第4話 村ライフ開始!

 ◇◇◇◇



「クソガキ共! もっと気合い入れて畑を耕しな! 休むんじゃないよ!」


 あれから1週間が経った。


 そうなると大体この世界、というかこの世界での自分の立ち位置が理解出来る。


 この世界もまた、お約束テンプレ異世界に漏れない。


 現代の知識で言えば中世封建制カースト大好きクソ世界だ。


「お前ら家無しが飯を食ってられるのは誰のおかげだい!? そう! このグレロッドお婆さんのおかげだろう!?」


「「「「はい、ミス・グレロッド」」」


 畑に響くババアの声。

 力無く返事をするボロボロの服装の子供たち。


 家無し。


 この世界は戦火の絶えないクソファンタジー世界らしい。

 いや、細かい事はナビに聞いてないし、ネットもないからよく知らんけど。


 まあ、普通に親や家がない子どもが溢れる。


 俺のいる村、ホルガ村。


 ここには孤児院とかいう優しい施設はないので、こんなふうに土地だけ持ってるクソババアの所で農奴でもしないと食っていかれないのだ。


「何をしてるんだい! タキヒト! 転生者の癖にG級ギフトなんてゴミしか持ってないアンタがサボってんじゃないよ!」


「はいよ、グレロッド」


「なんだい!! その口の聞き方は! グレロッドお婆さんと呼びな!」


「ババア」


「悪化してるじゃないかい 舐めてんのか!?」


 まあこのように、俺も家無しライフの王道に漏れず意地悪なクソ婆にこき使われている。


 悪役を目指す以上はやはり、こういう不遇な過去もないとな。

 こういう所で世の中への憎悪をため込み、いずれ悪役は世界に牙を剥くのだ……!


「ったく、このガキだけは……スノウお嬢様が妙に目をかけてなけりゃ……」


「あ、ババア。クワが壊れた。新しいのくれ」


「なんでそうなるんだい!!」


 それにこの農奴ライフも悪い事ばかりじゃない。


 《畑を耕した。耕作技能に経験値が追加されました》

 《ちからに経験値が追加されました》


 ぶううん。

 俺の視界にメッセージ、そして音声が流れる。

 ゲームでよくある演出のように。



「ナビ、ステータスを見せろ」


 《ステータスオープン》



 ——————————


 名 前:粕谷焚人かすたにたきひと


 レベル:####


 ちから:11

 

 かしこさ:3


 せいしんりょく:10


 たいりょく:12


 技能:"耕作"、"ステータス画面"、”ゲーム脳”、


 職業:???


 ギフト: G級ゴミクラス【術式作成】


 保有術式:【干支百景調伏呪法】【決戦術式・天の岩戸】


 生まれ:呪われた人生(二回目)


 進行中のイベント:ホルガ村での日々


 ——————————


「よっしゃ!! ちからが1上がった!!」


 異世界テンプレお馴染みのステータスオープン。

 これ、実際にやってみると少し感動するんだ。

 だって、自分の今の力や出来る事が全部可視化されるんだぜ?


 今もクソババアの畑仕事を真面目にこなしたおかげでちから、というステータスが1上がった。


「1でもテンション上がるな……現実だと筋トレしても効果あるのかどうかすらわからなかったしよー」


 自分の努力が数値で見える。


 これは俺のモチベーションに想像以上の効果を与えた。


「……」


「…………」


「……う、うう、お母さん……」


「死にたい……」



 死にそうな顔で畑を耕し続ける他の家無し達。


 俺だけがノリノリで新しく貰ったクワを振るい続ける。


 多分、この世界では何かをすればそれに対応したステータスに経験値が入るのだろう。

 畑仕事をすれば、”ちから”がみにつくし、


 素晴らしいじゃないか!

