第19話 カース・ブラザーフッド

 


「おい、ナビ、これは……」


 《……さあ、髪でも梳いて慰めてあげればいいんじゃないですか》


「それだ」


 《え、ほんとにやるの?》


 皆綺麗な髪をしてるのに、こいつら感情の上げ下げでいちいち髪乱れるからな。


「ホワイト」


 名前を呼びながら、ゆっくり髪を梳いていく。


 昔飼ってた犬をあやす時の経験がここで生きるとは。


「ああ、ああああああ、我が王、カース、カース……私、わたっ、ほんとは、ほんとは怖くて……わあああああああ、あなたが生きて、いいってゆってくれたから、ああああああああ」


「スカーレット」


 すげえなんで皆、こんな髪トロトロなんだ。


「わ、ワタシ、ワタシはずっと、ずっと仕方ないんだって……呪いを振り撒くより、呪いと共に死ぬしかないんだって……うっ、あああああああ……」


「クロ」


「ひゅぐっヒュ……僕、僕、生まれて、きたくなかった……生きてて良い事なんて一つもなかった……なのに、こんな、こんなにうわあああああん!」


 3人の髪をゆっくり整える。

 大丈夫だよな、セクハラとか言われないよな。

 もう3人ともズビズビに泣いていてーー。


 ――今なら全員を術式化できる。


 《リアクション・術式作成》


 う~ん、参った、こいつら泣き止まねえ。

 いや、今なら完全にアレだ、人心掌握チャンス……!

 ふふふ、自分の悪の才能が本当に怖い。


 《リアクションに失敗》


 ――……。


「俺達は仲間だ、誇り高き騎士達よ」


「「「っ、わあああああああああああああああああああああ」」」


 どすん。ぎゅっ、めきっ。


 彼女達が俺に一斉に抱き着いてくる。

 クロの額が俺の鳩尾に刺さった。

 スカーレットの長いポニテが首に巻き付く。

 ホワイトに至っては鯖折りまがいのハグだ。

 ガキんちょの姿とはいえ、化け物3人だ、普通に怖い。


 とっさに呪力で強化していなければ今ごろ……。


「「「わああああああああああ……カース……」」」


「もう強がる必要はない……お前達は生きていい」


 俺の配下でいる間はな。


 お前達はいずれ、俺の黒幕悪役プレイの仕上げに必要だ。

 ここは評価をもっと上げておこう。


「カース……わかった、わかったわ。あなたの願い、そして、私の願い……許せない、神も主神も、この世界も」


「ふっ」


 ホワイトの毛先がまた逆立ち始めている。


「つまり……そういう事だね、ああ、すべて理解したよ、ワタシの役割を」


 スカーレットの赤ポニテがふわりと浮いた。


「ふっ」


「ふへへ、僕、頑張るね……」


 クロの妙に尖った八重歯が目に入る。


「ふっ」


 ……あれ、なんか気付いたら泣き止んでるな?

 んんー? すごい、切り替え早い……

 こいつら、まさか出来る女か?


「準備を始めるわ、カース」


「ああ……」


 なんの?


「敵は神々の勢力……ワタシ達は呪いの王と共に、神の専横を終わらせる。その為には力が必要だね」


「ああ……」


 ……なんか、声に迫力があるね。


「僕達は神に騙された、7つの終わりの預言として仕立て上げられた、自分の意志さえも神々にとっては只の余興にすぎなかった……」


「ああ……」


 そうかな、そうかも……。


「敵は、強大ね、カース」


 えっ、やばい、合わせないと。


「……神の使徒プレイヤーは神の声を聞き、奴らの命令クエストを聞く。それを達成する事で神からの報酬で大いなる力を得ている、大いなる力は人を簡単に狂わせる。神からの報酬の為なら奴らはなんだってするだろうな」


 《えっ》


「やはり……プレイヤーは複数いるという事ね、もしかすると組織的な動きもありえるわ」


「となると、我々も戦争の為に組織を作る必要がありそうだね……」


「ふへ……ど、ど、同時に、こ、個の力の強化も必要です……ただ、強いだけでなく、ぼ、僕達と同じ境遇、同じ志を持てる仲間が……」



 なんか話が大きくなってきた?

