第11話 呪いの王

 ◇◇◇◇



「ケヒッ!! ヒーーヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 白い矢が俺に迫る。

 赤い光が俺を焼く。

 黒い調べが俺を奪う。


 ここに集うは世界を滅ぼす呪いの力。

 神をすら脅かす呪いの3騎士。


 ――問題ない。

 

「なっ」


 ――遅い。


 白い矢を拳で叩き。

 赤い光を呪力で捻じ曲げ。

 黒い調べは呪力で防ぐ。


「えっ、どうやって」

「ふへ、なん、で?」


 奴らの動きが完全に止まる。


 攻撃を止められた程度で動きを止めてたら話にならない。


『ぶるるるうるるるるうあああああああああああ!!!』


 魔の肉で象られた騎馬が、蹄を振るい俺を踏みつけーー。


「ケヒッ、どうした。蹄に何か詰まったか?」


『『『ブルモア!?』』』


 呪力を纏った両腕を掲げ、それを受け止める。


「……うそでしょ」

「ありえな……」

「な、なんで死なないの?」


 力を振るう事の酔いにまみれていた3騎士がその異常事態に素面に戻って。


「どうした、そんなものか? 世界を滅ぼす呪いとやらは!!」


 腹、首、また腹。


 ドクロ面を砕き、鎧を割り、馬の首を捻り折る。


 襤褸を纏い、馬に跨るクリーチャー3人を殴ったり、蹴ったり。


 馬に乗ったのは悪手だな。

 この洞窟で小回りが効いてない。


「遅すぎるぞ、お前達」


「あ、ぎ」

「が、は」

「え、え」


 吹き飛び、壁に叩きつけられる化け物。

 乗っていた馬は霞のように解けて消える。


 信じられないといった表情のドクロヅラが俺を見つめる。


「うそ……」

「あ、りえない、魔法も、ギフトも使わずに……」

「ただの、体術……な、んて、重い攻撃……」


 凄く身体が軽い。

 ポカポカして気持ちいい。

 そんな感覚のまま、殴ったり蹴ったり。

 いつのまにか奴らは反撃してこなくなった。


「ん? 本当にもう終わりか……? 世界を滅ぼしてしまう……お前達の心配は杞憂だったようだな」


 《……レベルも技能も、アポカリプスの評定を受ける彼女達を打倒出来る水準ではないのに……イレギュラー……!》


 ナビも同じく震える声で呟く。


 ふ、ふふふふ。ふふふふふふふふふふふふふふふ。


 やっべえ。


 もう無理だ。

 さっき気付いた。

 もう限界。


 足はガクガクだわ、身体は重いわ。

 攻撃も今のがラスト。次動いたら身体崩れる。


 ――決戦術式終了。再封印開始……まあ、こんなものだろう。


 呪力操作の反動か?

 めちゃくちゃに無理をしてしまったのかも知れない。


 だが――。


「なんて、強さ……」


「規格外……ランク持ちの冒険者とも、ギフテッドとも比べものにならない……ね」


「ふ、へ。ほ、ほんとに、定命の、者……?」


 なんかいい反応しとる!

 ナビの反応といい、こいつらの反応といい!


 驚愕され、怯え、恐れられる!


 今の俺。最高に悪役なのでは?


 力を暴走させていた悪役をさらに圧倒的な力で一蹴。


 格の違いを見せつける悪役強者プレイ……! 気持ちいい!


 そうなると今、限界ギリギリなのはバレる訳にはいかねえ……!


 マグレ勝ちですなんて今更言えるか!


 やり通してみせる! 不敵な強者悪役プレイを!


「……支配の権能を、どうやって」


 白い髪の騎士が呆然と呟く。

 ボロボロとドクロ面が崩れてゆく。

 うお、そのビジュアル、いいな……

 お面が微妙に割れてるのかっこよ。


「容易い。お前の能力、それはあくまで魔力暴走を意図的に引き起こし、対象の精神を操る技術に過ぎん。脳で暴れる魔力……いや、俺にとっては呪力か。それを操作するだけで事足りる」


「そんな……事が……」


 ナビが解析してくれたおかげで奴らのヤバさが分かる。


 いや、ホントよく勝てたよ。

 ワンパンキル確定の能力を基礎ステ高い奴が使うんじゃないよ。


「バカな……我が戦争が……世界を滅ぼす戦の権能、その軌跡が……通じない?」


「ああ、火薬を生成するのは少し驚いたが……まあ、その程度か。貴様は……魔力による形成……いや、事象の変換と召喚か。まあ、うん……余裕」


 エルフ耳のロング赤髪ポニテの戦争とかいう奴。


 なんか武器とかめっちゃ生成してくるんだわ。

 最後の方にはアレ、機関銃みたいなの召喚してきたよな?


