第53話 これで主人公組と仲良くなれたな! ヨシ!

 ~次の日~


 学校生活。

 学生なら誰しも、一度はその生活で悩むものだ。


 クラスでの自分の立ち位置、気になるあの子と自分の距離。


 誰が誰と付き合っているか。

 誰が誰と友達なのか。

 今、クラスで流行っているものは?

 カースト上位のSNSをフォローしているか、もしくはフォローされているか。

 などなど。


 今、俺は気にしている。

 自分がクラスメイトにどのような奴と思われているのかを。


「お、おい、見ろよ、アイツ……」

「ふ、普通に授業に出てきたぞ」

「あいつ、実はめちゃくちゃやばい奴なんじゃ……」

「バカ、アンスバーナ先生が言ってたろ? あれはたまたまアキ君のギフトが暴走しただけだって……」

「ま、まあ、確かに……なんか、急にアキ君が吹っ飛んだんだもんな」



 ひそひそ、ひそひそ、ひっそおおお。


 教室は今、俺への視線と噂で満たされている。


 注目、恐れ、警戒。

 モブだった頃の俺にはなかった他者からの興味、関心。


 う~む、これじゃないんだよな。

 俺が欲しいのは。

 有象無象からの評価が欲しいんじゃない。

 俺が思う悪役ってのはこう……なんかもっと、なんか……。



「……なんか違うな」


「おい、誰かなんか話しかけてみろよ」

「やだよ、あいつ、やっぱなんか普通じゃないって」

「……俺、行ってくるよ」

「え。り、律!?」

「わ、私も行く!」

「……私も」

「え、ちょ、紬ちゃんにあかねちゃん、マジ!?」


 なにやら周囲が騒がしい。


 え~と次の授業は確か、魔法史の授業か。

 大事な授業だ、ホワイト達とやる悪役陰謀真の歴史ムーブにーー。



「あの、今、ちょっといいかな、カスタニ、君」

「「……」」


「ん?」


 誰かが話しかけてきた。

 お、イケメンリア充の七咲君だ。

 それに美少女2人。リア充がよ。


「ごめん、休憩時間中に……えっと、その、昨日の事なんだけど」

「昨日?」

「ッ……悪い、言いにくい事だし、聞かれたくないよな……でも、クラス全員、きになってる事なんだ」


 あれ、なんか七咲君、顔色が悪いな。

 一応クラスメイトで主人公候補の1人だし、なるべく仲良くはしておきたい。

 フォローしておくか。

 えっと、こういう時は笑顔だよな、笑顔。


「何か俺に用事?」


 スマイル!


「ひう……」

「……笑って……どういう事なの」


 七咲君にくっついている美少女2人が固まる。


「……2人共、皆の所へ行ってな」

「や、だよ、律だけにしてらんない」

「……一緒にいよう、律」


 うん? なんか皆覚悟を決めたような顔だ。

 う~む、リア充はリア充でいろいろあるのかもしれない……。

 まあ、とにかく好印象を持たれる為に笑顔、笑顔。


「……カスタニ君、昨日のアンスバーナ先生の授業、アキと組手した時の事なんだけど」

「ああ、あれ、か」

「うん……あれ。カスタニ君、あれは本当に、アキ君のギフトが暴走しただけ、なのか?」


 お、やっぱりその認識か。

 良かった、よかった、術式はきちんと発動していたらしい。

 遠雷雷鳴麒麟化呪法の速度はまさに雷速。


 あの時、アキ君にカウンター合わせてぶん殴った後に、すぐさま元の位置に戻ったので皆には勝手にアキ君が吹っ飛んだように見えたんだな。


 ふふふ、正体隠して悪役プレイ。

 これの醍醐味はやはり、全てを裏切ったその瞬間の周りの反応にこそある。


『あ~、あいつっすか? いや、普段からちょっと浮いてて、いつかやると思ってました』

 みたいなのじゃなくて、

『彼が、まさかそんな信じられません、何かの間違いじゃないんですか?』

 みたいな反応が理想だぜ。



「カスタニ君、今まで話しかけたり、絡みがなかったりする人間が今更声を掛けたりするのはおかしいと思う、でも、俺はこのクラスが好きだ」


 うん?


「転生勇者という縁を、大事にしたい。だから、君の事も知りたいんだ。君からしたら、今更だって思うだろうし、都合の良い奴って思われるにきまってるけど」


「へえ」


 ほんほん、それで?


「……だから、あの時、アキと何を話していたんだ? もし、何かカスタニ君とアキの間にわだかまりがあるのなら、俺、何か手伝えないかな」


 手伝う? 

