第12話 我が名は、カース

 

「名前を、せめて貴方の名前を聞かせて欲しい」


「……ワタシもだ。君の名を知りたい」


「ふ、へへ、あ、あ、あ、あの、ぼ、僕はき、飢餓です。あ、あ、貴方は?」


 これはアレだ。

 悪役の登場イベント。

 圧倒的な力で場を納め、かっこいい名乗りと共に消える奴!


 こ、コイツら、分かってる!

 なんて良い奴らなんだ。

 だ、だがやはり……今の所身バレはしたくない。


 慎重に、偽名を名乗る!


「名前、か。俺の名前は粕谷……いや、待てよ」


「か……ごめんなさい、もう一度聞かせてもらえない……かな」


 ここで本名はまずい。


 えっと、えっと。良い感じの偽名……。

 俺の名前がかすたに、だから――。

 

 かす、たに、えーと、なんか良い感じの偽名。

 スタイリッシュかつ、邪悪、それでいてセンスのある奴……


「かー……す……」


「「「……カース?」」」


「えっ」


 えっ、待って。


「カース……貴方は、カース……」

「カース……古ドルイド語で、確か……」

「カース、ふ、へへ、いい匂い……」


「いや待っ」


「「「え?」」」


 シュンとした3人の顔。

 何かの期待を損ねたような。


「あ、ゴホン……!」


だめだ、もうこれで行こう。


「そう、我が名は、カース」


見せてやる。ライフ・フィールドで鍛えたアドリブを!


「――この世界全ての呪いの行き着く先、呪いを統べるもの」


 なんか名乗っちゃった。

 でも、カース……。

 呪術師のクラスで、カース呪いって悪くねえな。


「「「カース……」」」


 やべ。

 今の俺、めちゃくちゃ悪役っぽくねえか?

 勢いでキャラ付けまでやっちゃったけど、悪くねえよ。


 後はこのままカリスマ悪役プレイをやり切る!


「カース……あなたは」


「今はまだ俺達に語るべく言葉はない」


「……ワタシ達には、キミと対等に話す資格がない……そういう、事かい?」


「まだその時ではない」


「ふへ……カース……くんはどうしてボク達を、助けて」


「言ったはずだ」


「え……」


「――黙示録の三騎士よ。支配、戦争、飢餓よ」


「あ……」

「僕達の名前を……」


「お前達の行くつく先はこの俺だ。お前達がその業に呑まれんとしたとき、立ちはだかるのは俺だ」


「ふへへ、つまり、この出会いは、う、う、運命って事ですね……」


「ワタシ達は……そうか……」


「カース、貴方のその仮面……顔を、見せてもくれないの……」


 え、個人情報バレ怖いし嫌だな。

 でも、待てよ。

 真の悪役には美学が必要だ。


 顔を見せろと言われて、身バレ怖いので嫌どす。

 なんか覚悟決まってない動画配信者みたいだな……。


 よし……少し外して……

  あれ、なんだ、このお面、顔に張り付いてる。



 《翁面(黒)は呪われたアイテムです。”翁の呪”により着用者は生命を捧げなければ外す事は》



 セイッ!!


 ばぎっ。


 あっ、割れた。


 《翁面(黒)破損……破損!? プレイヤー、どういうつもりですか?》


 ナビの声が震える。


 いや、違う、だってこれ、外れないんだもん。

 良い感じに顔の上、片目だけ見れる感じで壊せたぞ。


「顔が……」


「これでいいか?」


 よし、あとは……あ、そうだ。

 呪力を纏わした箇所、色が変わるから目に呪力を回してみるか。


 これで身バレの防止にも――。



 《呪力操作・強化系使用。あっ》


 あ?


 熱っっっっっっっつ!!!!!


 え、うっそ!! なにこれ!? 

 目熱っつ!! 刺されたみたい!

 やばい、呪力って目だめなの!?

 いかん、早く呪力操作をやめて――。


「黒炎の、瞳……燃えているような……あの、紋様は」


「……なんて、美しい色の魔眼……」


「ふ、へ……定命の者で、ここまでのきれいな魔眼を見るの初めて……」


 え、その反応……。


 めちゃ良い……何かこう、風が吹いてるような。


 駄目だ、今さら痛くてやめるとか出来ねえ!


 んがああああああああ、いたいいいいいいいいいいいい。


 《特定の行動を確認、新たな技能”呪力眼・LvⅠ”を取得しました。LvⅠの呪力眼では相手のレベルを確認できます》


【支配の騎士・Lv999、SSS級ギフテッド】

【戦争の騎士・Lv999、SSS級ギフテッド】

【飢餓の騎士・Lv999、SSS級ギフテッド】



「つっっっっよ!!!!」


「「「え?」」」


 ミスった!

 唸れ、俺の臨機応変力!!


