第25話 女の戦い その1
◇◇◇◇
戦闘はすぐに膠着状態に陥った。
グレロッドの持つ死の女神のギフト。
いくつも伸びる影の腕が三人の闇衣の騎士を襲う。
だけど。
「遅いわ」
「児戯だね」
「ふへへ」
そのすべてを3人の騎士が斬り落とす。
鮮烈、優雅、不可避。
人外の技量って事だけはわかった。
なに、その速さ……目で見えない、もしかしたら、教官よりも……?
「へえ……やるじゃないかい。その剣技……アンタ達、慣れてるねえ、強い魔法使い、ギフテッドとの戦いに」
「当然。我らは神々に弓引く者」
「当然、神の力に列する者との戦いに準備しているのさ」
「ふへへ、マスターともたくさん訓練してるしね……」
魔法戦闘。
この世界で現在、最も主流となっている殺し合いの先端。
現代において、兵器の運用、果ては無人機による遠隔での殺し合いが常套化していくように。
人間は常に最新、最高効率の殺し合いにたどり着く。
魔法、ギフト。
神のもたらした世界にあまねく超常の力。
未だ人類の英知は、神が齎す叡智に遠く及ばず。
故にこの世界の人間達は、魔法による超常を殺し合いの道具と選んだ。
訓練を受けたからこそ、分かる。
ギフトを持っているからこそわかる。
グレロッドのギフトの洗練、そして身にまとう魔力量の大きさ。
「ついてくるじゃないかい、じゃあ、これは? 略式詠唱・ノワール・ドロ」
「初歩的」
グレロッドの指先から放たれる黒い光を、彼女達が斬り伏せる。
「ははっ! 魔力斬りを覚えてんのかい!? 七剣の席でも狙うつもりかね!」
「ふへ、別に、そんなの、どうでもいいし」
目の前で繰り広げられる戦闘が、私の遥か高見で行われている事を。
「だが……解せないね、どうしたんだい、支配、戦争、飢餓……アンタ達らしくない、未踏大陸の兵器が、おとなしい戦い方をするじゃないかい。5年前のアンタ達ならこの場所を木っ端微塵して終わらせていたように思えるけどね」
「言ったはず、我らはもう7つの終わりの予言ではない」
「故に我らはもう兵器にもあらず」
「あの方の騎士なれば」
「気に入らないねえ……何が、アンタ達を変えたんだい? まあいい、さて、グレロッドおばあさんはどうしたものかね……ここでアンタらを殺すのには準備が足りない……そこで、だ」
「「「!!」」」
「死の女神ギフト、"死の腕"」
三騎士が動きを止める。
グレロッドの足元から生えたいくつもの影の腕。
それが、磔になった私達、転生勇者に向けれられたからだ。
「ちっ」
「おや、やはりかい? こりゃ傑作だねえ。アンタ達に人質なんて方法が通用するなんてねえ……神の使徒や、神々の思惑……アンタ達に道を示した人物はずいぶん、高潔な者らしい」
「……我が王は、背負うお方だ。その大きすぎる度量は、背負わなくてもいいものにも及んでしまう」
「マイロードは明確な命令は決して下さない、あの方はワタシ達に自由を許してくださる。玩具でも道具でも兵器でもない、意思を持つ人として扱ってくれる」
「だから、僕達はマスターを想う、マスターを考える、あの方の力に、あの方ならばどうするかって考える」
彼女達の声から感じるのは強い信頼と敬愛。
でも、私にとってみればそれどころじゃない。
あの服、間違いない。
デザイン、忘れる訳ない。
あれは、あれは。なんでーー。
「こうすると、どうなるかねえ」
黒い腕が、私とクラスメイト達に伸びる。
あ、しまっ。ギフト、だめ、間に合わない。
死、触れられたら死っ。
「させない」
ずら、ららら。
白銀の剣が、幾重にも伸びる黒腕を一閃の元斬り捨てる。
そして、私の元に伸びる黒腕は。
「失礼するわ、お嬢様」
「えっ」
視界がブレる。
気付けば私は彼女に抱えられて飛び退いていた。
白い髪の騎士。
顔がよくわからないけど、それだけは分かる。
「怪我は……ありそうね。転生勇者、自分で治療は出来る?」
助けられた。
お礼、お礼言わなきゃ、だって、助けてくれたんだもん、お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼……
「ど、お……して」
だめ。口、開かないで。
「……?」
「な、んで、貴女、”宵闇の戦闘衣”を、着て、るの?」
お礼、お礼言わなきゃ。、それはブラザーフッドの、いや、違。
「……何を言ってるの? 転生勇者」
「そ、れ。私、の……あの人が、私にくれた……」
ああ、止まらない。
「いいえ、これは私の王が、私にくれた物よ。あなたじゃない」
ちがうよ、王、ってなに。
それは違うのに。
「ちがっ、それ、あの人が、私に……雪だからって……名前に似合ってるから……王族でもなんでもない、私に、似合ってるからって……」
なんで。ダメ、今はそんなの話すべきじゃない。
機嫌を悪くしたら殺されるかも。時と場所を選べ
「本当に、何を言ってる? 転生勇者」
ほら、スノウ、この人も困ってる。
お礼だ。
助けてくれたんだから。
この人達は、私と皆を助けてくれたんだから。
「――なんで、私の服、貴女が着てるの?」
言ってしまった。今じゃないのに。言うつもりなかったのに。
「……?」
彼女は、初めてネズミを見つけた子猫のような愛くるしい顔を傾げて。
「これは、私の服よ?」
この人ーーの目。
無表情なのに。
ガラス細工のような美しい顔なのに。
その目には、誇らしさと、満足と、優越の火が見えた。
この、女ーー。
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