第49話 魔法学園生活の始まり


 あれからまた数日が過ぎた。



 俺が考えた七大神陰謀論に基づいてホワイト達と一緒に、教会暗部(多分山賊)を狩ったり、神の加護を得た竜(多分、強いだけのモンスター)を狩ったり。



 スカーレットやクロ、他の騎士達に呪術の手ほどきをしたりとまあ、それなりに充実した生活を送ってきた訳だ。


 そんなこんなしてるうちにホルガ村ではいろいろな動きもあった。


 転生勇者達は、予定通り帝都の魔法学院に全員入学。

 そこで更に専門的な勇者としての教育を受けるらしい。


 そして、俺、粕谷焚人は――。


「次の講義です。魔法生物の中でも最も危険である竜種ですが、この中で卵生であるものはどれでしょう? 誰か分かる者はいますか?」


「はい、先生。ドランバック種がそれに当たります」


「ミスターシュバルツ、素晴らしい回答です。では……ミスウェットランド、貴女がもしこのドランバック種と遭遇した時の対応法を」


「そうですね……教科書通りに行くなら、ドランバック種は竜の中でも礼節を重んじる種族です。まずはこちらに敵意がない事を示す為にお辞儀、でしょうか」


「今回の転生勇者の方々は優秀ですね、ホルガでの教育がきちんとしていたのでしょう」


 教室。

 立体映像のように映し出される竜の映像。

 それを囲むように座る制服姿の学徒。


 学校風景、INファンタジー。


 はい、なんか、俺も入学しました、魔法学院に。


 ……なんで????



 ◇◇◇◇


「ふう……皆、お疲れ。今日の授業、分かった?」


「うーん……モンスターの授業でしょ? 結構、難しいかも……、なんかいろいろ名前あるじゃん」


「竜種、悪霊種、遺物種、それに聖霊種……新しい勉強が必要だね」


「そんなに難しい? 結構面白くない?」



 ざわざわざわ。

 異世界でも学校の休憩時間という奴は変わらない。

 仲の良い連中同士で固まって、わいわい、やれあの授業がだるいだのなんだの。


 まあ、大抵世の中のルールで、集団のカーストが高い奴らほど声が大きくなるものだ。


 俺の目の前でも、そのルールが進行している。


「あ、律、放課後、街に遊びに行かない? 帝都だけでしか食べれないスイーツのお店があるらしくて」


「……紬、目の前で爽やかに抜け駆けしないで。あたしも行くから」


「えー、私と律のデートの予定だったのにー!」


「なあ、律、自然と省かれている俺は泣いていいのか?」


「待て、まだ泣くな。あの2人共、どうせなら皆で行かないか?」


「「……デートになんないじゃん」」



 ラブコメが目の前で展開されている。

 爽やか黒髪イケメンを金髪のふわふわ系天然美少女とクール系スレンダー美少女が取り合ってる感じか。


 ふむ……こいつら、もしかしたら、主役属性があるのかも知れない。

 今日においてここまでコテコテの学園ラブコメシチュも珍しい。

 要チェックや。


「やっほー、やっほー、やっほー! 何話してんの皆……て、うわ、またなんかラブコメの波動を感じる……2人共、律の事、好きだねえ」


「あはは、律君は優しいからね……」



 また美少女が2人増えた!

 短いポニテの健康的美少女と、三つ編みの眼鏡美少女。


 この集団はあの黒髪イケメンを中心に成り立つグループらしい。


 スノウさんや、ホワイト達ほどではないが、女の子達も皆可愛いな。


 ……ふむ、主役っぽい、悪くない。

 前の世界では自分のやりたい事が定まっていない目標なきぼっちライフだったからな。


 こういうクラスメイトの人間関係なんて何もわかっていなかった。


 友達もいなかったし、あれ、今もいないっけ?


