第50話 お昼休憩のラブコメ《スノウコミュ》


「さっきのイローナ先生のモンスターの授業、あれって実は、ライフ・フィールドの設定資料集と同じ内容って気付きましたか?」


「え、マジですか?」


「もー、カスタニ君は確か、ライフ・フィールドでPVP専門でしたっけ? あまり図書館とか行かなかったタイプですね」


「あー、図書館とかあったすね! あの王都のでかい奴とか」


「そうですそうです! 王都ボードランの神聖図書館です。懐かしいなあ、あそこで1日中過ごした事もあるんです」


「ほへー」


 この帝都魔法学院は、この世界において人類の魔法教育の最先端の場所、らしい。

 今、俺とスノウさんがいる食堂もなんか凄い感じだ。


 まるで中世の城のような豪華さ。


 高い天井は吹き抜けになり、燭台はおそらくなんらかの魔法により支えもないのに浮かんでいる。


 給仕は召喚魔法かそれともゴーレムか、木で出来たかかしのような人形が配膳などを行っていた。


「ふふっ、やっぱり、ここ凄いですよね。ホルガ村では見る事の出来なかったものがたくさんあります」


「なんかここも、ライフ・フィールドに出てきそうな場所ですよね」


「よくぞ気づいてくれました! カスタニさん! そう、ここもゲームに出てくる古竜学院と似ているんです! ……前の世界の事を覚えている人でライフ・フィールドに詳しい方、いないのでうれしいな」


「あー確か、同じ学校から転移した人達、ほとんど記憶がないんでしたっけ」


「はい、その通りです。一部の人間を除いて、預言の子と呼ばれる私達、高校のメンバー達は日本の事を覚えていません」


「そう、ですか……だったら……えっと、何故、俺はこんなにも周りからメンチ斬られているんでしょうか?」


「???」


 スノウさんが不思議そうにこくんと首を傾げる。

 彼女の長い金の髪、二つ房に垂れる髪も一緒に吊られて垂れる。


 顔の良いリアルお姫様だとどんな仕草でも様になるな。

 さすが俺のプランB候補。

 だが……。


「あいつ、なんなの」

「スノウ様と2人きりでお食事……? 家無しの子供が?」

「殺すか」

「待て、今は事を大きくするな」

「貴族どころか、平民ですらない、奴隷階級の者がどうしてこの学園に……」


 食堂から注がれるのは魔力の籠った殺気。

 記憶のないはずのクラスメイト、そして恐らくはこの世界の人間。

 出身問わず、食堂中から向けられる視線。


 記憶がないはずなのにスノウさんはこの世界でもクラスの、いや学院の人気者らしい。


 人間にはそれぞれに振られる役割がある、それはやはり異世界でも変わらないらしい。


「あ、あのカスタニ君? どうしました? 黙り込んで……そ、その、食堂のメニュー、もしかしてお口に合わなかったですか? 貴族寮の生徒と同じものをご用意したのですが……」


 ふむ……。

 良いな、主人公はやはりカリスマがないとな。


「おい、見ろよ、あいつ、スノウ様を無視してるぞ」

「なんであんな奴にスノウ様は……」

「何か弱みを握られているんじゃないか?」

「……噂では辺境伯家が魔法学院にホルガ村の家無しを入学させたらしいぞ」

「どういう事だ? いくらあのリヒテ伯でも魔法学院へのそこまでのコネが?」

「知らないのか? リヒテ伯のご令嬢は今、皇帝の第三王子と――」


 うんうん、スノウさんの役割はやはり……主人公だ。

 いいぞ~悪くない。

 仲良くなりてえ~、そして最高のシチュエーションで正体あかしてぇ~。


「あ、そ、そうだ、このタロイモのサラダ! 美味しいんです、まるで日本のポテトサラダみたいな……は、はい、良かったら!」


「あ、どうも」


ぱくり。

うん、美味い。

マヨネーズのうまみと酸味が柔らかな口当たりの芋にマッチしている。

だが、これは、イモ本来のおいしさあって事。

どこの畑で採れたものだろうか。

土を見てみたい。触れてみたい。



「あ……」


 スノウさんがスプーンを差し出したまま固まっている。

 あ……しまった、ついそのまま食べてしまった。

 ホワイト達と食事するといつもこんな、あーんみたいな感じになるからつい。


「え、えへへ……ご、ごめんなさい、つい……アキや、仲のいいお友達以外の男の方と……あまり、その……食事とかしたことなくて、ですね……は、はしたない事してごめんなさい!」


