第14話 告げる、汝の名は我が下に

 どうしてこうなった。


 今、俺は3人の美少女に囲まれて目覚めを迎えている。


「我が王……」

「マイロード……」

「マスター」


 3人とも、それぞれ種類の違う美少女。

 

 正統派白髪美少女に、赤髪ポニテ吊り目ハイライト無し美少女、ダウナー目のクマ黒髪地雷系美少女の共演。


 異世界ファンタジーにふさわしいラブコメイベントだ。

 

 しかし、相手はこの3人。


 俺の完璧な悪役ムーブを食いかねないキャラの強い連中。


 良くない状況だ。


 きっと昨日の仮を返しに来たのだろう。

 だが、さっきは一瞬マジで焦っていたが――


 《敵襲!!!!! 敵襲ですよ!!!! プレイヤー! 敵襲!!! 敵襲です! わあああああああああああ!!》


 うん、ありがとうナビ。

 人間、自分より焦っている奴がいるとスンっと落ち着けるよね。


 落ち着いた所で、よし、始めるか。

 

 俺の目指す悪役にふさわしい振る舞いロールプレイを!


「我が王……貴方は暖かい……北方の冬も貴方の魂を凍えさせる事は出来ない」


「マイロード……貴方の魔力は不思議だね……なんて人臭い……」


「マスター、血の音がする。ああ、なんてたくさんの血と死に満ちた香り、ふへへ……」


 ……目、怖。

 

 これは生半可な悪役ムーブだと、食われるな……。

 

 負けてられねえ。


「……誰の許可を得て我が社に踏み入るか。痴れ者ども」


「「「ッッッ!!」」」


 さっきまで蕩けた顔で添い寝してきた連中が一瞬で、飛びのき、片膝をついてひざまずく。


 こいつらの目的はわかっている。


 奇襲! お礼参り! 逆襲! 


 残念だ。

 そっちがそのつもりなら、俺も対処するしかない。


「よくここがわかったものだ。三騎士」


「我が王……」

「マイロード……」

「マスター」


「良い、言葉は不要だ」


 一晩眠ったおかげで呪力は回復している。

 まさかこんな早い再戦になるとは思いもしなかったが……。


 危険だ。

 

 翁面の識別不能効果を突破し、夜襲をしかけ、あまつさえ俺が目覚めるまでわざわざ寝床で待機する。


 全裸で!! 


 さ、サイコパス!!!!

 誰か男の人呼んで!!


「術式作――」


「「「カース、御身に仕える為に、我らここに参上仕りました」」」


「――え?」


「大変申し訳ございません、御身があまりにも無防備に、そして質素な、床でお眠りであったため……」


「ワタシ達の人肌で温めるべく……」


「ま、マスターが風邪ひいたら、し、死んじゃう、定命の物はすぐ死ぬから」


「……ええ」


 どういう状況?


 ◇◇◇◇


 要約すると、だ。

 彼女達はなんと、俺を殺しに来た訳ではなかったらしい。


 それどころか――。


「我が王よ、貴方は私の呪いを受け止めてくれました、死のみが救済であった私達に生きろと言ってくれた」


 言ったっけ?


「マイロード、君はワタシをまっすぐ見つめてくれた。傲慢にもこう言ってくれたね、ワタシが世界を壊す事はないって。生きていい、俺の傍にいる限りって」


 言ってなくねえか?


「ま、ま、マスターマスターマスター……マスター。マスターは僕との出会いを運命って言ってくれた……呪いもこの飢えも全部僕達が出会う為のものだったってゆってくれた!!」


 言ってねえよ。


「「「故に我ら」」」


 全裸の美少女達がひざまずいたままに。


「支配」

「戦争」

「飢餓」


「「「人ならざる我ら3つの兵器、終末の預言、その3席が我らはこの身命を貴方に」」」


 ええ……怖……

 

 こいつら、人の話聞かねえ!

 ほ、本物だ……俺と違う本物の悪……。

 だめだ、勝てない。俺はやっぱりモブで。


 ――いっそ悪役になれば良かった。最初からそうしていればよかったんだ。


 いや! まだ諦めるには早い。

 

 逆に考えるんだ。

 逆に、だ。

 ここまで人の話を聞かない頭がぶっ飛んだ連中、しかもなんか厄い背景、悲しい過去持ち。


「……我が王、沙汰を」


「マイロード……ワタシは君になら」


「ま、ま、マスターが全部、き、決めて……」


 こんな奴らを配下にするって、悪役っぽいな!


 決めた!


 こいつら、仲間にしちまおう!

 俺は真の悪を高い知性とカリスマ性で支配する悪にもなるのだ!


 ふふふ、やってやるぜ。悪のカリスマロールプレイ!