 まるでゲームと同じだ。



 とりあえず日中はこんな感じで絶賛農奴ライフ。

 コツコツ身体を動かして基礎ステ上げ。


 ゲームでも序盤にちまちました作業でレベル上げるの好きなんだよね。


 と、こんな風に過ごしているわけだが、この村には色んな奴らがいる。


 俺達家無しはいわば奴隷みたいな最低カースト、そこに普通の身分の村民、そして――。



 そう、あいつらみたいな連中だ。



「おい、見ろよ、あいつら家無しの奴隷共だ」


「ああはなりたくねーなー。てか、本当にあの中に俺達と同じ転生者がいるのか?」


「いるぜ、なあ、ショウゴ」


「ああ、クソ舐めたゴミ野郎が1人いるっけ」


「G級ギフトのゴミだろ? 一緒にすんなって感じだよな」



 畑にやってきたのは、なんとなく身なりの良いキッズども。

 かっちょいいマントに、きれいな服。魔法学校にいそうな感じ。


「おい! ゴミ共! 今日も遊びに来てやったぞ!」


 多分、何人かは俺の元クラスメイトの1.5軍の連中だ。

 名前は全員思い出せないが、見覚えがある。


 この村では10年前に生まれた子供は全員。"預言の子”と呼ばれ、帝国の勇者候補となるらしい。


 俺が追い出された聖堂でのギフト認定式みたいなのでそんな事言ってたような気がする。


「魔法の練習と体術の訓練をつけに来てやったぞ! ありがたく思え、クズ共!」


「お前らゴミが勇者候補である俺たちに構ってもらえることを感謝してくれよ」


「ひ、ひひ。ぼ、坊ちゃん方、今日もいい天気ですね、で、ですが、訓練……こんなゴミども貴方達の練習相手などはちょっと……まだ農作業も残ってまして」



 え……グレロッドお婆さん……?

 かばったのか?

 実は良い人……?

 ごめんな、勘違いしてたよ。

 いずれ村を出るときが来たらぶっ殺すリストから外さなきゃ――。



「婆、駄賃だ。黙っておけ」


「ひ、ひひひ……ごゆっくり」


 ぴんっとキッズが親指ではじいた金貨を婆さんが拾う。


 そそくさとどっかに行った。


 ババア。やっぱリスト残留だな。


 いや、だがどのみち老い先短いババアに何言っても無駄だ。


 ババアよりも俺が気にするべきは。


「おい!! 俺達騎士見習いがお前ら家無しを教育してやるよ」


「今日はまた訓練で新しい魔法を覚えたし、練習台が欲しいんだよなあ」


「大丈夫! 殺さないようにはするぜ! 勇者候補なんだからな!」


「ヒッ……」

「お、おねいちゃん……」

「だ、大丈夫、だいじょうぶだからね」

「こ、殺される……」

「やだよ……怖い」



 家無しの孤児達が怯え、顔を伏せる。


 日々の食事すらままならない家無しに比べてあのキッズ達と来たら。


 毎日3食食えて、専門の教育を受けている。

 奴らにとっては遊び半分のからかいでも、


 家無しにとっては命が危ない。


 幼い弟が奴らの視線に入らないように庇うお姉ちゃんぽい家無し。

 その場にうずくまって震える家無し。


 ここでも、そうだ。

 モブと弱者はいつも、奪われ続ける。


「へへ、見ろよ、あいつら」

「おーい、勇者候補の俺達の言う事が聞けないのか?」

「いー事考えた、もう全員魔法の的にするのはどうだ? 今日習った攻勢魔法、使ってみたくてよ」


「お姉ちゃん……」


「……ルード、ここでおとなしくしててね、何があっても動いちゃダメだよ」


「……だめ! お姉ちゃん、行かないでっ!」


 家無しの姉っぽいのが、青い顔で、震える手を挙げて――



「はい! はいはいはいはいはい! 俺、俺やりまァす!!」



 させねえ! 

 危ない危ない、こんな美味しいイベントを他の奴に渡せるかよ。



「え……君……」


「下がってて。弟と一緒にいてあげなよ」


「え……あ、はい」


 よしよし、良かった取り合いにならなくて。

 話の分かる奴は好きだ。



「「「……お前か」」」


 ガキ共が少しげんなりした顔を浮かべる。


 実はこいつらがリンチにしにくるのは初めてではない。


 大体週3くらいのペースでやってきては、適当な家無しを見繕ってシバきに来るのだ。


 俺も、普通に最初はしばかれていた。


 顔面をぶん殴られた時は、殺してやろうかと思ったものだが、今は違う。


 なぜなら――。



「クソ!! 今日こそテメェ、泣かせてやる! 立て! 家無し!!」


「はい!」


「やっちまえ! ショウゴ!!」


「今日習った新しい"攻勢魔法"だ!!」


 空気が収縮する。ガキが指揮棒のような杖の先を俺に向けて。


 《プレイヤー、攻勢魔法が来ます。1小節です》



ボロッグ衝撃よ!!」



 ドグオオオン!!


 衝撃。


 ガキが杖を振るった瞬間。


 身体をバカでかいフライパンでぶん殴られたような感覚が襲う。


 世界が回る、土の味、痛み。吹っ飛ばされて。


「よっしゃ! どうだ! ゴミの家無し! いくら気持ち悪いお前でもーー」


 《魔法による攻撃を受けました。たいりょくがプラス1されました》


 《ギフトが自動発動します》


 《”ギフト・術式作成"の呪いリスト更新。新たに"衝撃術式"が追加されました》


 《この術式単体での使用はできません》



 これこれ!


 こいつらにしばかれたりするたびに、なんかギフトに追加されるんだよな。

 なんかよくわからんけど、こういうの集めるの楽しい!