 顔を真っ赤にしたスノウさんがぴゃーっと言葉を並べる。

 いけね、つい女性のスプーンに口をつけてしまった。


 俺のような陰キャモブにこんな事をされてさぞ気持ち悪い事だろう。

 間接キスなんて恋人がする奴じゃないか。

 ホワイト達は……うーん、まあ、飼いネコちゃんみたいな家族だからヨシ!


「あ、あう……男の人に、あーん、しちゃった……ど、どうしよ、間接……」


 だがまずい、今このタイミングで嫌われるのはまずいぞ。


 ふむ……こう見えて俺はかなり賢い……。

 スノウさんの性格を考慮し、一番響くフォローは……。

 閃いた。



「……申し訳ありません、スノウさん」

「え、カスタニ……さん?」

「……どうやら俺は、何か失礼な事をしてしまったみたいですね。すみません、あまり、誰かと一緒に食事を摂る事に慣れてなくて……」

「あ……そ、うか。貴方はこの世界で、ずっと1人で……」


 ふふふ。効いてる効いてる。

 さらにもう一発……!


「はは……恥ずかしながら、前の世界でも、なんです。友達はもちろん……家族もいなくて。俺こそ何か非常識な事しちゃってたらすみません」


「え……そん、な……」


 まあ、嘘は言っていない。

 両親は早くに事故で亡くなっている。

 親戚を転々として最終的に、国からの補助金やらなんやらで高校で一人暮らしを始めた訳だし。


「スプーン、新しいの貰ってきます!」


よし、紳士的な完全なフォロー! 

もしかしたら俺、バチェラーだったかもしれん。

俺が、席を立とうとして。


「い、いえ! 気にしてません! スプーン、このままで大丈夫です! ……えい!」


そのままスノウさんが俺が咥えたスプーンで自分のサラダを掬い口に入れる。

所作1つとっても、凄く上品だ。



「あ、あう……ほ、本当にしちゃった……味、変わんないな……」


さすがリアル王族。

逆に気を遣わせてしまった。だが、やはりスノウさんには主人公に大事な徳がある。


こんな気持ち悪いモブぼっちの間接キスをあえて平気な振りして我慢してくれるなんて……。


《うわ……女の敵……》


 なんかナビの好感度が下がっていった気がしたけど……。

 悪役マウント取れた気がするからこれもヨシ!

 ふふ、俺が怖いか?


「……す、すみません、スノウさん、お、俺があまり人とかかわるの慣れてないせいで、俺が使ったスプーンなんて使わせちゃって」


「ななな、なにも気にしてません! わ、ワタシ、こう見えて結構、経験豊富なので! お、王族ですし、この世界でも貴族なので!」


「おお、貴族すごい」

「ふ、ふふーん、そうなのですよ、ですからカスタニさんが気にする事など何もないのです!」


 良い奴……。

 よし頑張ってもっと仲良くなるぞ。

 スノウさんの友好度を稼がないと……。

 ライフ・フィールドでも固有NPCイベントとかあったよな。

 シナリオの進行に合わせて好感度を調整していかないとイベントフラグが消えたりするクソ仕様だったけど。


「カスタニさん!」

「あ、はい」


 スノウさんが身を乗り出して、俺の手を取る。

 うお、凄い視線。

 食堂中、老若男女問わずほぼ全員から俺への殺気と、魔力が漏れている。


 ふーん、魔法が使える人間の特性か?