 何を?

 アキ君とは多分、もうあれで友情イベント終わったし、スノウさんの好感度稼ぎは……まあおいおい……


 あ! ま、まさか、七咲君、もしかして……俺をクラスに馴染ませようとしてくれているのか?


 え、良い人じゃん。

 まるでスノウさんみたい……。

 何かの本で読んだ事あるぞ。

 良い人間関係は、自分の気持ちや感じた事を素直に言葉に出す事が大事だって。


 よし、早速やってみよう。


「まるでスノウ・フォン・ウントツー・リヒテ、だな」


「……なんで、スノウさんの名前が出てくるんだ?」


「少し、似ている気がするからだよ、七咲君」


「……俺と、スノウさんが? カスタニ君、君は……」


 お! なんかいい感じの反応!!

 いいんでないの!

 なんか、七咲君の傍の美少女2人の顔が暗くなっていってる気がするけど、たぶん気のせいだな、ヨシ!


 ふむ、七咲君となんかいい感じで交流できている気がするぞ。

 彼のような皆の中心にいる人物と仲良くなれば悪役プレイのスパイスになるかも。



「七咲君、ありがとう。気にかけてくれて。俺、あまり人と関わるの得意じゃないからさ。なんか変な事言ってるかもしれないけれど」


「……いや、俺の方こそ。カスタニ君の事を少し、誤解してたかもしれない。何を考えているかわからないっていうかさ。……えっと、もう1つ聞いてもいいかな」


「うん?」


「……スノウさんと、仲が良いよな。何か、こう、もともと知り合いだったりするのか?」


 しん。

 気付けばクラス中が、静かになっていた。

 さっきまであったざわつきが消えている。

 なんで?


「カスタニ君?」


「あ、ああ、ごめん。スノウさんと仲が、良い? そう見えるのか?」


「……少なくとも、俺には」


 七咲君の声がワントーン低くなった、ような気がする。

 おいおいおい、マジかよ。

 他人から見てそう見えるのか、ふふふふ、スノウさんの好感度UP作業は順調らしい。

 だが、ここは謙虚に行こう。


「気のせいだよ、彼女は誰にでも優しい。俺みたいな家無しに、気を遣ってくれてるだけだと思う」


「……そう、か。少し、カスタニ君が、羨ましい、かな」


「うん?」


「いや、なんでもないんだ。ごめん、急に声かけたりして。これからも、その、たまに話しかけてもいいかな」


「喜んで、友達、少ないんだ、俺」


 あ、しまった。

 弱みを見せるような事言っちゃった。


「あれ、普通の笑い方も出来るんだ」

「……ふうん」

「えっちじゃん」

「あれ、意外と……」

「なんか、七咲と普通に会話してたな……」



 ああ、まずい、クラスメイトの評価落ちたかもしれん。

 ……まあ、いいか、切り替えていこう。



「あの、カスタニ君」


「え?」


 考え事をしていたら、まだ七咲君が俺に話しかけてきた。



「もし、良かったら、明日から始まる訓練、――ダンジョン攻略の授業さ、俺達と――」


 七咲君が声を絞って。



 がらら。


 扉が開いた。


「あ、すみません、カスタニさん、いますよね?」


 クラスの全員がその声に注目する。

 スノウさんだ。

 そういえばさっきの授業、魔法道具作成術の授業いなかったよな。


「あ、いた」


 お姫様のくせに割としっかりした足取りで、スノウさんがこっちへ歩んでくる。

 のっし、のっし。力強い。


「あ、スノウさん……」


 七咲君がなんか固まった。

 どしたん?


「こんにちは、七咲君。? 珍しいですね、カスタニさんと一緒にいるなんて」


「あ、ああ、少し、カスタニ君と話したくて」


 おや? 七咲君の顔が若干赤い。

 風邪、か?


「……スノウさ~ん、律に何か用事な感じ?」


 お、七咲君の友達のふわふわ天然系美少女が口を開いたぞ。

 すげえニコニコしてる。

 スノウさん、女子にも人気あるんか。

 さすがだな。


「花江さん? いえ、七咲君には特にありませんよ? カスタニさんとお話してるの、珍しいって思っただけです」


「……そ、そっか」


 七咲君が少しがっかりしてるように見える?