 視点が変われば前の世界ではうざったく感じたであろう、目の前で繰り広げられる学園ラブコメも俺の悪役シナリオの良い材料になる。


 スノウさんの王道カリスマ勇者系主人公、プランA

 ホワイト達、カースブラザーフッドのダーク主人公、プランB

 そしてもしかしたらこのリア充チームがプランCになるかもしれないな……


「……あっ、ごめん、うるさかった?」


「えっ」


 話しかけてきた、やべ、見すぎたか。

 律と呼ばれていた黒髪イケメンだ。


「えっと、もしかしてキミも同じ転生勇者? 村ではどこに住んでたの?」


「……ああ、えーっと」


 ふむ。どう反応するべきか。

 恐らくこのコミュニケーションでこの教室での俺の立ち位置がある程度決まる。


「「「「「「「……」」」」」」」


 教室は、少し静かになっている。

 極端に会話が減った訳ではないが、こちらに聞き耳を立てているのだろう。


 ふむ……悪役プレイ的にどんな立ち位置が美味しいだろう。


 今まで通りのコミュニケーションが取れないモブぼっちか。

 話してみると意外に面白いひょうきん者か。


 ……呪術が使えるからだろうか。

 前の世界とは違って、どれだけ注目を浴びようと、目の前の一軍の人間に品定めされようと、何も怖くないな。



「り、律……この人、もしかして、あの……G級ギフトの……」

「もしかして、ホルガ村で家無しだった人?」

「あはー……り、律? あんま話しかけたりしないほうが……」


「家無し? 君、家がなかったって事? え? どうやって生きてきたんだ?」


 リア充チームが慄き始める。

 律と呼ばれた黒髪イケメンはきょとんと首を傾げて俺に問いかけてくる。


 加点。

 誰もが少し引く家無しという立場に物おじしないその姿勢は悪くない。


「七咲、やめとけよーwww、そいつ、マジで家無しの屑だからさー」

「お前、どうやってこの学院に入ったんだ? あ?」

「こいつさ、俺らがガキの頃に魔法の練習台にしてた奴なんだよ」



 へらへら笑いながら会話に入ってきた連中。


 おお、少し柄の悪い運動部連中! 


 俺の呪力操作の練習台になってくれた奴らもこんなに大きくなって……ほろり。


「おい、聞いてんのか、家無し。無視すんなって」


「お、おい、あまり乱暴な事はやめなよ」


「何言ってんだよ、七咲。こいつ、お前んとこの花江さんとか朝桐さんの事ずっとちらちら見てたんだぜ、マジできしょいわー」


「ほんとそれ!! いくら美人だからってよー、お前なんか相手にされる訳ねーべ」


「え? 好きなん?wwww」


 チラチラと一軍女子達のことを見ながら運動部の声が大きくなった。


 あー、あれか。

 少しでも自分の事をよく見せたい的なアレか?