 魔力って殺気と比例するように強化されるのだろう。

 戦闘においてもこの特性は利用できそうだ。

 呪力もその日のテンションによって練り方が変わってくるもんな。



《貴方はすでに”呪力操作”スキルで感情によってポテンシャルの変化は起きないはずですが》


 ああ。そうだった。なるほど、となるとあれか。

 感情の上下によってパフォーマンスが変わるのは未熟って訳か。


「カスタニさん……私は、貴方の味方です」

「え?」

「こ、これからは、め、迷惑でなければ一緒にご飯、食べましょう……! だ、ダメでしょうか?」

「お、おお」


 あれ、なんかいい感じじゃないか?

 やだ、スノウさん積極的。

 ふふふ、俺のコミュ力もバカに出来たもんじゃねえな。


「そ、それだけじゃありません! お昼からの授業も一緒にうけましょう! えっと、確か今日のお昼からの授業は、近接魔法戦闘術でしたね! そ、それも一緒に!」

「あ、はい」


 すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。

 風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺に。

 中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。


 楽しい魔法学院生活を。

 そして、スノウさんにはなってもらう。

 正統派異世界転移カリスマクラス纏め系主人公に!


 その為には彼女にはいろいろ試練を乗り越えてもらわないと……。

 なんかいい感じにでっちあげれそうな伝承とか伝説とかないかな。

 ふふふ、楽しくなってきたぞ。


「スノウ~やあ、お昼休憩にごめんよ。次の授業の準備を――おや」


「あ、アキ!」


 スノウさんが俺の手をぎゅっと更に強く握る。

 彼女の視線の先には彼がいた。


 ものすごい、金髪のイケメン。

 青い瞳、王子様のようなさらさらヘア。

 高い身長、制服の上からもわかる鍛えた肉体。


「あ、カスタニさん、紹介します、彼は――」


「やあ~スノウ。そう、君の騎士のアキ・フォン・シュバルツだよ~。おや、彼は、はは、新しい友達かな? 結構、結構。交友を広める事は良い事だしね~」



 スノウさんの言葉を遮り、ずいっとこちらに迫る金髪イケメン。


 そして彼もまた、魔力が漏れ出している。

 黒い魔力、立ち上る湯気のように。


「ぜひ、お――僕にも紹介しておくれよ~、スノウ、新しい友達って奴を、さ」


 人懐っこい微笑み。

 きっとさぞモテるんだろう。


《……いえ、プレイヤー。彼の表情、あなたに向けているのは人懐っこい笑みでは……本来、人間の微笑みというものは――》


 ナビちゃん……よくないよ、そういう人を簡単に疑うのはさ。

 悪役ムーブの寄りすぎだ。

 スノウさんの友達だぜ?



「あー、止められなかった……」

「は、ハル、どうしよう、アキ君、なんか様子が……」


 イケメンの後ろから、これまたキラキラオーラの美少女と美少年が。

 おお、この人ら、あれじゃん。

 スノウさんのお友達のトップカースト達か!


 ふ~む、美男美女揃いの異世界でも全く見劣りしない顔面の良さ。


 良い、スノウさん《主人公》のパーティーメンバーとしては不足はないぞ~。


「はは、えっと、確か、カスタニ君、だったっけ?」

「あ、はい」

「ちょ、ちょっと、アキ――」


 ずずい。

 アキと呼ばれた金髪イケメンがスノウさんを身体で押しのけて俺の前に。

 仲が良いな~。


「スノウと一緒に授業を受けるって話してたよね~あれ、僕も混ぜてもらっていいかな~」

「あ、はい」


 金髪暗黒イケメンが嬉しそうに笑って。


「次の授業は、近接魔法戦闘術だったけ? たのしみだな~、俺とペア組んでよ、カスタニ君」



 ……戦闘術に興味があるのか?

 なぜか、とても嬉しそうだ。

 ――いい奴かもしれないな! ヨシ!

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