第3話 ナビちゃんとコミュ

 

 奇妙な声は、かなり物知りだった。

 適当に話を合わせるといろいろな事を教えてくれた。


 《定命の者よ、ここは、貴方のいた世界ではありません》


 戦火の絶えないファンタジー世界。

 本当に魔法やモンスター、人間以外の異種族が暮らす世界らしい。


 《あなた達、王央学園高等部2年生約500名は皆、この世界の"主神・マリス"によってこの世界の転生させられたのです。神の意思をこの世界に体現する勇者として》


 凄え迷惑な奴じゃん。

 でも、なんで?


 《不明です。表向きには預言の子、あなた達の来訪と転生は神からの贈り物として託宣の形で伝わっていたようですが》


 俺達はなんかよく分からん神様のせいでこの世界に連れてこられたらしい。


 ふむ、ありがたいくらい分かりやすいテンプレ展開だな。

 だが、まだ何個か気になる事がある。


「これ、異世界転生なんだよな? 皆、前の世界の記憶はーー」


 《ありません。貴方意外の転生者は元の世界で過ごした時間の記憶を失っています》


「うっっわ」


 俺達を呼んだ神様とやらは、ロクな奴じゃないだろ。


 記憶を奪って力を与えて、何かをやらせようとしている?


 怖……戸締りしとこ。

 あ、玄関の戸が取れかけてる……。


「俺より悪役、いや、黒幕っぽいのがいるのはな……ずるいな」


 いいな、そこまでの性悪ならきっとモブとかじゃないんだろう。


 ふむ、超常の力で他人を好き勝手に振り回すか。


 しっかり悪役じゃん。

 OK、覚えた、主神マリス、悪ポイント高い


 《プレイヤー、貴方は……その、あまり混乱はしていないようですね、興味深いです》


「むしろ少しやる気になってきた所だ。魔法にギフト、異世界。そういうモンが嫌いな中二はいねえよ」


 《あなたの精神年齢は17歳のはずですが》


「俺はきっと死ぬまで空想や、夢想、妄想が大好きだ。大人になっても枯れる気が今んとこしないし。よし、そうと決まったら始めるか、悪役プレイ!!」


 《あの……普通、ここはあれじゃないでしょうか? こう、もっとこの世界の事とか、もしくは私の事とか聞いたりするものでは? 気にならないのですか? あれですよ? 私、結構謎の存在じゃないですか?》


 なるほど、この声の言う事も確かに一理ある。


 だが、違う。


 俺のなりたい悪役はこう、もっと全能な感じで説明とかされなくても状況を把握してしまうのだ!



 《あの、プレイヤー?》


 そもそもこいつもなんか怪しい。

 異世界転生したモブに世界の事を教えようとする謎の声。


 俺にはわかるぜ……アンタ、悪だね。


 それもなかなか格式高い黒幕暗躍悪役ムーブの気配……。


 負けてられねえ、真の悪役は俺だ!!


 こういう黒幕暗躍悪役ムーブの奴に対しての反応は――



「どうでもいい」


 《……なっ》


「お前が何者かどうかなんて、俺には関係ない。知るべきは1つだ――お前は敵か、味方か?」


 ……やべ、言い過ぎたかな。

 どうしよう、怒ったりしたら嫌だな。

 今からでも謝って――。


 《……なるほど、プレイヤー。私の声が貴方に聞こえた理由が分かった気がします。良いでしょう、あなたの行く末を、いましばらく見守らせていただきましょう》


「……好きにしろ」


 大丈夫だった。

 なんか一瞬、すげえ寒気がしたけど気のせいだな。

 このボロ屋、隙間風すごいし。


 正体不明の声に対し、一歩も引かない不敵な態度。

 悪役っぽいな、ヨシ!!


 《それで、プレイヤー。これからどうするのですか? 貴方は選定の儀を追放されました。勇者としての教育を受ける事も出来ません。これからこの世界で起こる”7つの終焉”に対し、貴方はあまりにも無力です」


「……ふっ」


 《……一笑に伏せるだけ、ですか。それでこそ、です。いいでしょう、定命の者よ》


「ふっ」


 《私の名前はナビ。定命の者。いえ、プレイヤー。私の声を聴く者よ》


「ああ」


 《好きに生きて好きにふるまうといいでしょう。貴方の目の前にあるのは、全世界です、行って見て、体験して。貴方のなりたいものになり、為したい事を為せばいい。この滅びの宿命を背負った世界で》


「些末な事だ」


 ふわり。


 声は消えた。


 ……え? 世界、滅ぶの?


 ライフ・フィールドと言い、この世界といい、滅びすぎだろ。


 ふっ、とか言ってる場合じゃなかったかもしれん。


 でも、なんかよかったな、こう一歩も引かない曲者同士の会話みたいだ。


 良いコミュニケーションを取れた気がする。


 ……でも、世界、滅ぶのか。

 そういえば、あの聖堂でも終末の予言にあらがう為の預言の子とか言っていたような。


「まあ、いっかァ!」


 大事なのは世界の運命より、自分の人生だ。


 モブ人生を脱却し、今回の人生で俺は悪役となる。


 まず、その為に必要な事は。


「自分の能力の確認だな」


 思い出せ、さっきの感覚を。


 熱。

 身体を駆け巡るあの熱の感じ。

 掌に沸いた闇、妙なネズミ。


 特別な力。


 ギフトーー。


 不思議と、無意識に俺の口はその言葉を紡いだ。


「術式展開」

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