「面を上げろ」


「「「はっ」」」


「貴様ら、名は?」


「せ――」


「違う、在り方ではない。名前だ」


「……我が王、我らに、一般的な名はありません、生を受け、それぞれがこの宿業を背負ったと分かった瞬間に、我らには銘が与えられたのみです」


 白髪の美少女が答える。

 

 え……お、重……なにそれ。許されるのか? そんな人権ない感じのやつ。


 いや、ピンチはチャンス。

 ビビったらだめだ。


「我らはそれぞれの種族の兵器。兵器に名前はありません、我が王、私の事はどうか支配、と。私はこれより、貴方の騎士、貴方の兵器、貴方の力として――」


「俺に外付けの力はいらん、兵器もいらん、必要ない」


「……やはり、私は、私などでは……」


 明らかにしゅんとする3人。

 いや、今のどこでしょげるか本当に分からん。

 まあ、いいや、いい感じに勧誘しよ。


「俺に必要なのは、聡い仲間だ。俺の目的を理解し、共に大願を成し遂げる事のできる仲間、だ」


「え……」


「支配、貴様には名がないのだな、ならば、俺がそれを与えよう」


 支配じゃ呼びにくいしな。


 えーと、白い髪に、なんか北方とか言ってたな。


 うーん。思い出せ。白、北方、支配、馬……。


「ホワイト……ノース、――ホワイト・ノース・セインライダー。今日よりお前はホワイトと名乗れ」


「ホワイト……我が王……私に、名前を下さるのですか? ああ、我が王……うう……」


「えっ」


 泣いちゃった!!

 

 え、ダメ? 駄目だった? で、でもかっこよくね? 我が名はホワイトとか……。


「え……ずる……、マイロード……マイロード、ワタシも、ワタシも名前がありませんので」


「えっ、つけていいの?」


「え?」


 やべ。素で話しちゃった。

 俺の108個の悪役ロールモデル、強者悪役に戻らなければ。


「ごほん、いいだろう。貴様は……赤か……スカーレット。スカーレット・エルヴァ・クリークライダー。今日より、お前は、スカーレットだ」


「スカーレット……ああ、マイロード……」


 なんか赤髪ポニテのエルフ耳も固まっちゃった。

 え、大丈夫? 

 やっぱ名前あんまよくなかった感じ?


「ま、ま、ま、マスター……僕も……支配、戦争だけずるい」


「ホワイト、です。飢餓」

「スカーレットだよ。飢餓」


「む、むむむ……ずるい、ず、ず、ず、ずるい! 2人だけ……ふ、へへ。そ、そうなんだ、ここ、でも僕だけ、僕だけダメなんだ……そうだ、僕はどこにいても……」


 ず、ずずず。


 黒髪地雷系から、真っ黒な瘴気が漏れだす。


 それは次第に形を帯びていく。

 天秤のような形のそれは――やばい! それ昨日のインチキ呪力簒奪能力じゃねえか!


 させるか!!


 呪力スイッチオン!!

 干支百景調伏呪法! 行け! ネズミさん達!!


「あっ、可愛い」

「ああ……素晴らしい、なんて複雑かつ、美しい召喚魔法……」


「あ……あああ……」


『チューチューチュー!!!』


 みるみる間に大量のネズミが天秤にかじりついて平らげていく。


 え……怖……そ、そんな食べるまで命令したつもりなかったんだけど。


 こう、良い感じに注意を逸らして、その隙に呪力でぶん殴ろうとしてたのに……。


「凄い……召喚獣が、こんなにはっきり、そして大量に」


「あ、ああああ……僕、僕、また……マスターマスターマスター、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、捨てないで、捨てないで、捨てっ」


「悪くないな、クロ。貴様の……魔法? この力。天秤を出した瞬間に対象から魔力を強制的に徴収する、ふむ、だがわざわざ天秤という形を象っているのだ、まだ他にも効果があると見た」


「クロ……クロって」


 きょとんとした黒髪の少女。

 唸れ、俺の高IQ! ネーミングセンス!


「貴様の名前だ。今日より、貴様はクロ……クロ・アルカド・ハンガーライダーだ」


「……ふ、へへへへ。ふへへへへへへ。クロ、僕、今日から、クロ! マスターが、名前をくれた……!!」


 にこにこ顔でほほ笑む少女。

 あれ、喜んでくれてる?

 ふ。ふふふふ、良かった、大丈夫だったぽいわ。


 ――使えるな、こいつらの力は。悪くない術式の贄になりそうだ。


 よし! なんかエンジンかかってきたぞ! 


「我が王、私の名前はホワイト……貴方がくれた私の、私だけの……」


「マイロード、ワタシはスカーレット。カースとワタシの絆……」


「マスター、僕、クロ、あなたのシモベ、今後ともどうぞよろしく」


 俺の前に侍る美少女。

 うん、悪くないんじゃないか?

 頭を垂れ、膝をつき。


 ――白い肌は、朝日を受けてよりコントラストを際立たせる。


 ――見るだけでわかる柔らかそうな肉はきっと触れれば瑞々しい弾力に富んでいる事だろう。


 ――本来隠すべき胸の膨らみ、未だ未成熟なれどただ若いその裸体、この雌はお前の物……


 うん?? 全裸???


「……貴様ら、服は?」


「「「……服????」」」」


 あかん!!!!!!!


 服!! 服服服!! 名前より先に服だった!!!


 服着せないと!!

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