 もしかして戦いが長引くほど戦争の概念が進化すんのか?

 だとしたら……怖……。


「ふ、へへ……凄い、魔力に底が見えない……餓えを知らない底なしの魔、そのもの……」


「ふん、貴様はもう本当……天秤による強制的な魔力の搾取とか……ふざけ……ゴホン。容易い。搾取されたのなら、また新たに練ればいいだけのこと」


 あの八重歯黒髪、”飢餓”とやらもおかしい。


 天秤が揺れるたびに、身体の中の魔力、いや呪力が消えていく。


 農奴ライフの中で呪力を練って固形化して貯めておく練習してなかったらやばかった。


 めんど……存在するだけで抵抗不可のデバフ撒いてくるの反則でしょ。


 こいつら、普通じゃない。


 でも、弱みを見せるわけにはいかねえ。

 行くぜ、悪役実力者プレイ。


「結局、全員普通すぎる」


「私達が……」

「ふ、普通……?」

「は、初めて、そんなふうに言われたの……」


 《技能判定”ゲーマー”が発動します》

 《黙示録の3騎士の脅威を看破しました》

 《”あなたは目の前の3人の魔力にまだ底がない事に気付いた”》


 ライフ・フィールドプレイヤーの俺の勘が囁く。


 コイツらまだなんか隠し玉あるな。

 それも自分達ですら気づいていない厄っぽいの。


 安易にぶっ殺したりするとそれが暴走するかも知れん。


 ……少しビビらせて、追い払う感じで終わるとするか。


「退屈だな。ただ、生きて、ただ死ぬだけのくだらぬ者達よ」


「え……」

「ワタシ達……が……?」

「生きて、死ぬだけ……」


 お、いいぞ。

 呆気にとられた顔だ。


 人間、モブ扱いされるのが一番きついよな。

 

 もう一押しだ。

 作戦を決めた。悪役っぽい頭脳派な感じのな。

 悪口で、こいつらの心を折る。


「世界を滅ぼすなど、片腹痛い、視野狭窄極まれり、だな」


「あなたは……私達が怖くない、の?」


「怖がる? さて、俺は何を怖がればいい? 俺の目の前にいるのはただの羊の群れだ」


 ふふふ、怖いか?

 自分達をモブ扱いどころか、無害な羊扱いしてくる実力者だぞ。


「……ワタシ達は、世界に呪われている……この力はいずれ、ワタシ達を飲み込んで……」


「ケヒッ、飲まれた所で大した事にはならん。俺に指一本すら触れられん性能程度ではな」


 よしよし、この調子でこいつらの戦意を、折る!


「……ふへ。呪われたボク達……その呪いは終わりを呼ぶ……くるくる廻って」


「呪いなど下らん。お前達程度の呪いでどうにかなる世界など、元より気にする価値もないものだ」


 もう一押しだな。


 《技能判定……”呪われた人生(二回目)”生まれによる補正が発動します》


「あなたは、あなたは私達の呪いの恐怖を知らない……! 誰にも分かる筈はない! 自分自身が呪いになっていく恐怖も、悲しみもーー」


「ああ、良い、良い。お前達の事情を聞くつもりもない」


「なっ、えっ……」


 わなわなと震える白い髪の美少女。

 ふむ、半分割れたお面にドチャクソ良いビジュアル。

 コイツ、なかなか格式高いな。

 負けてられねえ。


「勘違いするな。貴様らは別に特別でもなんでもない。お前達は俺という呪いを知らなかっただけだ」


「「「「……!」」」


 決まった……! ふ、敗北を知りたい。


 3人が同時に、膝から崩れ落ちる。

 あまりのモブ扱いにショックを受けたんだろうな。


 言い過ぎたか?


「故に、もう興味もない」


 いや、中途半端なやさしさなど自己満足でしかない。


 よく考えればなかなか良い感じで場を納めたのではないのか?


「待って!! ……ください……」


「……なんだ」


 ほんとになに~?

 もう帰らせて。

 身体マジでがくがくなんだよ。


 無理だよ、ラウンド2とか、覚醒形態との闘いとか。


「私達は、死ななくてはいけない……でも、貴方はそうじゃないって、言うの?」


「……」


 えっ?

 今そんな話してた?

 えっと、えっと、なに? なんて?


「……私達は、ここに死ぬ為に来た。死の女神の力だけが私達を殺せる可能性があった。でも、今、そうじゃないってわかった」


「……何が言いたい」


 あ、待って、嫌な予感してきた。


「恐ろしく、強い旅人よ。貴方の手で、私達を終わらせてほしい」


 なんか話がめんどくなってきたぞ。


「お願い……今、ここで貴方に終わらせてほしい……図々しい話だとは分かってる、でも、私達は――」


 くそ、こいつら完全に自分の世界に入ってやがる。


 素晴らしいロールだ……

 でもな、今、お前らを殺す訳にはいかない。

 ここでお前達を殺そうとして、なんか暴走し

 たりして負けたりするのは避けたい!