 い、いや、大丈夫、そんなにね、組織の結成とかうまくいかないって。

 あんま大所帯になるとボロが出るからやめてほしいんだけど。


「……カース、これまでプレイヤーの存在が歴史の闇に潜んでいる、それはつまり世界の権力者や有力者達にも神の手は回っているという事ね」


「……いちいちすべてを俺が教える必要があるのか?」


「ッ……」


 あ、いけない。

 難しそうな事聞かれたから冷たい事言ってしまった。


 ど、どうする?


「ッあ、ハァ……その目、いい……はっ、大変申し訳ございません、我が王、差し出がましくも御身の恩情にすがるような卑しい真似、どうかお許しを」


「構わん」


 うお~セーフ、か?

 なんだ、ホワイトの奴、顔が赤くて息も、荒い……?

 ……風邪か?


「ホワイト……いいなあ……」

「ホワちゃん、ず、ず、ずるい……卑しい女……」


 よし、セーフっぽいな!


「はあ……っ、うっ、ふう……スカーレット、クロ。私達のやるべき事、もうわかってるわよね」


「はは、ホワイト。愚問だね。……組織の結成、拡大、整備、強化。プレイヤー、そして神々との決戦に備えよう」


「ふへ、そ、そ、それと並行して僕達ももっとつ、強くならなきゃ。マスターと並べるように」


 え、やめて欲しい。


「カース、我が王」


「カース、マイロード」


「カース、マスター」


 黒い夜衣に身を包んだ中身は別としてガワは絶世の美少女達。


 モブである俺には本来関わる事すら許されない特別な者達が跪く。



「これより我ら、御身の臣下に加わりたく」


「我らの呪い、我らの怒りを背負って下さる御身の矢避けとして」


「我ら呪いを受け、呪いに飲まれし者、この身が朽ち、呪いとなって果てようとも、この忠心は御身の下へ」


 首を晒し、目を伏せ。

 静かに言葉を紡ぐ彼女達。


 その姿勢から伝わるの絶対の信頼、崇拝。


「我が王」


「マイロード」


「マスター」


 世界を呪い、神に呪われた3人の特別な者が。


「「「カース」」」


 俺の名前を呼んだ。


 ………………………………………良い。


 え……凄く、良い……。


 悪役っぽい。


「貴様らは我が臣下、我が友、そして我が呪い。呪われた道を共にゆく。ーー呪いを背負い、呪いを統べる。その覚悟はあるか?」


「貴方との出会いこそ、我が人生最大の幸運です、決して幸運を離しはしない」


「ワタシの目を開いてくれた。君こそがワタシの神に相応しい、マイロード」


「呪いの御方、僕の呪いの王、御身を必ずや神座に至らせる、マスター」


「よろしい。ならば汝らはこれより我が三騎士となる。ーーもう汝らは終末の預言ではない」


 彼女達が、口を少し開け、それから目をつむり頭を下げる。



「我ら、呪いを背負い、呪いを統べる者。我らの名前はーー」



 記憶。


 ライフ・フィールドで駆け抜けた僅かな時間。


 ギルドメンバーとの時間。


 自分が決めたギルドの名前。


 ああ、とても、楽しかった。


「ブラザーフッド……」


 気付けば俺は呟いていた。


 少し、ギルドメンバーの事が懐かしく思えた。


 きっと、もう2度と会う事はないんだろうな。


「我らは"カース・ブラザーフッド"」


 でも、名前を貰うよ。

 ギルドの皆との時間を忘れない為に。


「神座の簒奪を。神の専横の終了を。人の、ーー呪いの時代を始めよう」


 彼女達が、跪きつつ、俺を見上げる。


「三騎士……支配の騎士、ホワイト」


「戦争の騎士、スカーレット」


「飢餓の騎士、クロ」


「「「我ら三騎士、必ずや憎き神々の御首を御身の元へ」」」



「良い、ならば貴様らには呪いの力を。運命に争い、神々へと弓を引く最強の力を」


 呪力。

