第24話 バカ、2人、畑にて

 

その頃、地上、ホルガ村、グレロッド農場、呪いの王とナビは〜



 ぼよよん。


「あ〜どうすっかなあ、これ」


 ぼよよん。


 ホワイトからの報告を受けた俺はとりあえずルーティンをこなすべく畑に向かう。


 だが――。


「なんだこれ」


 壁だ、透明な壁が畑への道をふさいでいる。

 それに何か妙だ。周りに誰もいない。

 この道は普段、交通量多いはずなのに。


「……畑行きてえのに。どうすっかな」


 とりあえずこの壁、呪力強化してぶん殴ってみるか。

 せーの!


 《プレイヤー。これは魔法結界ですね。人払いと人封じの呪文効果が込められています」


 拳が弾力のある壁にぶつかる寸前で止まる。


「おいおいファンタジーじゃねえか。どうしたらいいんだ?」


 《う~ん、あ、これホルガ村の住人の外からと中からの移動を防ぐ設定になっていますね……認識は名前でやってるみたいですし……翁面の認識阻害を使えば結界の認識を誤魔化せるかもしれません》


「お、いいね、そういう自由度高いのライフ・フィールドを思い出すぜ」


 翁面を被る。

 5年前にノリで壊して以降、付け外しも自由。

 口元だけしか覆えてないけど効果は持続しているらしい。


 ぐにゅん。


 今度は通れた。


「お! やるね、ナビ、お前の言う通りだ。なんかご褒美がいるな」


 《ふふふふん、簡単すぎますね、プレイヤー。あ、ご褒美なら今日の夕食はあの、かれーというのが良いです、味覚を共有して以降、あの味が忘れられなくて》


「カレーか。ホワイト達に頼んでまた材料用意してもらわねーとなー、あとでホワイト達探したときに言っておくよ」


 《やったー! あ、ゴホン、素晴らしい判断です、プレイヤー、賞賛を送りましょう》


 こいつ、最近、グルメなんだよな。

 まあ、よくわかんねえけど、飯を美味いって感じるのは良い事か。


 《そういえばプレイヤー、ホワイト達に伝えた全ての始まりの場所とは……畑の事ですか?》


「……奴らは少し気が張り過ぎている。確かに転生勇者の消失はなんらかの異変の現れだろう。だがそういう時にこそ立ち止まり、深呼吸する事が大切だ。ここは一つ土と太陽に触れさせてリフレッシュさせようと思ってな」


 全ての始まりとはつまり、土だ。

 太陽と共に目覚め、土に触れ、水を招き、種を撒く。


 う~ん、生きてるって奴だよな。

 現代でもガーデニングとかに興味持てばよかった。


 《なるほど……合理的な判断です……王として配下の様子をそこまで……》


「ふん、人間の情緒はわかりやすい。俺ほどになれば腹の内で他人が何を考えているかなど手に取るようにわかる」


 《……それは、私の腹の内もでしょうか》


「ふ、どうだろうな」


 《ふふ……》


 《「ふふふふふふふふふ」》


 何言ってんだこいつ。

 まあいいか。


 ナビに牽制代わりの知性派悪役ムーブをお見舞いしつつ農場への道を行く。


 さて、今日は何をするかな。

 4年前くらいにあのババアから専用の畑のスペースをもらってからすっかり畑仕事が趣味になってしまった。


 そろそろあのトマトっぽいのが採れ頃かな。

 収穫したらたまにステータス上がるし、良い事づくめだ。


「よし、始めるか……!」


 そろそろ畑が見えてくる、その時だった。


 《……プレイヤー!! 警告です! 地下から非常に強い魔力が……これは、魔法結界による位相の転換、畑の地下とどこかが繋がって、プレイヤー?》


「……おい、これはなんだ」


 畑。

 太陽の恵みを受けてすくすくと育つ作物と、汗と血を振りしぼり丁寧に耕した土。


 現代人が忘れた大事なものがすべてある俺の魂の場所。


 それが――。


「なんか穴開いてんだけど……」


 ゴゴゴゴゴゴゴ。

 紫色の大渦が畑に開いている。

 なんか旅の扉みたいな。


 《これは……何かの召喚陣です。渦を通じて別の場所で儀式が行われているようですね、いえ、これは出入り口ですね》


「……ナビ、出入り口はこの大渦を作り出した奴はいずれ、ここから出てくるのか?」


 《えっ、あ、はい、その、呪力は……ふっ、そういう事ですか、プレイヤー、どのような形であれ己の縄張りを荒らす者は許さない、そういう事ですね》


 俺の、トマトが、つぶれてる……。

 呪力を繊細に纏わせたりして防虫したりしてつやつやになっていたはずの果肉が……。


 土も、踏み荒らされている……

 あれだけ空気がふんわり入るように気を付けて耕していたのに。


 《なんて濃い呪いの力……プレイヤー、貴方は今、怒っているのですね、自らの領域に無粋に踏み入った痴れ者に。呪いの王にふさわしい気位の高さ……》


「誰だ……」


 俺の畑を、荒らした奴は。


 《っ……お待ちを。……限定使用……これは……蟲の教団による生贄儀式の反応……この魔力、グレロッド・マジャーム……!? まさか、プレイヤー、貴方が呑気に畑に向かった本当の理由は……》


「グレロッド……――ケヒッ」


 残念だよ、ババア。

 この5年、そんなに悪くなかったけど、お前は一線を越えた。


 いつかぶっ殺すリスト、履行の時だ。


 《プレイヤー、既に貴方の配下達が大渦の向こうで戦闘に入っています。貴方は……、最初からそのつもりで》


「出入口は、ここだけなんだな」


 《はい、プレイヤー》


「ならば待とう。我が猟犬達が、その仕事を果たす事を」


 《……貴方は、恐ろしい人です、プレイヤー……》


 なんかいろいろ忘れてる気がするけど、どうでもいい。


「報いを受ける時だ」


 《ええ……プレイヤー、きっとそのようになるでしょう、貴方は生贄にされた三騎士、そして転生勇者の為に……そこまで》


 トマト、畑の畝、畑よ。

 お前達の仇は討つ。


「せめて、安らかに……」


 《プレイヤー、信じましょう……貴方の騎士の無事と、貴方の友人達の帰還を……》

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る