第35話 カスタニの弁明
「貴様……立場が理解できていないのか、今質問しているのは……待て、お前……何故、今立ち上がる事が出来る? 魔封じの錠に、神威結界の中に、いて……」
この足元の赤い模様付きの絨毯、やっぱそういう感じの奴か。
グレロッドが使った魔法での結界みたいなのと似てる気がしてたんだ。
呪力を静かに流し込んだら、なんか溶けていった、ヨシ。
「おい……! 貴様、何故立っていられる!? め、命令に従え! 跪け!」
あれ、これ普通にしてちゃダメなのか。
うーん、よしそれじゃあ……
「うっ、くっ……」
「お、おお、良かった、跪いた……」
おじさんがホッとした顔を浮かべる。
ヨシヨシ、俺の演技力のなせる技だな。
んで、このまま……
「か、神とは、なんで、すか?」
「なんだと? 今、何を言った?」
はい、ここで術式展開、平安宣旨呪言令っと。
「”ここにいる全ての人間に告ぐ、俺の話を聞け、そして我が身の神を顧みよ”」
《スキル”呪力浸食”により聖堂に仕掛けられた7大神の神威結界への干渉を開始します、すべての判定に成功。神からの精神汚染、高位聖職者からの洗脳をすべて無力化しました、聖堂内の神威防護を突破し、聖堂内すべての人間に”平安宣旨呪言令”の術式効果が発動します》
「なあ、あの子供の話……少し、聞いてみねえか?」
「神とは何か……考えた事もなかったわ……」
「司祭様! 家無しの子供に発言の許可を!」
「ヒュー! あいつやるかもしんねえ!」
オーディエンスが盛り上がっていく。
術式への呪力配分を司祭よりも周りの連中に配ったのが成功したらしい。
これも毎日腕立て伏せしつつ、水の入ったお盆に呪力を均等に流し込むという特訓の成果……!
「な、き、貴様……何を……!」
「”神とは、なんですか、司祭、答えてください”」
この結界に抗って! みたいな雰囲気で話さないとな。
にしても、神の結界って言っても材料は魔力か。呪力で干渉出来るな。
「ぐっ……神とは御方達だ!! 7大神! そして主神マリス様! この世界を作りたもうた偉大なる神々の事だ! 神の結界の中において神を疑う言葉を発するとは! 天罰が降るぞ!」
赤い紋様に光が走る。
それと同じタイミングでこう、目を見開いて……。
「ぐっ、あああ……い、いえ、ち、違います。それはただの創造者にすぎない。俺の人生とはなんの関係もない」
「なっ、何を言っている……お前、家無し……なぜ、今話す事が出来る……!? 衛兵!! このガキを取り押さえっ――」
「”いや、まだ話を聞いてもらいます、誰も動かないでください”」
「「「「「「「っあ」」」」」」」」
「お、おい、ど、どうした? 待て、お前……まさかお前が何か、した、しているのか?」
術式により俺の声は強制力を以て周りに影響を及ぼす。
ふふふ、カースとは別の悪役ムーブ。
なんか気味の悪い感じのオカルトっぽいガキ。
ふふ怖。
「貴方達教会の言う神とは只の権力者に過ぎない。同じ水槽の中に入ってる強大な魚にすぎません」
「な、なにを……神を愚弄するか……家無し……貴様、その弁舌は……誰か、誰かこいつを黙らせろ!」
「”いいや、ダメです、最後まで俺の話を聞いてもらいます”」
「ひっ、また、まただ! 精神防護の礼装が発動している……! 貴様、何をしている!? あ、ありえない、神聖魔法を使える魔法使いは全て教会が管理しているはずだ! どうして貴様のようなガキが他者の心を操れる!」
教会のおっさんがいよいよ目を真ん丸にして震え出す。
いいね、その反応……。
カースとは違う感じの悪役プレイも新鮮で良い。
「か、神様がほ、本当にこんな事望むんですか? お、俺は転生勇者を攫ってないし、は、畑だって奪ってない! 信じてくださいよ! 神がこんな事を望むとでも本気で思ってるんですか?」
「貴様は……神をなんだと思って……」
「神とは人間それぞれが己の胸の中に抱くものです、神はここにいます。俺の、貴方の胸の中に。そして、俺の神が俺に告げた。俺は何も間違えた事をしていない、胸を張って無罪を主張します!」
止まるつもりはない。
「っ!! やはり!! 死の女神に魅入られたか! ……死刑だ! 即刻死刑!! 即死!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「神罰!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」
あ、術式効果が切れたか。
荘厳な音楽が聖堂に響き出す。
あの変な鏡が輝き、周りの人間が皆ひれ伏し始めた。
……なんか変だな。
グレロッドを殺したのは確かだが……そもそもなんで転生勇者の誘拐とかも俺のせいになってんだ?
