第17話 世界の真実(かしこさ3)


 

 俺の高い知性の出番だ。


 かしこさは3だが、あれはきっと何かの間違いだ。


 きっとここは、俺のこれからの悪役プレイでとても大事な分岐点になる。


「我が王、下知を。貴方の騎士、ホワイトはあなたの願いの為に全てを支配します」


「マイロード、命令を。貴女の騎士、スカーレットの戦争はあなたに捧げよう」


「マスター、指示を。貴方の騎士、クロはこの飢餓をあなたに奉仕する事のみで満たします」


 こいつらは俺の配下。

 ならばその長である俺は何がしたいのか。


 いや、俺は


 ――決まっているだろう。


 決まっている。


 俺は悪役となって死にたい。


 誰かに覚えていてほしい、俺が死んだ後も。


 モブとして終わるんじゃなく、俺がいた事を覚えていてほしい。


 その為に必要な事、それは――。


「神々への反逆――」


「っ!?」

「それは……!?」

「ふへ。か、み?」


 大いなる設定と、ドラマチックかつインテリジェンスな背景!!


 ふふふ、俺がこの世界に来て毎日繰り返している悪役ロールシミュレーション!


 俺が最高にいい感じに死ねるように、俺は最悪の悪をこの世界で成す。


 《……………》


 ヒントはあの日、修学旅行。

 そう、悪役というのは不敵で大胆なのだ。


 スノウさんという偉い人に馴れ馴れしくしただけで、一気に俺はあの場の悪になった。


 なら、もっと偉い奴にもっとなんかしたらどうなるんだ?


 そこで俺は考えた。


「7大神、そして主神マリス。敵は、神々だ」


 この世界には本当に神様がいる。

 なので、あの時のスノウさんの役割をこいつらにしてもらおう。


「カース、それは……」


「時に貴様らは、ギフトというものが何を意味するか知っているか?」


「えっ……」


「古い言葉ではギフトとは贈り物を表わしている、神は何故人にギフトを贈ると思う? なんの為に?」


「マイロード、あなたは古ドルイド語にも詳しいようだね……」


「戦そ……いえ、スカーレット、知っているの?」


「……今ワタシ達が使う共通語バベルワードは魔族との古代戦争の際に、全種族の意思を統一させる為に編まれたもの。その中には今や忘れられた本当の意味があるというんだ」


「ふへ、マスターはそれを、知ってる……の?」


「……ふ」


 ほへ~そんな設定があんのか。

 

 ふむふむ、家無しの身分だと教養とか蓄えられないからな。

 

 いいね、今の材料でまた新しい脳内設定が出来た!


「呪い、だ」


「の、ろい?」


 ホワイトがいい反応をする。

 ぽかんとした表情、悪くない。


 あのきな臭い神様。

 せっかくあんな連中がいるのなら利用しない手はない。


「ギフトはいずれ持ち主であるギフテッドを破滅させるように最初から仕組まれている。ほかでもない贈り主の神の手によってな」


「え?」


「自ら己の力の危険性に気付き、死を選んだお前達は誰よりも真相に近かった、お前達の嘆きは正しく、その怒りは真っ当だ」


「カース、それは――」


「S級ギフトのSはSacrifice、意味は”生贄”」


「「「!!!???」」」


「ギフトとはつまり、神が人間を弄ぶ為の仕掛けにすぎん、そして貴様らのギフト。SSS級ギフトの意味は……えっと……! Sin、Scrifice, Soul。罪と生贄の魂」


「な……それは……」


「マイロード、神はなぜ、で、でも、神はなぜ、そんな事を、り、理由は?」


「ふっ、お前は太陽や星が輝くのにも理由を求めるか? 神とはそういうものだ」


 なんか確かライフ・フィールドでもボスキャラ神っぽいのが多かった気がするし。

 まあ、そんなもんだろ。


「……まさか……いや、でも、もしそうだとすると、歴史上で神が絡んだ事件の顛末に説明が……、理由がないのが、理由……?」


「スカーレット、気になるなら調べてみるといい。歴史上、S級ギフトと認定された者の末路を。そこには死しかないはずだ」


 ふ、人間皆死ぬからな、嘘は言ってねえ。ふふふふ。


「そ、そんな……7大神と主神は1000年に渡ってこの世界の守護を……」


「ふん、それは神の気まぐれと暇つぶしの遊戯にすぎん、現にこの世界には戦と憎しみが詰まっているだろう?」


「カース、あなたは……この世界を救う……気なの?」


「そんなつもりはない。――ただ気に入らないだけだ」


 よし、この辺で演出!

 呪力を練って、噴き上がるように。


「あ……魔力が……」

「いや、ホワイト、マイロードのこれは、魔力では……」

「ふへ、綺麗……」


「この世界の呪いを引き受けるのは、俺だ。俺こそが呪いを背負い、俺だけが呪いを統べるに相応しい。目障りなのだ、神を騙る我が呪いの簒奪者共がな」


「まさか……カース、あなたは、あなたは怒ってくれてるの?」

「ギフトが……カースの言う通り神が意図的に与える呪いだとしたら、ワタシ達は……」

「僕達の思いも、苦しみも全部……」


 ん? ああ、そうか、この話の流れだとこいつらも神に一杯食わされた事になる、のか。

 う~ん……どうしよ、あんま適当な事言うのは――。


 いや、待てよ……。


「我が騎士よ、お前達は今日、これより神の玩具を脱した」


「ああ……」

「……そうか、そういう事か……主神、マリス……」

「……真祖の連中の言葉は、ふへ、そういう意味……」


 これは、あれだ。


 最期の最期に俺の嘘に気づいたこいつらに討たれる黒幕悪役の最期のフラグじゃね!?


 悪のカリスマの高い知性による世界の真実、しかしそれは巧妙な蛇の嘘! 

 その嘘に気付いた悲しき過去を持った騎士は、一度は主と認めた男に牙を剥く!!


 悪くない! 

 いや、まだまだ死ぬ気はないが、その最期は良いのでは?

 よし、この路線で行こう!


「歴史を学べ、神話を疑え、さすれば見えるはずだ。腐った息の香りが。聖なる者を騙る淀んだ呪いの匂いがな」


「歴史……?」


「古い戦いの中でいくつか、神へ抗った者がいる、彼らはみな、神の仕組みに気付き、皆、討たれていったもの」


「ま、まさか……1000年前の、”人魔大戦”は……魔王と神の加護を得た勇者の戦いは……」


「……ふっ」


 ああ、やっぱあったんだ、そんな戦争。

 人魔大戦、なんか聞いた事あるな、かっこよ!


「……魔王は、神の専横に気付いていた? なら、魔族と呼ばれたあの種族達は……」


 目を見開くスカーレット。

 俺ほどではないが、こいつはなかなか賢いっぽい。

 戦争は賢くないとできないって奴か。


「俺は、まがい物が嫌いだ。悪は純粋でなければならない」


「カース、貴方の目的は……」


 ああ、インスピレーションが止まらない。

 なんかもう勢いが凄い。

 いけるとこまでいってしまえ!


「神の座から奴らを引き摺り下ろす、そして――」


 三騎士がみな固まる。


 はい、ここで呪力を眼に込めます。


 お面はなんか割ったおかげで普通にもう外せてる。


 良い感じに呪力反応が両目に宿るだろう。


 熱っっっっ!! 我慢!!


「俺が、この世界の神となる」


「「「ああ……カース」」」


 決まった……!

 100点満点!


 俺、今最高に黒幕悪役してる!!

 いたいけで純粋な美少女を騙し、神に罪をなすりつけ!


 まあ、転生とかなんやら少しきな臭いけど、たぶんここまで邪悪ではないだろう。

 すまん、神様。


「ま、マスターの魔眼……あんな複雑な模様、見た事がない……」


「マイロードのあの魔眼、どの系統にも属さないものだ……伝承血統……神に滅ぼされたあの、民族の……まさか」


 ああ、それにしても、自分の悪の才能が怖い!!

 俺って、俺こそが悪だ!



「――つまり、カース。私達には明確な敵がいる訳ね。7大神に主神、そして、神々の意思をこの世界に反映させる何か、闇に潜む大いなる敵が」


「え……? あ、ああ、うん、そうだね。ごほん! ああ……」


 なんか思ったより掘り下げてきたな?


「そうだね、ホワイトの言う通りだ。カース、その存在を教えてほしい。敵は神々だけではない、そうだろう?」


「えっ、なんで? あ、うん。ふっ……そうだな」


 え? いや神だけだと思うけども。


「ふへ……7大神にしろ、主神にしろ、彼らが盤面を転がすには駒が必要、てっことですよね? 神の駒……ううん、神の意思を世界に反映させてる者が、いる……」


 あれ、クロさん、お前もなんか掘り下げる感じ?


「「「我々の敵は、神だけではない」」」


 嘘だろ、コイツら。

 自然に敵を更に増やしてね?


 これがナチュラルボーンイービル……怖……

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