第36話 呪いの熱


「……スノウ様だ」

「辺境伯の娘、確か意識を失って寝込んでいるのでは?」

「それにおつきの騎士も全員揃っているぞ」


 ざわざわと聖堂がまたうるさくなる。


 うお、ほんとだ、スノウさんだ。

 すげえな。

 パジャマみたいな白いシャツとローブ。寝起き全開の姿なのにしっかり美少女してるわ。


「ロナルド司祭! この神明裁判は明らかにおかしいです! 家無し、いえ、カスタニタキヒトさんに最初から罪をかぶせる事前提の裁判なんて貴族として見過ごせません!」


「おやおやこれはこれは、お嬢様、ご機嫌麗しゅう……お身体はもうよろしいのですか? 辺境伯の血を残すための大事なお身体です、ご自愛をば」


「あら、それはどうも、司祭様。ですがご安心ください。世継ぎの前にまずは私の治世が先です。そして、これは見過ごせない、即刻カスタニさんへの刑執行を取りやめてください」


「ふふふ……それは辺境伯家の総意ですか? 教会の、いえ帝国の定めた法に逆らうと?」


「明らかにその法の使い方がおかしいと言っているのです! 私は知っています、カスタニさんは我々を陥れるような方ではありません!」


「おや、スノウ様はまさか、神の決定に異議があると? 神明裁判は彼の罪を証明したのです。それに意義を唱えるとなると……困りましたな、まさかスノウ様は、神に疑いを持っておいでですか?」


「っ、それ、でも、彼は違う……」


「スノウ、ここまでだ、本当にやめよう、これ以上は」


「アキ! 貴方はおかしいと思わないのですか! 彼は私達のクラスメイトです!」


「……君が大事だ」


 スノウさん、見た目と違って根性あるな……。

 良い、まさに主人公って感じだ。

 ……もしかして彼女も俺の悪役プレイの完成に欠かせない人物では?


「わが身可愛さで貴族の責務が果たせるとでも? ……ロナルド司祭、私は真実を知っています」


「ほう?」


「彼は無罪です! グレロッドを殺害した真犯人を私は知っています!」


 うん?

 なんか、流れが変わってーー。


「カース……カース・ブラザーフッド……! グレロッドを殺したのはカース・ブラザーフッドです」


 どうして……。


「カース……?」


「我々転生勇者を連れ去りの大魔法により誘拐したのはグレロッドです! そして彼女を屠ったのは、カース・ブラザーフッドを名乗る黒衣の集団……! カスタニさんは関係ありません!」


 ……もしかして俺、カース活動の濡れ衣を着せられてたのか?


 おいおいおい、それって。いや、カースは俺だから結局悪いのは俺?


 まあ、悪役だし、いいか。


「な、何を……いや、スノウ様はご乱心だ。聖堂の外へ……」


「「「「はっ」」」」


 騎士鎧の連中がスノウさん達を取り囲む。


「待て、マリス教会。スノウに触れてみろ。手加減は出来ないよ」


「スーちゃんは友達だしね。教会の人達にはお世話になってるけど、私は友達の味方しまーす!」


「ハルちゃんにスノウさんにアキ君がいるんなら、俺がそっちにつくのはあり得ないよね」


 トップカースト!!

 お前ら、顔と性格だけじゃないんだな。

 勇気もある。


 良いな、マジで。

 こういう奴らに悪役として追い詰められたいもんだ。


 騎士達に取り囲まれながらも、己の腹の中にあるものの為、そして友達の為に前を向く。


 ーー目障りだ。


 うーん、やっぱ異世界転移はこうじゃないとな。


「マリス教会、真の敵はカース・ブラザーフッド、あの簒奪者です! カスタニ君を離してください」


 スノウさんが、意外にも好戦的な目つきで教会の連中を睨んで。


『能わず』


「「「「あ」」」」


 一瞬の事だった。


 鏡から4本の腕が生えて、スノウさん達をがっしりと握り込む。


「あ、あ? あああああああ!?」


「く、そ、離せっ! あああああ!?」


「きゃ、痛っ、潰れっ……あ」


「うわ、ああああああ!?」


 苦悶の声。

 え、これそんな痛いのか?

 やべ、呪力でガードしてるから分からん……。


『転生勇者……ああ、そこの少女はアレの子飼いか……哀れな。ここで死ぬ方が楽だろうに』


「か、みさまっ! あなた、神さまなら、何が正しいかどうかなんてわかるのでは!?」


 スノウさんだけが、神に握り潰されそうになりつつ声を張る。


『面白い……おもちゃ風情が口答えを……正しさ、ならば示してみろ、痛みを恐怖を超えてなお、正しさを張れるのかどうかを』


「あっ、がっ……」


『転生勇者ごときが、神の沙汰の場で調子に乗りおって……ああ、丁度良い。賢きネズミに教えてやろう。貴様のせいで関係ない弱きものが死んだ、と』


「か、しこき、ネズミ……?」


『貴様程度が知る事ではないのだ。哀れな転生勇者よ、さあ、首を垂れろ、命を乞え、余興になれば生かしてやらんでもーーいや、やめだ』


「う、あ、なに、これ……私が、私がバラバラにあっ……やめて、友達はどうか……」


『弱きものよ、貴様の理想は叶わない。その理想には強さが必要なのだ。強さなき理想の、なんとくだらないものか』


「私、は……」


 神の腕の中でトップカースト達がぐったりしてる。


 あ〜やばそう。

 ナビ、これは……。


《神権による魂の破壊……公平と正義の神の神罰機能です……プレイヤー、彼らは貴方と違い、呪力を持ちません……残念ですが……」


 あ、やっぱ呪力ならこいつに干渉出来んのか。


『ああ、なんと弱い、弱くて哀れで醜く、脆い……ああ、だが、死にゆくお前達は、魂を溶かされとろけていくお前達は美しーー「ソイヤッ!」


 呪力侵食!!


『アッッッッッッッッツツツウウウウウウウ!!??!?』


 じゅううと音が響く。


 あ、やった。

 神の腕が溶けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る