第15話 衣装合わせ


 

 保管庫!! 保管庫!


 《プレイヤー保管庫は未だ、貴方の命令を完全には――》


「やかましい!! 女の子こんな姿で侍らせる趣味はねえ!! 従え、保管庫! 開け!! 粉々にすんぞ!!! 術式展開、” 平安宣皆呪言令"!!」


「「「きゃっ」」」


 3人の災厄娘がなんか小さな悲鳴を上げるのと同時。


「命令だ、開け」


 《なっ、術式対象をシステムまで拡げたのですか!? 呪いの、王ーーふっ、プレイヤー、貴方はやはり……!》



 ブウウウウン。


 不機嫌なゴールデンレトリバーの鳴き声みたいな音。

 虚空に穴が開く。



「保管庫、服を出せ!」


「それは……カース、貴方まさか……」


「……魔力による空間への干渉?」


「魔界……?」


 全裸3人娘がなんかポカンとしてる。


 今、それどころじゃねえ!

 翁面があったんだ! 他にもなんかあるはず!


 ライフ・フィールドを2周もしたアイテム蒐集癖がある俺の保管庫なら、何かーー。


 突っ込んだ手に感触を感じてーー。



 《アイテム取得・"宵闇の戦闘衣"×3 ※これはギルド戦闘服です》


「あった!」


 取り出したのは、黒色のーーいわゆるストリートスポーツウェアだ。


 上下セット、パーカーとスウェットパンツ。


 そして黒いハイテクスポーツスニーカーセット。


 ライフ・フィールドのふわふわ中世ファンタジーとSFが微妙にミックスした世界観独特のアイテムだ。


「これを着てーー」


 ぶぶー!

 ピープ音、わかりやすく俺が持ってる服になんかバッテンのマークが浮いた。


 《本アイテムは使用者登録がされています。雪だるま"と"世紀末災厄王†nana†"、"ロンゴミニアド石井"》


「あ」


 蘇るのは、俺の青春の記憶。


 発売からまだ1ヶ月しか経ってない。

 だが、ライフ・フィールドのオンラインマルチで出会ったフレンドとの、存在した記憶。


 ギルドのメンバーと駆け抜けた大規模PVE、クソ仕様で荒れた対人総力戦。


 これはその時皆で揃えて、デザイン機能を駆使して作った思い出のギルドの制服で。


「全使用登録解除! ほら、着て、着て! これを着て!」


 それどころじゃねえ!

 ごめんな、皆、ギルドマスター権限で使わせてもらいます!


「え、あ、わ、あ、ありがとうございます……我が王、これは……えっ、この肌触り……? この感触は」


「マイロード、君、これ、ミスリルとオリハルコンを編んでないかい!? な、神代素材、それも、鉱物の繊維化なんて、ドワーフの鍛治でも歴史上数人しか成し得ていない技術……」


