第23話 騎士、雪、老婆

「……聞いた事のない名前だね。いや、似たような名前ならついさっき……他の教団員達はどうした?」


「仲間が今、片づけている最中よ」


「……気に入らないねえ、……その服……強い魔力、姿隠しの魔法が込められてるねえ、顔も見せれない臆病者かい?」


「見せる必要がないだけよ、これから死にゆく人間にはね」


 ……本当だ。

 突然現れた彼女達、特に顔を隠してる訳じゃないのに、認識できない。

 とてつもない美人だというのはわかるのに、顔が記憶できない……


「ひひひひ、それはそれは、で? 何しに来たんだい? 招からざるお客さん」


「為すべき事を為しに」


 すらり。

 黒い服の彼女が、腰に佩いた騎士剣を引き抜く。


「我々は、カース・ブラザーフッド。呪いを背負い、呪いを統べる者」


「蟲の教団、グレロッド。神の使徒プレイヤー。ワタシ達の敵。狩らせてもらうよ」


「ふへへ、5年前の、借りを返して、ね。貴女の命で」


 赤い髪の女、黒い髪の女もまた体に魔力を漲らせる。


 なんて、魔力……今まで見た事ない……いや、でも何か見覚えがあるような――。



「――その魔力……まさか、ひ、ヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!! ああ、なんて日! なんて日だい!! 帰ってきた!! 生贄が5年の歳月を経て帰ってきた!! その魔力!! 支配! 戦争! 飢餓!! 死の女神の姉妹達よ!! よくぞ!!」


 グレロッドの興味はこの時点で、私達から外れたらしい。


 気づけば私に向けられていた彼女の力も外れて。


「我らはもう、神の玩具ではない」


「呪いの歌を、神座まで」


「我らが王に、神の首を」


「生贄ごときが!! さえずるじゃないか!! いいさ、おいでな!! 蟲の教団が宿老! グレロッド・マジャームがアンタ達に死を贈ってやろう!! 愛しいブルーミルクの再誕にふさわしい贄としてねえ!!」


 魔力が噴き出る。


 熟練した魔法使い同士の戦闘。


 彼女達の魔力が光源となり、洞窟を照らす。


 今しかない、逃げるのは――。


 私は、ギフトに語り掛けて――。


「え」


 身体の動きが、止まった。


 脳より先に身体が反応したんだ。


 白、赤、黒、紫。

 様々な魔力の光で照らされた洞窟、ああ、見えてしまった。


 意識から追い出そうとしていた違和感に、気づいて。


 白い髪のきれいな人の服。


 黒いパーカー、おなかの部分、雪の結晶のマーク。


 ――ゆききだるまさんの服は雪の結晶のデザインにしてみました。


 あれ、私の……ギルド、ブラザーフッドの服……


 あの人が、顔も知らないあの人が、私を私として扱ってくれたあの人が、くれた、私の私だけの。


「は?」


 なんで? なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。


 《敵を、見つけたね。プレイヤースノウ


 声が、聞こえた。

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