第34話 神明裁判

 おいおいおい、待てよ。

 まさかこのままあの鏡とおっさんの問答で俺の罪が確定しちゃうのか。


 クソ裁判制度すぎるだろ。

 俺は賢いから知ってるんだが、こういうのって被告人にもなんかこう……あるだろ! 弁明とか、そういうさあ!


《プレイヤー、おはようございます。今日の朝ごはんは何に……おっと……これは》


 きいいん、金切り音と共にいつものソプラノボイスが耳に響く。


《マリス聖堂……魔封鉱石の鉄錠、ああ、神明裁判ですか。なるほど、事態は把握しました》


「それは良かった。ナビ、なんかアイデアないか、この状況を――」


 小声でナビにだけ聞こえるように呟く。

 今も教会の連中は大声で神の裁きがどうたらこうたら死刑魔法の執行準備がどうたらうんたらと叫んでいる。


《さすがです、プレイヤー。この状況を予想してなお、グレロッド・マジャームから”権利”を引き継ぐとは……》


「権利……?」


 ああ、畑の権利の事か。


「そう、権利だ権利、ひどくねえか? 俺、ババアからきちんと引き継いだんだぜ?」


《ふっ、そうです、貴方は蟲の教団が500年保持していた権利を引き継いだ……人類が高位種族に抗えるいくつかの手段の1つを》


「……????」


 高位種族……? 何言ってんだこいつ?


《どうやらマリス教会は貴方を拷問にかけて権利を引き出したいようですね。グレロッドが500年前に教会から持ち出した権利を取り戻す絶好の機会だと》


 ……畑の話か!

 なるほど、ここは中世的価値観のクソファンタジー世界だ。

 土地ってのが俺が思うよりも大事なんだろう。


「なんと恐ろしい事でしょう……7大神に招かれし転生勇者を、同じ転生者が蟲の教団と協力し奴らのおぞましき神への生贄に捧げようとするとは……! あまつさえ! ホルガ村で家無しを保護し続けた親切者たるあのグレロッドを殺し、その畑を奪おうとした……神の裁きこそが相応しい!!」


 やっぱり畑の話だ!

 あれ、なんかおっさん、笑ったぞ。

 ふむ、悪役っぽいな、あいつ。


 教会のおっさんがゆるやかに俺に近づいてくる。


「家無し……我々教会はすでに知っている……貴様、グレロッドから引き継いだのだろう? 我等の聖女はすでに全能なる7大神からすべてを聞いているのだ。速やかにそれを渡すのならば拷問にかけず、すぐ殺してやってもいい」


 こいつら……そこまで畑の事を……!

 ガチ勢か。これだから中世の農筋は……!


 ふ、上等じゃねえか。その思い、見事。

 こちらも本気でぶつからなければ失礼というもの……!

 今はカースとしての活動じゃなくて家無しのカスタニタキヒトだから……。

 少し趣向を変えてみるか。


「さあ、家無し、その哀れな人生で唯一神の為に役立つ時が来た。告解を。そして捧げよ、その権利を。死の女神への謁見を――」


「神とはなんだと思いますか」


「……なに?」


「神とはなんだ、と聞きました」


《スキル使用、呪力浸食》

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