第3話 人形の怪3

 私は、車のトランクルームから、得物を取り出す。

 私の得物は、薙刀。祖母から教わり引き継いだ大切な武器だ。


「南方先輩……なんか、役所の中にいる時とは、雰囲気違うね」


 薙刀を構える私に、柳田が「はぁ~」と感嘆の声を漏らす。

 当然だ。

 役所の中は、遠野課長の張った結界で安全。いわば、あの方の懐の内。

 だが、今は怪異の事件現場の傍。

 いつなんどき、不意を突かれるか分からないのだ。


「柳田の武器は?」

「ねぇっす」

「は? 無い?」


 怪異相手で素手で戦うって言うのだろうか? 大丈夫か?

 ここでコイツが怪我をしてしまえば、私が遠野課長に叱られてしまう。

 きっと呼び出されて、「南方……先輩としてまだまだ未熟だな」「申し訳ありません、遠野課長」「そんなお前にはお仕置きが必要だな」「お、お仕置きですか?」


 いいな。それ。

 褒められて、なでなでルートのことばかり考えていたが、 そのルートも、悪くない。フッフッフッ……。


「キモチワルイッス……先輩」


 声に出しては言っていないはずだが、柳田が怯えている。


「失礼。まあ、いい。足だけは引っ張るなよ」

「ウッス!! ところで、先輩。肝心の人形……どうやって見つけるんだ?」


 それは、私に任せていれば良い。

 私は、スーツのポケットから、小さな宝石を取り出しだ。

 

 一月の誕生石。ガーネット。


「出でよ!! 一月の妖!!」


 私の掛け声で、管狐が宝石から飛び出した。

 くるりんと白く小さな体を空中で回転させて、警察の警戒線をくぐり屋敷の庭へと飛んでいった。


「妖使い?」


 そう。私の祖母は、妖を宝石でつないだのだ。一月から十二月まで、十二種類の妖が、宝石を媒体にして召喚できる。

 それを受け継いだ私。由緒正しき霊能一族の末裔なのだ。


「はぇ~。すげえな」

「もっと褒めるが良い! 新人!! てか、ゆっくりはしている場合ではない。私達は私達で、庭の調査だ」


 私達は、警備している警官に挨拶して庭に入る。

 妖課の腕章を見て、警官の眉間に深い深い皺を刻む。


「現場、荒らさないでくださいよ」


 管狐すら視えない警官たち。私達が何をしているのか、見当もつかないのだろう。

 ただ現場にフラフラと現れて、何やら意味の分からないことをして現場を荒らして帰る胡散臭い奴ら。警察の間では、そんな評判になっているのだろう。


 おおよそ、怪異の現れたという現場で警察と鉢合わせて、良いかをされた試しがない。


 広い庭。家族が豊かな生活を送っていたのが分かる。

 確か……この家の主人が、テレビ局のプロデューサーだったか。

 華やかな仕事をしていれば、それだけ人の「気」と関わる。そして、それだけ、「気」の影響を受けて、恨みも買いやすくなる。


 点々と感じるのは、確かに人の憎しみの痕跡。

 人形に込められた物かもしれない。


「うわっ! 臭い!」


 柳田が鼻を抑える。

 匂いに敏感なのか?

 

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