第8話 三柱の神々の愛 ~幼年期の終わり
全てを終えてグリーンティアの村へと戻った僕らは、アウルベアのことを報告した。あれは退治したものの、普通はいない場所にモンスターがいたのだから、注意喚起は必要だしね。
とりあえず、しばらくは安全な森でも奥の方にはいかないようにという連絡が村に広まり、あとは元通り。それから数日、神官は村人に説教をしたり、あと森にもちょっと入っていた。
「まだこのあたりの動植物の調査は終わっていませんからね。もちろん、奥にはいきませんよ。娘に会うまで怪我できませんから」
と神官は言っていた。
ヨーロッパでは修道士が科学の研究をしていて、有名な科学者にもそういう人がいたらしいし、日本でも歴史的に僧侶に文化人は多くいた。
この世界でも、宗教的な職業の人が学者を兼ねてることは結構あるんだろうな。
また、僕が森から帰ってきた日の両親はというと……。
「さすが俺たちの息子だな! 大神殿の神官様を助けるとは!」
「リイルちゃん、怪我はない? よく頑張ったわね! 今日はアウルベアのハンバーグ作ってあげるわ!」
「お、大騒ぎしすぎだよ二人とも。そんな、たまたまだし」
「子供が謙遜するな、リイル! 助けようとしたその気持ちはたまたまじゃなくリイルの心そのものだろう。父さんはその心意気が一番偉いと思ってるぞ!」
「シュターク……あなたと一緒にダンジョンに潜っていた頃のことを思い出しちゃった。迷い込んだ新人冒険者を助けるって言ってモンスターの群れに突撃していったあの背中……リイルちゃんは、やっぱりパパの子供ね!」
そんなことがあったのか。シュターク父さんもやる男だったんだな。
そして、昔を思い出しながら語る二人が、僕を見る目は誇らしげだ。
やっぱり、あのとき立ち向かってよかった。
「はぁ……それにしても今でもありありと思い出せるわ。あの時のシュターク、格好よかった……」
「その後、傷ついた新人冒険者を苦手な回復魔法で治そうと必死に頑張るサリアの姿も、美しかったぞ……」
あれ? 目線が俺からお互いに移ってるんだが?
「サリア❤」
「シュターク❤」
あ、なるほどこのパターンね。
「まあ、家族の仲がよくていいことだな、うん」
いちゃいちゃするサリア母さんととシュターク父さんを微笑ましい目で見る僕であったのだった。
それから一週間ほど経ち、神官がグリーンティアを発つ日が来た。
また別の町に行き、研究と啓蒙を行うらしい。
多くの人から見送られて宿泊所を出た彼は、村に一つだけある街道の入り口にいた僕を見つけると、出る前にこちらに向かってきた。
「よかった、もう一度君とは話したいと思っていたんだ」
「僕も挨拶しておかないとって思ってました。ところで、馬車とかないんですか? 徒歩で?」
「これは修行でもあるからね。心身を鍛えるために。……リイル君」
神官は人差し指を僕の頭に向ける。
ぽうっと指先に灯りがともり、神官は首をゆっくりと縦に振った。
「やはり思った通りか。失礼だが情報の神イトスの魔法、鑑定を使わせてもらった。『使える魔法や天然魔道、その習熟度を知ることができる』という効果の魔法……なのだが、私に来た情報では、君はなんの魔法も使えるとなっていない」
「えーと……ということは僕のあの力は――」
「魔法ではない……それをもっと超えたものということになる」
じゃあいったい、なんなんだろう。
神官が前に言っていたように、本当に神の力そのものを使えるんだろうか?
だとしたら、なんで僕にそんな力が?
「そうだな、理由は不思議だ。だが一つだけ考えられることがあるとするならそれは――君を神様達が愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛しすぎているから――かな」
……………………。
えっ、この人ってそういうこと言うキャラだったの!?
「びっくりしてるみたいだね」
「はい。いろんな意味で」
「大事なのは愛ってことさ。君に気づかされたよ。これからも神の愛を大切に……と、神官らしいことも言っておかないとね。それじゃ!」
神官はキメ顔でそう言うと、街道を歩いて行った。
と、思ったら三歩歩いたところで振り返る。
「そうだ、まだ君には名乗っていなかったね。私はファティオ=エイドス。また君とは会いたいものだ。もちろん、次は娘も一緒にね!」
そう言って、神官――ファティオは村を去って行った。
色々謎は残ってるし、神官は意外とお茶目なところがある人だったけど、でもとにかく。
「よかった、僕にこの力があって」
神様の力のおかげで何回も何回も助かってるもんな。
「ありがとうアスクレピオス様、アトラス様、ワーユ様」
僕は小さな声でつぶやき、村へと戻っていった。
*****
「きゃーーー!! 聞いた聞いた!? ワーユちゃん! リイル君がアスクレピオス様、ありがとうだって!」
「そんなにわめかなくても聞こえてるわよ、アスクレピオス。というか私の名前も呼んでたし。しかも一番最後……つまりトリにね! 一番愛してるって証明よこれは。それに、私が一番最初に力をあげたんだし! つまり、リイル君を一番愛してるのもわたしってことよ!」
神官ファティオとリイル=シュタークが別れの手を振っていたのと同時刻。
白いローブを着た柔和な女性と、風のローブを着た勝ち気な女性が、神聖な空間で張り合っていた。
彼女たちが目を向ける先では宙に浮かぶ鏡面が、一つの人間の村の様子を、一人の少年のあどけない笑顔を、ありありと映している――。
*****
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます