第51話 魔法学院の1日・近接魔法戦闘術
魔法学院の1日は基本的に現代の高校生とあまり変わりはない。
午前中、授業。お昼休憩、午後授業。
だいたい午前の授業は座学が多い。
そして、午後の授業は――。
「諸君、静粛に。本日から貴公達の近接魔法戦闘術の担当をするアンスバーナ一級魔法使いだ。帝国に名高き預言の子達の成長の一助になれる事、光栄に思う」
魔法学院は帝都の近郊に広大な土地を構える1つの居住地のようなものだ。
今、俺がいる場所は第3訓練場。
ドーム状の建物の中は、現代で言うところの屋外野球場みたいになっている。
「ホルガ村では基礎的な魔力の扱いを教会から施されていると聞く。吾輩の授業では、それを更に発展させた魔力を操り、戦闘に流用する術を学んでいくものである」
俺達生徒は、制服ではなく戦闘服に着替えていた。
男は動きやすい半そで半ズボン。
女はスリットの入ったワンピースとスポーツウェアが一緒になったような服。
……異世界ファンタジーなのに妙に現代チックな衣装だな。
《帝国は歴史上、多くの転生勇者を擁していた国です。別の世界の文化や技術による影響を多く受けているようですね》
マジ? 異世界知識無双じゃねえか。
……歴史の影から異なる世界の知識や文化で世界を牛耳る……。
知性派悪役プレイ! そういうのもあるのか! 俺もしたい。
《……人には向き不向きがあります。プレイヤー、貴方の王の故は知識ではなく――》
よし、時間あるときになんかできそうな知識無双プレイ考えよ!
ふふふ、楽しみだ。
《……》
ナビが静かになってしまった。どうしたんだろう。
おっと、いけない授業に集中しなければ。
俺達、転生勇者クラスは今、まさに体育の授業みたいに整列させられている所だが……。
「さて……ここで1つ問題だ。魔力の使い道は大きく分けて2つ。まずは魔法の行使……いくつかの小節に分かれた呪文をトリガーに、使用者の望む事象を世界に引き寄せる技術。この時の魔法の使い道はつまり、魔法行使の燃料という訳だが……もう1つ、魔力には使い道がある訳だが、わかる者はいるかね?」
おお、すげえ。
異世界魔法教育授業……!
なん、か……何言ってるかはよくわかんねえけどなんかすげえぞ!
それにしてもあの先生、すげえ個性的な服装だな。
魔法使いが来てそうなローブ、そして頭には騎士兜……。
なんか目の意匠が4つもついている。
……いかん、かなり好みのデザインだ、只者じゃないかもしれん。
それにしても、先生の隣に置いてあるあのデカい岩……すげえな七色に輝いているぞ。
《迷宮で産出される魔力石の塊ですね。あれほどの大きなであれば魔導機関車を一か月は走らせる魔力が得られそうです、しかし、どうやってこの場所まで運んだのでしょうか? 硬度もさながら重さもあのサイズだと数トンを超えそうですが》
ほほーん。
さすが魔法学園、なんかすげえや。
騎士兜ローブセンセイ事、アンスバーナ先生の質問に手を挙げた奴がいる。
お、正統派イケメンリア充の七咲君だ。
「はい、先生」
「ふむ……君は、ミスターナナサキか、勇者としての基礎教育で非常に優秀だったと聞いている」
「光栄です、先生。そして先ほどの答えですが、魔力のもう1つの使い道は、身体能力の向上です」
「正解だ、君の所属寮に……おっと、そういえば諸君ら転生勇者はまだ寮分けの儀式が終わっていなかったな。君の名前は覚えておく事にしよう」
さすがリア充、普通に異世界でも優秀だ。
それにしても所属寮?
ふむ、入学式は新しいスキルツリーの構築考えていたからあんまそういうの聞いてなかったな。どうしよ。
「さて、ミスターナナサキが言ったように、魔力の大きな使い道として魔法の行使以外にも身体能力の向上に使う事が出来る。細かな仕組みはまた次の座学の授業で説明するが、……百聞は一見に如かず、という所か、一つ魔力による肉体強化がどのようなものなのかを実演しよう」
そういったアンスバーナ先生はおもむろに拳を握る。
かと思えば、先生のすぐ隣に置いてあった七色に輝く大岩――魔力鉱石の大塊に。
「はっ!!!!」
「「「「「「「!!??」」」」」
ガキン!!
金属と金属がぶつかったような音だ。
アンスバーナ先生の拳がその大塊に突き刺さり、そして。
ビシッ……メキキ!!
あっという間に亀裂が入り、見上げるような大岩がバラバラに砕けた。
「す、げえ……」
「な、なにが起きたんだ?」
「ぎ、ギフトも使わず、魔力強化だけで?」
「い、一級魔法使いって化け物だらけってマジだったんだ」
生徒達が騒めく。
口々に先生の魔力強化のすごさを称えて。
「この通り。脆弱な人間の肉体でも、竜の牙を通さぬ魔力鉱石を砕く事も可能となる……む?」
ほう! ほう! ほう!
あの先生、器用な事をしていたな!
魔力による肉体強化で拳を覆って、更に岩に突き入れた拳から魔力を放出。
内側から爆破させたみたいに砕きやがった。
面白い、魔力って色々な使い道があるんだなあ。
「さて、諸君にはこれと同じ事を……と言いたい所だがそれはまだ難しいだろう。今日の近接魔法戦闘術は、この破片を魔力強化した肉体で握りつぶす、というのはどうだろうか」
「「「「「え……」」」」」
「ふふ、若人よ。そう恐れるな。諸君は既に魔力操作の初歩に立っている。そう難しい事でもないだろう。課題を終えた者は、そうだな……早く終わった者から魔力強化した状態での実践式の組手を教えよう」
先生の指示に従い、生徒達が地面に落ちている魔鉱石の破片を手にする。
破片はすべて野球ボールくらいの大きさ、均等に割れている。
恐らく偶然ではない、先生の技量によるものだろう。
「ぐ、ぎぎぎ」
「お。おい、ぴくりともしないんだけど」
「こ、こんなの無理だって」
「ギフトでも使わないとできないだろ」
どうやら皆苦戦しているらしい。
俺も、ちょっとやってみようかな、出来るかな。
石を拾って、と。
「おい、見ろよ。あの家無し、絶対無理だぜ」
「魔力もないのになんで授業に出てんだよ」
「見ろよ、魔力なしが魔法使いの真似してら」
陰口が聞こえてくる。
1.5軍とか2軍の連中だ。
人の事より、自分の事を気にしたらいいのに。
……うーん、モブプレイならここでは目立たないのが定石だが。
今はスノウさんという主人公の興味を引く時期だ。
なんとかあまり目立たず、かついい感じにスノウさんの興味を惹ける方法はないだろうか。
めきき。
「あ、やべ」
ぐしゃり。
つい、考え事してたら思わず握りしめちゃってた。
おおー……畑仕事のおかげか?
なんかアルミ缶くらいの硬さだったな。
「……え?」
「お。おい、今、あいつ、なんか普通に握りつぶしてないか?」
「いや、いや、ありえないだろ。まだ誰も成功してないのに魔力もない奴がさ」
「嘘……あの家無しが破片を握りつぶして?」
いかん、なんか周りがざわざわしだした。
ごまかす為に、別の魔鉱石を拾って――。
「え!! 凄い! カスタニさん、もう成功したんですか!?」
「あ」
ぴょこん! 唐突に人の波を割って現れたのは俺の主人公、スノウさん。
うーん、気づいてもらえたのはありがたいが、ちょい目立ちが過ぎるな……。
「すごい、どうやったんですか? 全然、ワタシ、力入れてもびくともしなくて、教えてください!」
「あーその、いや、多分、たまたまです。偶然というか……こう、拾った石が脆かったみたいな……」
「あ、そ、そうなんですか? うーん、でも、せっかくだからカスタニさん、こっちで一緒にやりませんか? アキも苦戦して――」
ばききき、ばきききききき。
「おおー! すげえ!」
「アキ君はやったぞ!」
「さすが辺境伯家の騎士!」
「S級ギフトは伊達じゃねえ!」
歓声。
そして、笑顔のまま人の波を割って現れる高身長金髪イケメン。
アキ君だ。
お! 凄い!
彼の手の中に割れた魔鉱石の破片が……なんか、血がついている気がするけど、大丈夫か? 息も乱れてる気が……。
「は、は……スノウ~見ておくれよ。割れたよ、魔鉱石~。おや、カスタニ君は……うん?」
アキ君が俺の手のひらを見て固まる。
やべ、なんか握ってた破片が粉みたいに潰れて。
「粉……いや、ありえないか。なんか、さっき聞こえたけど、まぐれでも魔鉱石、割れたんだっけ? いいね、それじゃあ、俺とキミだけでも次の授業に向かえる訳だ」
アキ君が、なんかアンスバーナ先生に目配せを。
「……そうであるな。カスタニ殿とアキ殿、両方とも吾輩は魔鉱石を握りつぶしたのを確認した。希望するなら、次の授業、近接魔法戦闘術の実践に移るといい」
先生が指を鳴らす。
すると芝生の上に、正方形の石が現れる。
まるで、格闘技のリングのような。
「まずは感覚を掴む為に、実力の拮抗している者同士での組手。魔法使用禁止、魔力による肉体強化のみでの徒手空拳の試合が次の領域である」
「了解です~先生、カスタニ君、よろしくね~、それにしても凄い才能じゃないか~、魔力無しで魔鉱石を握りつぶすなんて。よほど脆い破片を当てたんだね~運がいいんだね~」
ずいっと俺を見下してくるアキ君。
笑顔だ。
仲良くなれるかもしれない!
スノウさんとも昔からの知り合いっぽいし!
「え、えっと、アキ? く、組手はちょっと、カスタニさんには危ないんじゃ……」
「何言ってるんだい、スノウ~、彼は優秀な男だ。……男嫌いのキミがこんなになつくほどにね」
「あ、アキ……?」
スノウさんの肩をぽんぽん叩いたアキ君が俺に向き直る。
「さあ、授業だ。始めようよ、カスタニ君。俺とペアを組んで、組手の授業をさ~……逃げないよな、スノウの前でさ」
「……!」
アキ君が俺にすれ違い様、小声で囁いた。
そのまま彼は闘技場に立つ。
「「「「「「……」」」」」」
他のクラスメイト達もやけに静かだ。
全員がこっちに注目している。
「あ、あの、カスタニさん、その、ごめんなさい、アキがなぜか、貴方に対して少し当たりが強くて……わ、ワタシ、やっぱり止めて――」
「スノウさん、問題ないです」
「えっ?」
スノウさんに笑いかけると、彼女はぱっと目を逸らしてしまった。
しまった、ブサイクすぎたかもしれん。
まあいいや、俺はアキ君の後を追い、闘技場へ。
ふ、わかったぜ、アキ君。
これは、試練だ。
スノウさんというトップカーストリアルお姫様のグループに入る為の試練、て奴だな?
「……へえ、逃げないのか」
「逃げてほしかったのか?」
「……いい度胸じゃん」
目の前に立つアキ君の身体から黒い魔力が漏れだす。
お? よく考えたらこれ、ちょっと悪役イベントっぽいか?
お姫様を守る騎士との一騎打ちの予行演習シチュかもしれん。
それに。
「……スノウはさ、特別なんだ。それでいて純粋で、箱入りでさ。だからちょっと勘違いしてるのかな。君がどんな人間なのか、理解してないみたいだ」
友達いないから詳しくは知らんけど、男友達ってのはこうして争った後に出来るとか聞いた事あるぞ!
ふむ、スノウさんとも仲良くなる、ついでに男友達もできるかも。
おいおいおいおい、いずれ来る裏切りの瞬間が二倍美味しくなるじゃん。
「だから、ここで少し、現実って奴を教えてあげるよ。スノウにも……お前にも」
「楽しみだ。アキ君」
「……その呼び方、絶対にやめてもらう」
向き合う。
アンスバーナ先生は少し、迷うようなしぐさをした後、なぜかこっちに。
「……カスタニ殿、くれぐれも、手加減のほどをお忘れずに」
「……ほう」
……この先生、俺の想像以上に強いのかもしれない。
先生が、リングの中央に立つ。
手を上げ、高らかに。
「近接魔法戦闘術、魔法組手――はじめ」
楽しいかもしれん、魔法学校生活!
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