラリアの相手をした後に家の中に戻ると、クラリアがうとうとしてきたのでベッドに連れて行くとすぐに昼寝を始めた。
僕はというと別にまだ眠くはないので、さて何をしようかなと考える。
神の力を扱う練習をするのもいいけど、家に入ったし本でも読もうか。
サリア母さんが魔道師で魔道具屋をしていることもあり、本は色々ある。
魔法の本はもちろんのこと、材料としての植物や動物の図鑑、商売のイロハが書いてある本や、地図および地理の特徴が書いてあるガイドブックと地図帳を合わせたような本など、いつまでも飽きない。
前の人生では生物や地理の教科書読む気にはならなかったのになぜこの世界だと楽しく読めて頭にも入ってくるのか、これは実に不思議だ。
これも神の仕業かな?
ドン、ドン、ドン
書斎に空気を震わすくぐもった音が響いた。
突然のことに僕は本を選ぶ手を止める。
何だ? なんの音だ?
ドン、ドン、ドン
まただ。
また破裂音が聞こえる。
これは、外からの音だ。
ドン、ドン、ドン
音はなおも響く。
規則正しく響いてくるということは、人が出している音。
そして空気が破裂するような音響。
これは――。
僕は書斎から出て、家からも出た。
ドン! ドン! ドン!
音は大きくはっきり聞こえるようになる。
それとともに音の正体もわかった。
「なんだ、太鼓の音か」
がくりと肩の力が抜ける。
なにかヤバいことでも起きてるのかと思ったけど、全然そんなことなかった。
「……でも、なんで太鼓? そんなもの鳴らすなんて収穫祭の時くらいだったと思うけど、今はまだ夏で季節が早いしなあ」
音の正体はわかったが、しかし新たな謎が同時に発生する。
これは確かめずにはいられない、と僕は音のする方へと歩いて行く。
音は村の外からしているようだ。
適度に間隔が開いて建っている家々の間を、土を均して作られた道を歩いて進んでいき、音の発生源へと歩いて行く。
「それにしてものどかだ。何度見ても落ち着くなあグリーンティアの風景は」
土地が余っているので、家も庭も道路も広々としているのがいいね。
住んでる人の心まで広くなるようだよ。
しかし太鼓の音はそんなのどかで静かな空気を壊し続けている。
無粋な真似を。いったい何が目的なんだ。
と歩いて行くと、ついに太鼓が見えた。
それは村の南に広がる畑のど真ん中。
木組みの台が作られていて、その上に大太鼓があり、規則正しいリズムで叩かれている。
これが音の正体だったのか。
と思うと同時に、僕は心底驚いた。
太鼓叩いてるのシュターク父さんじゃん!
上半身の服を脱ぎ捨て、剣技と魔術の素材集めに野山を駆けまわって鍛えた筋肉で太鼓を叩いている。
何やってるのマイファーザー……。
しかし、マイファーザーに驚いてばかりはいられなかった。
さらに驚くことは、その太鼓の周りだった。
太鼓の台を囲むように人々が円を作っていて、彼らが太鼓のリズムにあわせて。
1,まず気をつけの姿勢で立ちます。
2,両手をあげ、天を仰ぎます。
3,うつむき地面を見つめると同時に、膝を地面に着きます。
4,地面に額をつけます。ここでも両腕を耳に付けて、まっすぐに伸ばしたままです。
5,立ち上がり気をつけの姿勢に戻ります。
6,1,に戻り繰り返します。
※全ての行程は太鼓の音にあわせてキビキビと行われなければなりません。
という動きをしていたのだ。
「え……怖……」
僕にそう呟く以外のことができるだろうか?いや、ない。
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