第4話 地神アトラスの愛 2

「サリアおばさん! 大変大変! 大変だよー!」


 メイはゼルーク家の錬金術のアトリエに飛び込んだ。

 いろんな道具や薬品が置いてある錬金術のアトリエのドアが開くと、むわ~んとむせかえるような甘い香りが広がる。


「どうしたのメイちゃん、そんなに慌てて。あとサリアお姉さんね」

「アッ、ハイ、サリアお姉さん。……ってそんな場合じゃないよ! リイル君がすごいの! すっごいの! ね!? リイル君」


 メイの後ろでぽてんと突っ立っていた僕に、メイが勢いよく振り返ってくる。

 サリアお姉さん……じゃなくてサリア母さんも薬草を片手に持ったまま僕に目を向ける。


「どうしたの~リイルちゃん? メイちゃんをそんなに驚かせて」

「土がすごいの!」


 メイが早口で答える。


「土が?」

「土がクッションになって転びそうになってお昼寝して――」


 慌てつつもメイがさっきあった僕が土の魔法?らしき力を使ったことをサリア母さんに説明する。

 サリア母さんはちょっと驚きつつも、話を聞き終えると納得したように腕組みして頷いた。

 

「あれ? サリアお姉さん……あんまり驚いてない?」

「前にもあったのよ。リイルちゃんが魔法のような力を発揮したこと。あれはもっとち~~ちゃくて、ハイハイもうまくできないくらいの頃だったわ」

「ええ!? ハイハイもできないときに魔法を!?」

「ええ、そう。風をぴゅーって吹かせて本を読んだり。ね、リイルちゃん」


 膝を曲げてサリア母さんが「ねー」と目線をあわせて言う。


「うん。ぴゅーって」


 と僕は答える。

 メイもいい子だし、隠す必要ないだろう。悪魔のことは絶対言わない子だ。


 そのメイは、口をぽかんと開けてさらに驚いている。


「ぴゅーって、そんな簡単なことなの?」


 そう言われるので、ぴゅーっと風を起こしてみた。

 コツはもうわかっている。

 小さい手をあげて、メイの頭に狙いをつけて……風よ吹け!


 僕の手のひらがぽうっと光る。

 同時に風がふわっと吹き抜け、メイの髪の毛をたなびかせた。


「ぴゃ~~~~~~~!?!?! 本当に風が吹いた! リイル君天才魔道士!? 1歳だよね!? 実は2歳だったりしない!?」

「2歳でも普通魔法使えないわよメイちゃん」

「そそそそうだよね、うん。はぇ~すごいなあリイル君。びっくりというか、びっくりだよ」


 びっくりしすぎてクセが強いだけじゃなくさらに某進次○構文みたいになってるよメイちゃん。


 でも僕もびっくりだ。風だけじゃなく地の魔法まで使えるなんて。しかもあのとき、地面が動いたらいいなあとか思ってなかったけど、オートで発動した。

 僕の身に危険が迫ったらオートで守ってくれるなんて、すごくない?


 これがあれば、外出しても安心。1歳児でも危険なく外出できる。

 この世界のこととか、この力のこととか、色々試したかったけど乳幼児の体じゃまだ早いかなと思ってたけど、遠慮なくやれそうだ。


 ふふふ、これで剣と魔法の世界を本格的に満喫できるぞ。


 メイとサリア二人から見つめられながら、僕はひそかに決意した。




 二日後、また両親が忙しかったのでメイに面倒を見てもらうことになり、外に手を引かれて遊びに行った。


 この前と同じ空き地で、てとてととメイと追いかけっこをしたりして遊んでいる。


 だが今日はただ遊ぶだけじゃない。

 地の力で試してみたいことがあるんだ。


 おぼつかない足取りで歩く僕をメイが追いかけてくる。

 そこで僕は、この二日間考えていた魔法の使い方を、実践してみた。


 よちよち歩きでメイを追いかける僕の足が地面につく瞬間――地の力発動!


 自分が歩くのにあわせて、踏みしめる大地を変化させる!

 地面を踏みしめる時、地面をバネのように反発させ、パワーを倍増させる。

 そして勢いよく地面を蹴って走り、着地する時には地面を変化させて、足に優しくフィットし足だけでなく地面に僕の体を分散して支えさせるようにする。


 これを繰り返すことで、転ばずに高速で走ることが可能!


  ――――――さーっ!


「つか、まーえた!」

「……え?」


 僕は十数メートル離れたところでこっちにおいでーと手を叩いていたメイに、あっという間に距離をつめてタッチした。

 

 計画は成功だ!


 普通によちよち歩きするだけより5倍以上のスピードで走ることができた。

 これを使えば相当自由に歩き回れる。

 乳幼児ボディを十分に補うことができるぞ。


「ええと、あれ? 速くない? リイル君。私より?」

「つち、の、ちからだ、よ」


 メイは目をぱちくりさせて満足げな僕の目を見て、足を見て、地面を見る。

 そしてもう一度顔を見る。


「ぴや~~~~!?!?!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る