 

 藪蛇で俺の最強悪役プレイがミスったら大変だ!


 全力で、誤魔化す!!


「下らん、貴様らなぞ、殺す価値もない」


「「「えっ」」」


「死にたいなら勝手に、俺の見えない所で死ね」


「そ、それじゃ、ダメなの……! 見たでしょう? あの姿を……私達は、化け物で――」


「ケヒッ、ひ、ヒヒヒヒ」


「な、なんで、笑ってるの?」

「キミは、一体……」


 呆気にとられる3人を前に、俺は嗤いを収める。


「ああ、すまんすまん、滑稽でな。……俺の目の前には、化け物などいない」


「何を、言って……」


「弱き者達よ」


 《技能使用”呪力操作・強化”により威圧ロールが発動します》

 《”黙示録の騎士”は抵抗ロールに失敗しました》

 《あなたの呪力は周囲に恐怖の状態異常を与えます》


「うっ」

「あは……なんだい、その魔力……」

「ふへ……定命の者の範囲を、超えて……」


 3人の表情が固まる。

 俺の呪力に気付いたらしい。

 呪力をこう、良い感じに全身に巡らせると威圧にも使えるっぽいな。


「――世界は、広い」


「……っ、貴方は……まさか」

「……ワタシ達に、生きろと。そういうのかい……」

「は、は、初めて、そんな事言われた」


 ん?

 なんか想定した反応と違う。

 こう、世界は広いから俺の見えない所で好きに死んでね的な奴なのだが……。


「何度も言っているが俺にとって、お前達が死のうが生きようが、どうでもいい」


「あ……」


 なんでそんな悲しそうな表情になるんだ?

 死にたいのでは?

 もうわかんねえ。


「だが安心しろ、お前達が世界を壊す事はない」


「どういう、事……?」


「お前達は結局、俺という呪いに行き着くからだ。この世界は……俺の箱庭。俺の所有物」


 まだやりたい事たくさんあるしな。

 せっかく魔法やらなんやらがあるファンタジー世界。

 プレイし始めたゲームをこんな序盤で壊されたらたまらない。


「箱庭……」

「なんと、傲慢……でも、ああ、なんて、純粋な」

「ふ、へへ。我が一族の誰よりも、相応しいのかも」


 そして、3人の表情が固まってる。

 今のうちに帰ろ!


「騎士よ。その身に溢れる呪いと宿業を背負った、ーー凡人よ」


「人……ああ、貴方は私達を……」

「こんな、化け物を、人と、呼ぶ、呼んでくれるのかい」

「ふ、へ。人、人、ボク、人でいいんだ……」


「何度でも苦しむといい、人として。どこまでも足掻くと良い。弱き者として。お前達がどのような道を歩もうが、安心しろ」


 《技能判定”呪われた人生(二回目)”により特殊選択肢が発生します》


「その末路には、俺がいる。貴様らの呪いが流れ行く先は、世界ではない。この俺だ」


「……わ、私達は、生きて、いい、の?」


「それを決めるのは貴様自身だ」


 いや、ほんと好きにして。

 重いんだよ、死ぬとか。


「ワタシ達が、もし、終末の使徒に成れ果てても? 今のような中途半端な状態じゃなく」


「今はまだ、その時ではない」


 え……やっぱりまだこれ以上強くなるの?


「……ふへ。ボク達が、それでも世界を壊したら、ど、ど、どうするの?」


「安心しろ、殺してやる」


 絶対負けねえ。

 帰ったら早速修行を再開しよう。

 もっと強くなんないとな~。


「「「……」」」


 シャオラ! 

 ようやく黙ったぞ、コイツら。

 ふ、なんという悪の才能。


 さ、帰ろ帰ろ。

 ボロが出る前にこのまま気持ちよく悪のカリスマロールのままで。


「あの! ま、待って!」


「なんだ……」


 クソ! 2回目の呼び止め!?

 もう付き合わないぞ、コイツらの死にたいロールには!


「下らん問答をこれ以上続ける気はない。そして、もう2度と会う事も」


「名前……っ、名前を、教えて……下さい……」


「名前……?」


 ええ〜絶対嫌だ。


 俺の名前、普通にこの世界じゃ浮きすぎてるしな……


 ん? でも、待てよ。


 圧倒的な力で場を納め、理知的な会話で心を折り、颯爽と姿を消す。


 そして最後に名前を聞かれる……?


 おいおいおいおい……それって――


 悪役っぽいな!

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