第31話 権利を背負う者

 

「グレロッド、お前の懸念は正しい。お前の道はここで途絶えた。道が途絶えた者に待つのは、喪失。この世界は奪い、奪われ回り続ける、生きるとはすなわちそういう事だ」


 この5年で俺もなかなか悪役ムーブが板についてきたな、むふふ。


「けっ、あたしの小指ほども生きてないガキが、知ったような口を叩くね……だが、悔しいが、アンタの言う通りかもしれないね、順番がきたって奴だ……」


 おお、なんか渋いなこいつ。

 自分の身体についてる火でタバコに火をつけ始めたぞ。

 なるほど、悪役の散り際はこうでないとな。


 俺はいつのまにかこのババアがそんなに嫌いじゃなくなっていた。


「……ガキ、聞かせな。なぜアンタはコレを求める。あたしから、蟲の教団からこれを引き継いで何を為す?」


「為すべき事を為すだけだ」


 畑仕事にはいろいろやらないといけない事多いしな。


「だから、それがなんだと聞いてんだよ……クソガキ、見極めてやるって言ってんだ。アンタが滅ぼしたあたし達の業を託していいか、今、決める……」


 ……畑を任せていいかどうかとかそういう話か?

 よし、そういう事なら俺のこだわりの肥料の配合でも話すか。


 えーっと、ラージスコルピオンの毒腺に、マンイーターアップルの蜜、グリーンワイバン―ンの糞を掛け合わせたカスタニオリジナルのレシピでも伝えるか。


「まず、ラージスコルピオンのだな――」


「グレロッド・マジャーム。我が王は神の専制を終わらせる。そう言っているのよ」


「あ、ホワイト」


 ぐにゅん。

 空間が歪曲し、その中から彼女達が現れる。

 ホワイト、スカーレット、クロの3人だ。


「ちっ、早かったね。やはりアンタらはこのガキに……ヒヒ、支配、戦争、飢餓。3つの災厄をよくもまあ……いやアンタなら可能、か。――今の言葉、嘘はないね?」


「え」


「我が王に偽りの言葉は必要ない。古い魔女よ、王の呪いを受けた貴女ならわかるはず」


「ヒヒヒヒ、ほんと腹立たしいね……だが、これもめぐり合わせ、か。神の専制を終わらせる。じゃあ、アンタ達は知ってるんだね。神の使徒の存在も、7大神達の暗躍も」


「……正直、私達は貴女達蟲の教団が、神の手先ではないかと疑っていた……けど……」


「よしな、そうだとしてもアンタ達とアタシらが殺し合う運命は変わらない。神に挑む権利があるのはいつも、時代において唯一無二、最強の存在のみに許された権利さ。ああ、そこのガキの言う通り、生きるとは奪い、奪われ続けるってね」


 あれ? なんか会話がおかしい方に進んでないか?


 おいおいおい、困るよ、ホワイト。

 俺の完璧な話術でいい感じに話が進んでいたのにさ。

 ここは会話の軌道を修正して――


「いいだろう、認めよう。我、グレロッド・マジャームの名において、権利を。――ガキ、名前を」


 あれ? いける感じだ。う~んまあよくわかんないけどヨシ!


「――カース、それはっ、あまりにも!」


「よすんだ、ホワイト……マイロードの望みだろう?」


「……けっ。カース、ね。……これから先、アンタはしんどいよ。それでも行くんだね」


「道はとうに決めている」


「……まったくほんと嫌になるよ、年を取りすぎたかい。悲願も恋人も奪ったクソガキに……その強さだけにほだされるなんてね……なあ、カース」


「……」


「まあ、アンタが神なら……それも、少し、悪く……ない、か」


 《グレロッド・マジャーム、死亡ロスト


 ひゅうううううう。

 風が吹く。


 グレロッドの灰となって崩れる身体からひゅるりと俺の手元に魔力で編まれた紙、権利書が舞い降りた。


 これが、畑の権利書……!


 ふふ、なんやかんやあったが、手に入れてしまったぜ。


 さて、アイテムボックスにとりあえずぶちこんで、と。



「マイロード、流石だね。既に魔女との戦いを終えているとは」


「ま。マスター、ご、ごめんなさい、遅れちゃった」


「……良い、集団で囲んで戦うのは趣味じゃない」


「我が王……蟲の教団の目的は、我らと同じものでした。彼らもまた神に……」


「1人でいい」


「えっ」


「奴の言葉は正しい。神座に挑む王は1人で充分。それ以上は奴らの矜持に傷を付ける。この道を進むのは俺だけでいい」


「……カース、貴方は……」


「カース……君は、また一人で全てを……」


「ま、マスター、そ、そんな事したら……」


「時は来た」


「「「……!!」」」


「必要なものは手に入った、後はただ、道を進むだけ。ついて来れるか?」


 異世界に来て5年。

 ついに自分の畑を手に入れたぞ。


 ホワイト達も最近なんか思い詰めた顔してる時あるからな。


 ここは一つ、畑仕事でのセラピーを進めてみよう。

 ステも上がるしいい事尽くめだ。


 うんうん、良い悪役とは良い上司でもあるのだ。



「……ええ、カース、……貴方の覚悟……私……命……代え……」

「カースはワタシ達……守護……きゃ、全て……賭け……」

「全部……この時……教会……世界……敵……回して……」


 ホワイト達が頷く。

 なんかやけに深刻な顔してるな。

 ぶつぶつ声も小さいし。


 疲れか?


 うん、俺も今日は疲れた。

 とりあえずここで解散して、さっさと寝よう。


 明日はこの自由になった畑をどうするか考えなければ!


 あ、でもいきなり家無しが畑の持ち主になるとまずいか?


 ふむ、まあその辺はおいおい考えるか、ヨシ!!


 明日から粕谷焚人の異世界のんびりスローライフの始まりだ!

 呪術であぜ道とか、水路とか作っちまおうかなァ~。


 あー楽しみ! 生きるって楽しい!

 やっほう!


 ◇◇◇◇


 〜そして、次の日、ホルガ村マリス大聖堂にて〜



「被告人、カスタニタキヒト!! お前は帝国とその民に対して罪を冒した!! 罪状は転生勇者の誘拐! そしてホルガ村相談役、グレロッド・マジャームの殺害、並びに権利を委譲しないままの土地の占有!! 主神マリスと7大神の名において! ――死刑に処す!!!!!!!」


 どうして……。

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