「三城君達なにしてるんだろ」


「さあ……それより律が困ってそうかな」


「止めた方がいい?」


「あ、危ないよ、奏ちゃん……」


 あまりそのアピールは効いてないみたいだ。

 一軍女子達の意識はあの黒髪イケメン達に向いている。


 こいつらはイマイチだな、俺を殺すには品性と格が不足している。


「そういう訳だからさ、お前、教室から出て行ってくんない? 基礎的な魔法も使えない奴に教室にいられても迷惑なんだけど」


「なんか面白い事したら別におってもええけどwwww」



 ちらちらとずっとこいつらが一軍女子の方へ視線を送り続けている。


《……不可解です。なぜ彼らはいきなり貴方に攻撃を? 今までなんの関心も持ってこなかったのに》


 ナビちゃんや、これはアレだ。人間にはよくある事なんだよ。

 こう、クラスでの三軍以下の人間を弄る事で結束を深めたりとか、なんとか。


《……集団の中で弱い者を攻撃する事により、自分が強者側であると周囲にアピールしているのでしょうか? ああ、若い雌への性的魅力の周知という事ですね、興味深いです》


「そうそう、結局、こいつら他人を弄る事でしか笑いを取ったり出来な……あ」


「「「は?」」」



 いかん、ナビとの脳内会話をつい口に出してしまった。

 めちゃくちゃ挑発してしまっとるやんけ。


「今、お前、俺らの事なんつった?」

「なんか調子に乗ってね?」

「ちょ、来いや、こっち」


 運動部Bが、俺の腕を掴む。

 お、結構力強いな。

 魔力での肉体強化か。ふむ、悪くない。


「おい、立て、よ……! ふ、ン!」

「おい何してんだよ、早くひきずってもいいから立たせろって」

「わかって……るわ! うるせえ!」


 更に魔力の量が増えていく。

 なるほど、魔力での肉体強化ってこうやるのか。

 肉体自体が魔力の器になってるから、シンプルに量だけ増やせば肉体も強くなる、と。


「え、え……まじで何してんの、と、止めた方が良くない? 律」

「や、律、ケガしちゃうから離れた方が……」


 教室がざわめきだす。


「な、なあ、3人共、やめなって。やりすぎだろ」


「は……? 七咲は引っ込んでてくれよ」

「今、コイツ、俺達の事完全に舐めてんだよッ!」


 一軍主役黒髪イケメンの制止もむなしく、完全に頭に血が上った運動部Bは俺の腕と肩を掴むのを止めない。


 うーむ、あまり今目立つ気はないんだよなァ。

 いじめられっこポジからの悪役覚醒もいいんだが……


 暫定俺的主人公候補のスノウさんの味を引き出すには、やはりある程度クラスメイトからは善人だと思われていたい。


《ど、どの口が……》


「クソ……なんなんだよ! 家無し、お前、魔法も使えない、ギフトもない癖になんで俺らと同じ魔法学院にいるんだよ!」


「……」


 うーむ、難しい。


「なんで、何も言わないんだ、こいつ……! クソ!」


「……」


 あ、今日の献立何にしよう。

 ホワイト達が妙に最近、食材持ち込んでくるんだよな。

 持ち運びの畑、トマトがたくさん採れたからパスタでも作るか?


「お、おい……やっぱ、こいつ、おかしいって。魔力強化なしで、なんでこんなに平然として……」


「……」


 あ、今それどころじゃなかった。

 さて、このいじめっ子達。


 ――どうしてくれよう。


 どうすっかなァ。


「「「ッ……!?」」」


 がた……。

 運動部達が離れた。

 いかん、呪力がなんか漏れている。


 、まだまだ修行が足りんな。


 あ、でも、こいつら呪力の起こりを感知したのか?

 ほう、そうなると、なかなか見どころがあるのかも……。



 いつのまにか、クラス全体がこっちを注視している。

 騒ぎすぎたか。


 気まずい雰囲気。


 一軍美男美女はなんだか、怯えたような視線を俺に。

 運動部達も似たような感じ。

 他のクラスメイト達は、好奇心や嫌悪、侮蔑、それぞれミックスか。


 ナビちゃん、ここからなんかいい感じの空気になる方法ない?


《……どのような場所でも人々に不和を齎す……貴方こそ、呪いそのもの……!》


 だめだ、こいつまたポエミーになってる……!


 その時だった。

 教室の扉が開いて。


「あ……!」


 黒髪イケメンの顔がぱあっと輝く。


「あれ……皆さん、どうしたんですか? なんか変な空気になってますけど」

「スノウ、君のせいじゃない。気にするなよ」

「ええっ、それ、ワタシのせいの時の奴!」


 金髪碧眼美少女と西洋高身長イケメン。


 映画の世界から来たんかという2人組は――。


「あ……っはは、スノウさんとアキ……君」


「ミツシロ。どうしたんだ、そんな所で固まって……うん? ……カスタニに何か用か?」


 アキと呼ばれたイケメンが運動部に声をかける。

 おお、真のイケメン、トップカーストの雰囲気、声も低くてかっけー。


「い、いや、別に! あれだよ、あれ、こいつ、魔法も使えないのに魔法学院にいんの、なんでなん? みたいな……なあ?」


「あ、ああ。そうそう、アキ君もおかしいと思わね、こいつ、村でもなんも訓練とか受けて―のになんで、学院に来てんのみたいな」


「か、カスタニ~お前、なんか裏口入学みたいな事したんじゃね~の? な――」


「私ですよ?」


「「「「「「え?????」」」」


 クラスの空気が今度こそ固まった。

 運動部達の言葉に返事したのは、ガチお姫様系美少女のスノウさんだ。



「ワタシが、彼をこの学院に推薦しました。何か問題がありますか?」


 にこりともしない顔。

 美しい人形のような美貌が、運動部達を静かに見つめる。


「え」

「あ、あ、い、いや、その……」


 目を何度も瞬かせ、しどろもどろに。

 そんな中、スノウさんがすっと彼らの間をすり抜け。


 ……あれ、こっちに来――。



「こんにちは! カスタニ君! ……えへへ、制服、似合ってますね!」


 スノウさんが、俺に笑いかける。


「あ、ごめんなさい、いきなり声を掛けて。じ、実はですね、もし良かったら……お昼ご飯、一緒に食べませんか?」


 あの日の修学旅行の日と同じ笑顔で。




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