「ふへへ、すべすべして気持ちいい。……でも、ぶかぶか?」


「あー、それは特殊な素材でな。身体に合わせてサイズを変える、いいから早く着てくれ、目に毒……いや。……いつまで俺の前で裸体を晒すつもりだ。不愉快だ」


「あッ、カース、失礼しました……あ、なんだろう、良い……」


「うっ、あは。不思議だ、カース、君のその冷たい目、なんて……」


「ふへ、カースが、僕を蔑んだ目で……見られたところが熱い……」


 服を渡した瞬間、勝手に服自身が彼女達の肌に馴染んで装衣されていく。


 よく覚えてないけど、ライフ・フィールドの設定で過去に滅びた超文明がどーたらこーたらあったようななかったような。


 ほぼ、キャラビルドと戦闘に熱中しすぎてあまり設定とか覚えてない。



「……雪だるまさんとか、めちゃくちゃ考察してたなあ」


 懐かしい気持ちになりつつ、服を着た彼女達を見つめる。


「凄い……魔力防護に強化魔法……なんて軽い……」


「それだけじゃない……ワタシ達の呪いの気配が薄れている? 強い、神の加護に似たものを感じる」


「ふへへ、僕、神様に嫌われてるのに、これピリピリしない。それにカッコイイ……」



 おお、凄え。

 俺の目の前にはストリート系ファッションショーみたいな光景が。


 本気の美少女がこういう黒系で固めるとカッコイイな。


 ……おっと、いかんいかん。悪役ロールに戻らないと。

 ふう、全裸の破壊力でペースを持っていかれていた。


「それは貴様らにくれてやる。俺の仲間の証、とでも思うといい」


「カース、我が王からの賜り物……名前だけじゃなく服まで……ああ、そう言うことなのですね、カース」


「……ふ。カース、ワタシは戦うことしか知らない、殺す術を模索することしか出来ない女だ。なのに、君は……物好きだね、マイロード」


「ふへへへ、ふへへへへ。だ、だ、誰かからぷ、プレゼント貰うなんて初めて……マスターと僕のき、絆、形、ーー誰にも渡さない、これだけは」


 どう言うことかも分からんし、物好きでもないし、絆ではない。


 支給だ。


 まあ、なんか満足そうなのでよし!


 にしても本当き似合ってるな。


 ゲームのギルドメンバーのお古だが、彼女達が着るとすごく映える。


「カース、私のこれ、もしかして雪の意匠ですか? ふふ、貴方は強く恐ろしいだけじゃない。……嬉しいです、もはや遠い故郷を思い出します」


 ホワイトの服は"雪だるまさん"が前に使ってた奴だ。


 雪だるまさんのリクエストで入れた胸からお腹にかけての雪結晶のワンポイントがわかりやすい。


「カース、ワタシの服、いいね、気に入ったよ。短剣、かな? 7大神よりも古い神、人に魔法を与えた魔法神アルの七つ道具の一つかな。君は歴史にも詳しいんだね」


 スカーレットのは……nanaさんの服か。


 その反応、nanaさんを思い出す。重度の中2病だったけど元気かな。


「ふへ、カースのデザイン、可愛い。僕のは、月……嬉しい……三日月だァ、僕も、三日月好きだよ」


 クロのは、石井さんのか。


 石井さん、今でも星座観察してんのかな。


 いつかオフ会してキャンプしようとか言ってたけど叶わなかった。


 社会人らしいけど、仕事頑張ってんのかな。


「「「カース、ありがとうございます」」」


「良い。ふん、それにしても馬子にも衣装、か」


「ま、ごにも? カース、それは……」


 ホワイトが首を傾げる。

 ああ、言葉は通じるけど、諺までは無理か。


「気にするな、言葉のあやだ。俺の手作り品で悪いがしばらくはそれで我慢しろ」


「カースが、私の、私のために、雪結晶の意匠までくれた服……」


「カース、キミが僕にしてくれた事は忘れない……果てない献身と働きで返そう」


「カース、ぼ、ぼ、ぼ、僕ね、僕頑張るね、貴方の敵の首をああ、いくつ捧げれば……」


「ふ……」


 いかん、またなんかこいつら顔が怖くなってきた。


 だがーー。



「「「カース、改めて我ら災厄の三騎士。御身の下に」」」


 おお、配下っぽい。

 俺の完璧なカリスマ悪役ロールは成功したみたいだな、ヨシ!


 ふ、敗北を知りたい。


「カース、貴方は私達に名前をくれた、服をくれた」

「カース、君はワタシ達に生きる意味をくれた」

「カース、あなたは僕達に絆をくれた」


 うーん、服と名前以外はそうでもないけど。

 水を差すのもあれだな。

 俺はコミュ強だからその辺の機微がわかるのだ。


「故に、カース。今この時より我が命、我が全性能はあなたのものです」


「あなたの願いをお聞かせください、我らはそれを果たします。この命に換えても」


 願い?


 ……あれ、よく考えるとアレだな。

 俺は異世界で悪役プレイがしたい。


 それは間違いない。


 だが、仲間を募ってまでやりたい事と言われるとーー。


「「「カース、お願い、貴方の願いを聞かせて。あなたと一緒の夢を見たいの」」」


「「「例えそれが世界を滅ぼすという事であっても、あなたとならば」」」


 忘れていた。

 こいつら本物の悪でぶっ飛んでる奴らだった。


 別に世界を壊すとかいう気は今の所ない。


 ここは上手い事こいつらの謎の熱意を誘導して……


 いや、待てよ。

 これ、もしかしたらアレじゃん。


「「「我らになんなりとご命令を、我が呪いの主人よ」」」


 ……悪の計画お披露目イベント、出来るのでは?

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