 う~む、まあ、気のせいか。


「そうなんだ~だって、律。スノウさんは、カスタニ君に用事があるんだって! 邪魔しちゃいけないからあっちいこ!」

「……それがいい。カスタニ君ごめんね、急に」


「ん? ああ、いえいえ」


 あ、なんかクール系美少女が声をかけてくれた。

 ふはは、もしかしたら俺、少しクラスの仲間に受け入れてもらえたのかもしれん。

 くゥ~裏切りてえ~その信頼~。


「あ、ちょ、二人とも……待っ」

「さ、律、邪魔しちゃだめだめ」

「……明日のダンジョン攻略授業の打ち合わせ、しよ、律」


 七咲君が美少女2人に引きずられていく……。

 ラブコメじゃん、七咲律、只者じゃねえ……。


「じゃあ、スノウさんごゆっくり~」

「……カスタニ君も、がんばってね」


「……意外と言ったら失礼ですね。知りませんでした、カスタニさん、人気があるんですね」


「え? 俺が?」


「はい。知らないうちに花江さんや朝桐さんとお話していらっしゃいました」


 花江さんに朝桐さん?


 ああ、七咲君の美少女2人、ふわふわ系とクール系の2人の事か。


「お話ってほどの事じゃないですけ――」

「何話してたんですか?」


 あれ、なんか食い気味だな?

 いつもなんかおっとりしとやかなスノウさんらしくないような。


《……プレイヤー、ほんと悪い事は言わないので正直に端的に答えるべきです》


 ナビちゃん……! 

 なんだい、その深刻な声色は。

 まあいいや。言う通りにすとこ。


「七咲君が話しかけてくれただけだよ、スノウさん」

「……でも、朝桐さんはカスタニさん個人に話しかけていたような気がします」


 ??

 なんか会話おかしくない?

 別にそんな事スノウさんに関係ないのに。


《プレイヤーそれマジで言葉にしないでくださいね、マジで》


 お、おう……どしたのナビちゃん、怖いよ??


「いや、そんな事もないような」

「ありますよ? 今までも朝桐さん、学校でもたまにカスタニさんに話しかけたりしてましたし」

「え、そうだっけ? なんでスノウさんがそんなこと知ってるの?」

「……それで、七咲君達となんの話を? いえ、プライバシーですからもし、言いにくければ別にいいのですが」


 ん? んん?

 おかしいぞ。

 俺の高いIQとホワイト達の管理による女心マスターとしての勘が言っている。

 スノウさん、なんか少し機嫌が悪い??


《あ、正解》


 ナビもなんか言ってる。

 う~ん、こそっと一瞬呪力眼使って、と。

 あ、若干魔力に乱れがある。なんでやねん。


《……正直に七咲律に言われた事をそのままお伝えください、それで終わります》


 ぷひ~ナビちゃんや、それはちょっと安直すぎね?

 そもそもスノウさんが少し不機嫌なのに、俺は別に関係なくね?


《良いから》


 なんだろう、ナビちゃんがなんか厳しい気がする。

 まあいいや。


「いえ、別にカスタニさんが言いにくければ別にいいんです。貴方に女性の友達ができるのはとても素晴らしい事だと思いますし。ただ、その、個人的には少しどうかな、と。もしかしたら昨日の近接魔法戦闘術の授業で目立った結果なのかと思うと個人的には少し首を傾げたくなってしまいます、今まで見向きもしなかったのに少し才能の片りんを魅せただけで昨日の今日で態度が変わるのはいかがなものかと安易なクラスメイトの交流は個人的には――」


「スノウさんと仲良いよねって言われたんです。……その、迷惑、でしたか?」


「――素晴らしい事ですね、クラスメイトと交流する事はきっとカスタニさんにとって非常に有意な事かと。私もうれしいです」


 おお、なんか一瞬で魔力の乱れがきえた。

 機嫌が良いぞ?


《せやろがい》


 ナビちゃんがなぜかドヤ顔してる気がした。

 いや、顔見た事ないけど。

 なんかかわいい奴な気がする。


《……そういう所ですよ、プレイヤー》


「あ、こほん、そうだった、カスタニさん、放課後、少しお時間よろしいですか?」

「放課後?」


 スノウさんが咳払いをする。

 放課後か、学園を少し抜け出して山賊狩りでもしに行こうかと思っていたけど……。


「はい、アンスバーナ先生がカスタニさんと一緒に教師塔にきてほしいと。……それと」


 スノウさんが一呼吸置いて。


「アキが貴方に一言、謝りたいとの事、でした」



 アキ君が?

 俺に?


「なんで????」


 う~む、学校生活は難しいなァ。

 まあ、ヨシ。行ってみるか。

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