 呪力を手に宿らせ、彼女達へ向けて放つ。


 なんとなく、出来ると思った。


 黒い炎のような光が彼女達を包む。


「これは、王の扱われた力……ああ、暖かい」


「あは、はは。すべて、すべて理解した……マイロード、魔力じゃない。これは、なんて暖かい力……」


「ふへ……人の香り……マスターの匂いがする……暖かい……」


 俺の呪力が彼女達を満たす。

 ……ノリでやってみたけどうまくいった。

 やっぱこいつらすげえ。

 なんか見た感じ、無意識に呪力をもうコントロールしている。


「上手く使え。呪いとは人の在り方そのもの。覚えておけ。呪いは決して貴様らの敵ではない」


「貴方から貰った、運命に抗う力……必ずやご期待に応えて見せます」


「この力は……贈り物だね、マイロード、必ずやこの御恩に応えてみせるよ」


「ふへへ……マスターとの繋がりを感じる……僕、僕が誰かかから初めてもらったプレゼント、……絶対に、離さない……」


 彼女達に渡したギルド制服に、闇色の炎が馴染んでいく。

 あれ、その服、そんな機能あったけ?

 なんか闇の勢力みたいでかっこよ……。


「カース、これより私達は早速行動を開始致します。まず、この人類国家における表の顔の確立を」


「得意な事から始めよう。ホワイトは……冒険者ギルド、ワタシは魔法学院、クロは……」


「ふへへ、僕は、暗殺者組織、シャドウハンドに会いに行こうかな……」


「我が王、貴方を迎える居城、呪いの王にふさわしい組織、拠点をご用意してみせます、どうかご期待を」


「ふん……俺には俺でこのあばらやにいるのには理由がある。良きに計らえ、仔細任せる」


「「「……! は! 承知致しました」」」


「よい。では行――」


「マイロード、組織の人事権はある程度任せてもらえる、そういう事でいいんだね?」


「……? ふっ」


「なんと度量の深い……感謝するよ、カース」


「構わん、それでは行け、我が――」


「ふへ……マ、マスター。表の地位確立はホワイトとスカーレットが、裏の地位はこの僕が。僕達はこれから人類大陸に手を広げる、それで、その、マスターとの表面上の関係なんだけど」


「……? 好きにしろ」


「……! ふへへへへ、了解しました、マスター。器、大きい」


「では、良いな? 行け、我が――」


「カース、それで、その…少し気は早いけど、……が、がんばったら何か、その、またあなたの……あなたから何かもらえたり、するのかしら」


「……? 働きには答えよう」


「!!!! ああ、我が王、ホワイトの命は貴方の為に……!」


「……ホワイト、ずるい」

「ホワちゃん、やっぱ卑しい」

「貴女達も同意よ、カースにとって我らは対等の存在だもの」


「ホワイト、素晴らしいね」


「ホワちゃん有能!」


 なんか俺を除いて皆が盛り上がっている。

 まあ、いつもの事だ。ライフ・フィールドのマルチプレイでもそうだった。


「……良い。我が騎士よ、行くがいい。我らーー」


「「「呪いを背負い、呪いを統べる者」」」


 セリフを、取られた……!

 邪悪!


「……行け」


「「「カース、すぐに成果をご期待くださいませ」」」


 彼女達が音もなく消える。


 どうやって移動したのか気になったが考えるのはやめだ。


 まあ、なんかいろいろあったし、話の半分くらいしか分かんなかったけども……


 総合的には、悪役っぽかったよな?


「よし……」


 なんかよく分からんけど、悪役プレイ出来たからいいだろう。


 朝日が眩しい。


 さあ、俺もやるべき事をやってしまわないと。



「畑、行くか」



 今日も1日が始まった。


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