第38話 ラララコミュニケーション

 無視で行こう。


「ひっ……! なんだ、なぜ答えない! か、神に何をした!?」


「……」


「あいつ……なんで、無視できるんだ」

「この状況でなんだ、あの落ち着きようは」

「おい……すぐにあの家無しを調べろ……G級ギフト、その内容も詳細に」

「……まさかあの顔、確信していたのか? 神の罰をもとより意にも介していない、と?」



 あ、あれ。

 なんか周りのざわめきが止まらない。


「な、なんなのだ! お前は、お前は一体何者なのだ!? 神の罰を遮り、神の声を無視し、神を追い返すなどあってはならない! 家無し! 貴様は……」


 おっさんがヒステリックに叫んでる。

 ふ、ここは俺の得意分野。コミュニケーションの出番だな。

 人間の強みはやはり、コミュによる人間関係だ。


 にっこり。

 笑顔だ、笑顔こそ最強のコミュニケ―ション方法だ!


「……………」


「ひッ……」


「笑った……!?」


「なんで、今笑えるんだよ……」


「す、スノウ、ほんとにアレも同じクラスの……?」


「そ、そうです……そのはず、粕谷君、ですよね……?」


 うお、スノウさんに話しかけられた。

 う~ん……なんか今話しとかすると迷惑かけそうだしな……。

 俺みたいなモブの為にわざわざ駆けつけてくれる良い人なんだし……。

 巻き込みたくねえな。


「…………」


「な、なんで答えてくれないの……私は……私が、役立たずだから……?」


 ふむ、聖堂の空気は最悪だな。

 誰のせいだというと、多分このおっさんのせいだ。


「答えろ!! 家無し!! 貴様は、一体、何者で! なにが狙いだ!! その顔、その笑い……お前は、マリス教会に仇なすものか!?」


「……」


「答えろ! い、いや、もういい……か、神の意志がお前を許す事などありえん、ならば、この身は神の為に……! 私、直々に貴様に死を!!」


 おっさんの身体に魔力が集う。

 ふ~ん、グレロッド以下だけどまあまあの密度だな。

 ギフトを使えばよさげな術式のインスピレーションになりそうな。


 教会の使う魔法、気になるなァ……。


 あ、やべ、無性に笑顔が。

 スマイルは大事。


「その笑いをやめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


「ま、待って! に、逃げてください! 粕谷君!!」


「スノウ!?」


 剣を振り上げるおっさん。

 間に走ってくるスノウさん。


 あ、やべ。これ、スノウさん死ぬな。

 うーん、でも俺が守ると露骨におかしいし。


 あ、そうだ。


《スキル・呪力譲渡、使用》


「えっ」

「は?」


 がきん、ぼろっ。


 スノウさんの頭にぶつかった魔法の剣が折れる。

 ホワイト達に常日頃から、仕事の報酬に呪力を与えてるせいか?


 他人の呪力強化も上手になったもんだぜ。


「え、……なぜ……」


「あれ、私……生きてっ」


「スノウ!」


 イケメンがさっとスノウさんを抱えて下がる。

 良い動きだな。


 まあいいや。


「……今、貴様が何かしたのかっ?」


 良い勘してるな、このおっさん。

 悪くない観察眼だ。


 でも、なんかそろそろ飽きてきたな。


 聖堂の注目すべてが俺に集まる。

 これ以上新しい悪役ムーブもできなさそうだし。

 ああ、でもあのへんな腕の魔法は面白かったな。


 神様かァ。

 そういや昔、ホワイト達に神がどうのこうのの話したっけ。


「お前……何を見ている……? まさか、神のっ」


「……懐かしいなァ」


 ホワイト達も昔はなんか言う事聞いてくれてたけど、最近なんかこわいしなあ。


 やっぱ成長していくと、皆純粋さがなくなるんだろう。

 うんうん、それが大人になるって事だし


「っっっっっ!! 懐かしい、だと? まさか、貴様……知っている、のか? いや、ありえない! !! ま、まさか、貴様はほ、本当に、グレロッドから権利を受け継いで……」


 畑の話だ!!

 そうだ、忘れてた。あの畑はカースとしてじゃなくカスタニとして貰っておかないと!


「……権利は俺のものです」


 畑のな!


「!! ま、さか、最初から、最初から!! 神よ! こ、ここです! 貴方様達が探していた者はここにっ――!!!」


 腰を抜かしたおっさんが言葉を止める。

 こいつ、ここまで畑の事を……。


 ――俺が、間違っていたのかもしれないな。

 カースとしての正体を隠してだとか、なんとか。

 ふっ、頭の良い動きはもうやめだ。


 どうやら、俺の黒幕もここまでらしい。

 俺は、懐から翁面を取り出そうとして――。



「マリス教会、神への報告はもっと慎重に行うべきよ」


「その通りだね。司祭殿、その先のセリフは、もっと慎重にすべきだ……」


 声が、した。

 聞きなれた声。

 聖堂の大扉はいつのまにか開いていて。


「あっ」


 え、なんであいつらここにいるんだ?


 ホワイトとスカーレットだ。

 鎧とローブ。

 冒険者と魔法使いとしての姿の。

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