第9話 転生者の憂鬱〈クラスメイト・スノウ視点〉

 ファンタジーゲームが好きでした。


 お城の中では決して許されない心踊り血が湧く冒険のお話が好きだったんです。


 あの日、修学旅行の夜。


『え、スノウさんもライフ・フィールドする、のですか?』


 初めて同じ趣味の人を見つけて、とても、嬉しかったんです。


 本当はもっとお話ししたかったのに。


 あの光が私達を包んで、全部終わってしまいました。


 自分の人生が2回目であると気付いたのは、あの時です。



 1週間前の選定の儀の瞬間でした。



【S級ギフト”選定の精霊”発現】


【S級ギフト”黒騎士叙勲章”発現】



『S級!? 2人共S級だと!?』


『なんと!! 流石は、リヒテ辺境伯の血!」


『おお……あの者は筆頭騎士の倅か……! とうとうこの辺境騎士団からS級のギフテッドが……!』


『おい、こっちにはG級ギフトのガキが出たぞ!』


『は!? ふざけるな! G 級!? 縁起が悪い! 即刻、聖堂から追い出せ! 貴族の子か?』


『いや、家無しのガキだ!』


『なんだ、コイツ、ヘラヘラ笑いやがって、おいガキ! こっちだ、出ていけ。転生勇者の良い日にお前みたいなのは……うお、力強っ……」

『うお、ほんとだ。なんだ、このガキ、おい、人の話聞いてんのか!? なに? 悪役? なに言ってんだコイツ!』

『おい、なにして……うお、力強っ……あ、なんか満足そうな顔で出ていった』

『なんだったんだ、あのガキ……』



 聖堂の神水晶に映った私の力。

 この世界の神から授かる特別な恩寵。

 "ギフト"を受け取ったあの瞬間です。


 私の名前は、スノウ・フォン・ウント・ツー・リヒテンシュタイン。


 ヨーロッパ、リヒテンシュタイン公国の王族。


 そして同時に、スノウ・フォン・リヒテバロック。


 帝国東領、領主、リヒテバロック辺境伯の娘でもある、と。


 2つの記憶に最初は戸惑いましたが、怖くはありませんでした。


 小さい頃からずっと一緒にいた私の騎士と、この国に来てから出来たお友達の数人も、私と同じく前世の事を思い出したからです。



 ーー私には、2つの青い血が流れています。

 それは貴種の証明。

 人より多くを持って生まれた特別、ううん、幸運な人間。


 だから、私には責任があります。


 貴族の責務が。



 異世界転生。

 残念なことに、私の騎士やお友達はあまり日本が誇るエンタメに詳しくなく、現状をあまり理解出来ていません。



 でも、私は違います。


 私は知っています。


 転生、神。クラス集団、しかも、記憶がない人もいる。



 これは、あまり、ロクなパターンの異世界転生じゃないって事を!!



 貴族の責務が、私にはある。

 この世界にやってきた私の友達、クラスメイト、学校の人々。


 彼ら彼女らを護り、少なくとも前の世界の記憶を取り戻す。


 人に対して最も行ってはならないこと、それは選ぶことを奪う事です。



 主神マリス、そして7大神。


 私達をこの世界に呼び寄せた存在。


 



 これは何か、変です!


 でも、これに気付いているのは私だけ。


 この事実から推測出来るのは、恐らく前世の記憶を持っている者の中に、ライフ・フィールドのプレイヤーはいない、はず。


 今の所記憶の保持を確認できてるのは、私の友達の3人だけ。


 他のクラスメイトや学校の人等は記憶を持ってないから、まだ確認が出来ていないのが、現状です。



 でも、一つ確信があります。

 この世界に対する嫌な予感を感じてるのは私だけ。


 鹿じゃない限り、ライフ・フィールドのプレイヤーであれば、主神マリスの名前は知ってるはず。


 そうすれば、あの鬱シナリオ厄介イベントまみれの神ゲー、ライフ・フィールドの世界に警戒して、なんらかのアクションを起こすはずです。


 でも、あの選定の儀で、マリスの名前が出ても反応してる人いなかったしなあ……


 ……可能性があるなら、家無しに転生しちゃったあの人とかだけど……。

 でも、記憶ないんだよね? 


 だってこんなにライフ・フィールドと似てる世界なのに、なんの反応もないし……


 うう、私の力不足です。

 本当ならクラスメイトは皆保護したいけど、この世界で家無しは意図的な差別階級にあるのでそれも難しく……。



 自分の力不足が情けない。


 だから、私は決めました。


 私には、貴種の義務がある。


 私は私の義務を遂行する為に、この世界で強くなる必要があります。


 ーー力が必要なんです。


 転生勇者として経験を積んで行けば、私は学校のみんなの力になれるかも知れない。


 こうして、私、スノウの異世界での日々は本当に始まったのでした。


 でも、それがもう本当、きついんです……この世界。

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