 それに、ステータスも上がったぞ。


「ハハッ」


 笑いが込み上げる。

 やったぜ。

 これでまた、悪役に近付いた。


「こいつ、また、笑って……! ふざけんな! 笑うな! 家無しの、ゴミギフトのテメェが!」


「お、おい。モロにショウゴの魔法食らったのに、普通に立ってきやがる……」


「アイツ、ゴミギフトなんだよな? 俺達と違って聖堂を追い出されてるから、職業検査も、勇者訓練も受けてないのに……」


「あれ……? 魔力操作してねえか?」


「いや、ないでしょ、だって魔力操作での身体強化って、まだスノウ様やアキしか出来ない高等技術だぞ」



 うん。

 やはり。


 あの身体中に熱を巡らせる感覚。

 あれをしてる時、なんか、俺の身体はかなり頑丈になってる。


 《特定の行動をクリア。技能"魔力・強化系"を入手しました》


 お。やったぜ。

 なんかいい感じの力が手に入った。

 この魔力って、もしかしてこの熱っぽい奴の事か?


「ケヒッ」


 ファンタジー世界、たのしっ。


「わ、笑ってる……」

「なんでまだ立てるんだ?」

「お、おい、ショウゴ。手加減しすぎなんじゃ」


 キッズ達が焦った感じだ。


 お! 聞こえたぞ!


 手加減してるらしいな! 


 てことはもっと強い攻撃ができる、つまり! さらなるレベルアップの予感!



「次」


「は……?」


「次だ、手加減はいらない。本気でやってくれ、――騎士見習いの勇者殿」


 礼儀は大切だよな。

 お願いごとしてるのはこっちなんだし。


「っ!! クソが」


 お、1.5軍、あの野球部っぽいキッズが怖い顔になった。


 大丈夫か? 10歳のガキがする顔じゃない気が。



「ロドム・ボルガ・ボロッグ!!」


「げっ、3小節の呪文!?」

「やべっ! 逃げろ! 巻き込まれるぞ!」

「きょ、教官にぶん殴られるぞ!」



 杖を振る1.5軍。


 空気が収縮し、鳴いている。

 魔法すげえな!! 


 良い感じの一撃が来そうだ!


 本気を出す勇者候補。

 それを受け止める気味の悪いモブ。


 悪役っぽいな! しかも正体不明な感じの!


「消し飛べ!! 家無しのゴミ!!」


「――悪くない」


 衝撃、でも、慣れた。


 魔力を肌に纏わせて広げる、それだけでーー。


「……嘘だろ」

「なんで、この家無し、立ってるんだよ……」

「ひ、ひ……」


 キッズ達が、腰を抜かしてその場に座り込む。


 ケヒッ。



「さて、じゃあ次はこっちの番だな……」


「いっ、お、おい、ショウゴ、に、逃げねえか?」


「や、やっぱアイツ、普通じゃねえって……そういえば、す、スノウ様が気にかけてる家無しが何処かにいるとか……あ、アイツの事なんじゃ……」


「バカが! い、家無しのカスにビビって逃げれるかよ! オラあ、かかって来ーーギャァ!?」


「ショウゴ!? い、一瞬で、ここまで!?」



 魔力を纏ったまま、一気に地面を蹴る。


 本気で殴ったら殺しちまうから、優しめに。


 でも。



「経験値くれ! ちからとか、その辺な!」


「ぶろすっ!?」


 力を抜いて、ぶん殴る!


 錐揉みしながら吹き飛ぶキッズ。


 うんうん。やったらやり返される。

 自然の摂理だよな。


 それに、こうしてコイツらをしばき返してたら、もっと新しい魔法を見せてくれるかも知れない!


 いや、もしかしたら悪役に相応しい致命的なイベントが起きたりも!



「次はどいつだ」


「ひ、ひ、おい! ショウゴを運べ! クソが! 俺たち騎士見習いにこんな真似してタダで済むと思うなよ!」


「お、お前ら家無しなんか、うちの家が少し本気を出せば村から追放だってできるんだ!」


「や、やめとけって! お、追いかけてくるぞ、アイツ。頭おかしいんだよ! も、もうやめよう……!」


 見事な捨て台詞を吐きつつ、逃げ帰っていくキッズ達。



 ふむ、まあ、本格的に揉めたらその時はその時だ。



「よし、畑仕事に戻るか」



 また俺は鍬をかついで土にえっさほいさ。



「す、すごい……また騎士の子供を追い払っちゃった」

「だ、誰なんだろ、あの子……」

「わ、わかんない、あんな子今までいなかったし」

「お、おねいちゃん、あの人、た、助けてくれたのかな?」

「……そう、ね」


 こんな感じの農奴&サンドバックライフが俺の日常だ。


 そして、本格的な俺の異世界ライフは夜からだ。

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