「――くなれ、貴様達、……少しばかりだが、期待している」


 ああ、もう自分が何言ってるかわかんねえ。

 さすがに、誤魔化せてない――。


「あなたは……そう、そう言う事なのね。理解わかったわ」


「……君は、ワタシ達以上に、なんて、孤独なーー」


「僕達には、僕達がいた……で、で、でも、あなたには、誰も……貴方はずっと1人で……それなのに、僕達を……」


 あれ?

 行けたっぽいか。

 少なくとも、俺がコイツらの強さにビビったのはバレてないぞ?


 なんかどことなく、こう、しっとりしてる気がするけど。

 気のせいだな! ヨシ!


「カース、いえ――我が王よ」


「強き旅人、いや、呪いの王――マイロード」


「ふへへ、強くなれ。拝命致しました、ま、マスター」


 3人が片膝をつき、跪く。


 ん? え、行けたんだよな?

 襲ってこない? 

 よ、よし、早く帰……


「おい、なんの冗談だ。この魔力は……!? おい、ガキ共すぐに洞窟を出ろ!!」


 ん?

 誰だ?


 なんか目つきの悪い系イケメンが急に出てきーー。


「き、教官……み、皆、気絶しちゃって……わ、私も、腰抜けちゃっ……え、あの子達……」


 雪のような白い肌。

 夏の雲ひとつない7月の空を映した瞳。

 輝くような金の髪の美少女。


 あ、やべ。

 クラスメイトのトップカースト4人組!


 なんで、ここに!? 


「クソ!? 間に合わなかったか! ……白い髪の北方人。赤い髪のエルフ、黒い髪の……ドラウ人……待て……お前らの顔、見覚えがある! 聖地でーー」


「「「……我らを、見たな。定命の者よ」」」


「チッ!! 未踏大陸勢力の脱走兵器……!! なんで、ここに!」


「「「教会の剣に、転生勇者か……目障りだ」」」


「……! 奇跡承認申請!!」


 一触即発の空気。


 世界を滅ぼす預言と、世界を救う剣の邂逅。


 どちらが生きる限り、どちらかは生きられない。


 宿命の戦いがーー。


「……やめろ」


「「「ーー御意」」」


「……あ? なん、だ。どう言う事だ、今、お前達が、指示を聞いた、のか?」


 目つきの悪いイケメンの動きが止まる。

 良かった、意外と理性的な奴だ。


「……おい、お前か? この、異常な、魔力……いや、それよりも遥かに濃い、神気にも等しい力の持ち主は」


「…………」


 怖……本気になってる大人、怖えな。


「おい、何とか、言えよ。……お前、今、そこの3人に命令を聞かせたのか? ……その仮面、その魔眼……何者だ?」


「き、教官……」


 教官?

 え、あれ、スノウさんだよな。

 んー? よくわからんがあれか?

 保護者的な?


 ここは、ひとつ穏便に。ていうかもうマジで早く帰りたい。


「……よく育てているな。それでいい、教会の騎士よ」


「あ? 何を……まさか、てめえ、このガキ共の知り合いか? ……チッ、それは、認識阻害の失伝魔法だな。クソ、この距離でこんなに……どれだけ強力な魔法効果だよ」


「騎士、お前は引け。俺達はまだ、出会うべきではないのだ」


「悪いが、こっちも仕事でね。このガキ共をヒヨコのまま終わらす訳にはいかないんだよ」


 目つきの悪いイケメンが2つの剣を構える。

 ……ん?

 あれ、なんか戦う感じになってる?

 引けって言ったよな?


 いや、落ち着け。

 こっちが敵意を見せなければきっと通じ合う筈だ。



「「「……剣を抜いたな? 我らが尊きお方に向けて」」」


 嘘だろ、なんでお前ら支配、戦争、飢餓が切れてんの?


 目怖……


「ぁ……」


「っ、逃げろ! ガキ! お前のギフトなら、他の3人を起こせる! ここは、俺が食い止めっ」


 腰を抜かして、泣き笑いのスノウさん。

 血相を変える騎士。


「「「させると思うか?」」」


 3人娘の低い声。

 掲げた手から、支配が、戦争が、飢餓の力が騎士に向けられーー。


「おい」


「「「ッ……!!」」」


「やめろ、次はない」


「「「ッッッッ!! はっ」」」


 3人娘が、その場に跪き首を垂れる。


 あぶねー! アイツら完全に殺す気だったよ!

 怖……なんですぐに殺すという選択肢を取るんだよ……


 流石に目の前でクラスメイト殺されるのはキツいって。


 もう、皆帰ろう。ね? 俺明日も畑仕事あるしさ。

 どうやって場を納めるか。

 なんで皆話を聞いてくれないんだ。

 ああ、いっそ。


 ーー言葉一つで他人を思い通りに操れたら。


 穏便に話し合いが出来たらなあ。


《G級ギフト・術式作成。使用準備完了》

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