カースとしての活動は翁面被ってるから、家無しであるカスタニタキヒトの犯行にはならねーよな?
……裏切られたか? ホワイト達に。
あ、あいつら……。
――殺すか。
あいつら成長、したじゃん!
ふふふ、いずれ俺を悪役として殺す為の役者として誇らしいな。
「今、神の遺物はこの少年の死刑を告げた。帝国と教会に冒した罪だけでなく、神への冒涜、その中でも最も汚らわしい言葉を紡いだ! ここに神の裁きぞ、ある!!」
跪いたままのおっさんが大声で叫ぶ。
もうどっかんどっかん讃美歌が響き、パイプオルガンみたいな音楽が場を揺らす。
「お、おい、これって」
「あ、いつ、ほんとに殺されるんじゃ……」
「で、でも仕方ないよね、あの人が私達を」
「で、でも、スノウ様は違うって言ってなかった?」
「バカ、スノウ様はあいつに洗脳されてんだよ」
「アキやナツ達を待った方がいいんじゃね?」
クラスメイト達の反応も様々。まあ、期待はしてない。
『定命の者よ、その死を以て――』
紫の鏡から現れるのは腕だ。
大きな半透明の鎧をまとった腕が現れて。
「おお、神の見えざる腕……! 7大神のお身体が現れたぞ……!」
『哀れな家無し……ネズミは結局現れず、か。良い、家無しよ、そなたの死には意味がある。恐れるな、汝の魂は我らの糧に。故に死せる汝の命にも意味があるのだ』
腕が喋った!
キッショ!
「おお、なんと慈悲深い……」
「あんな家無しのガキの命1つにも……なんと荘厳な……」
腕が俺を包む。
あ、これ、ちょっとやばいな。
ぞりっと、した感覚。
ーー魂を握られる感覚か。
『恐れる事はない、さあ、委ねよ、そなたの魂、人生を捧げよ』
「ああ、神よ」
「死ねば罪人ではなく殉教者……」
「なんと慈悲深い……」
「7大神よ……我らが神よ」
「見よ、罪人が神の手に……握られて」
「ああ、なんと神々しい光景」
ぐわっと持ち上げられる。
紫色半透明の巨大な腕、あの鏡の向こうにこいつの本体がいるのだろうか。
神がいるのだろうか。
ーーケヒッ
『!? 貴様、まさか……』
「ま、待って! 待ってください! こ、この裁判は間違っています! アキ! 離してっください!」
「ちょ! スノウ! こら、ダメだってば! ほんとに帰ろう! 帰ろうって!! お兄ちゃん後で飴買って――……ごほん、お嬢様!! これ以上の狼藉は……うお、力ッ強っ!」
「あははーえーっと、ハルちゃん、どうする?」
「ん~、友達がしたい事を応援するのが友達っしょ!!」
がちゃん!!
壊れんばかりの勢いで開く聖堂の大扉。
なんか面白い連中が現れた。
のほほんとした美少年とキラキラした美少女。
そして、金髪長身イケメンを引きずってずんずん聖堂に踏み入るのは――。
「帝国東領リヒテ辺境伯が後継! スノウ・フォン・ウント・ツー・リヒテの名においてこの神明裁判に異議を唱えます!!」
寝ぐせとクマが目立つ。
それでもしっかり金髪美少女をしている彼女の声が聖堂に響いた。
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