第2話 異世界転生したっぽい
「どう言うパターンの異世界転生だよ……」
村外れにぽつんと立つボロ小屋の中。
隙間風だらけの狭い部屋の中、その場に座り込む。
あの光に包まれた後の事。
それは酷かった。
俺は気付いたら凄え豪華な教会の中にいた。
もうそこからはお約束の展開だ。
そこには俺だけじゃない学校の連中が全員集められていた。
なんかギフトがどうのこうの、転生勇者がどうのこうの。
「……ギフトか、いかん、テンション上がらざるを得んな」
ギフト。
この世界で10歳を迎えた人間は皆、そう呼ばれる能力を得るらしい。
有用性によってそれはランク分けされており、この世界では高いランクのギフトを得る事が人間の価値を決める、との事だ。
「……ゴミかァ」
うん、そう。
ダメだった。
俺のギフトはG級。
最低クラスで、ゴミクラス、らしい。
聖堂でゴミ呼ばわりされた直後、普通に俺だけ追い出された。
G級ギフトとはこの世界で不吉の象徴。
神聖な選定の義に相応しくないとの事だ。
「状況を整理したいけど、これ、どう考えても異世界転生しちまってるよな」
俺の名前は、
2度目の人生を送っていたモブ高校生から連続している。
だがーー。
「……これ、子供になってるよな」
雨漏りに反射する自分の顔。
なんか普通に10歳くらいのガキの顔だ。
聖堂で集められてた時、学校の連中も皆子供の姿になっていた。
凄えよな、あのリア充集団。子どもの時から美少女と美少年なんだもの。
俺はいつものモブ顔。ふむ、こんにちは、久しぶり。
ーーああ、本当に久しぶり。
「でも、そうなると色々気になるな。これ、異世界転生なんだよな?」
この子供の姿で10歳になるまで過ごした記憶はない。
だいたいラノベとかだと、異世界転生の場合は赤ちゃんスタートが多かったりするけど。
「でも、その割には家の場所とかは覚えてるし」
考える事が多い。
俺はボロボロの床に寝転ぶ。
①異世界転生、もしくは転移?
②クラスメイト達によく似たキッズ達。
③ゴミとか言われた俺のギフト。
「あれ、でも、なんか、ちょっと思ったより楽しいな……」
優秀な集団の中にゴミ扱いされる落ちこぼれが1人……。
悲しき過去持ちの悪役っぽいな、ヨシ!
「……これ、俺、この世界ならマジでモブ以外になれるんじゃねえか?」
シチュエーションは揃っている。
なんとなく迫害されている雰囲気。
落ちこぼれのギフト。
異世界。
村の風景でそれはなんとなく理解出来た。
だって普通に獣耳の生えた獣人とかいたもの。
それに馬車だってなんか、デカいトカゲみたいなのが引いてたし。
おまけに、畑はなんか、魔法使いっぽい女の子が杖から水を出して水やりしてたし。
「魔法もあるのか……」
ここが、ラノベやアニメに出てくるようなテンプレ異世界だとして。
あのギフトとかなんやらが特別な力だとしたら?
俺のギフト。
あの聖堂、馬鹿でかい水晶に鑑定されたその名前は。
「G級ギフトーー"術式作成"」
自分のギフトの名前を呟く。
その瞬間だった。
ブウン……
自分の中に、何かが巡った。
血管を通じて身体中に走るこれは、熱か?
「え?」
気付けば、手のひらの中に、何かが現れた。
黒い球だ。
ピンポン玉サイズの黒い球が一つ。
「うお!! な、なんだ、これ」
それはゆっくり、溶けて、形を変える。
「文字………?」
【G級ギフト"術式作成"】
【呪術式の作成、保存、及び使用が可能】
【決戦術式によるデバフの影響下にある】
【初期保有術式:"
手のひらの黒い球が、文字になって、それから。
「うおっ!?」
『チュー、チュー!』
なんだこれ!
手のひらの黒い球が、文字になって、それから。
「ね、ネズミ……?」
『チュー!』
すごいデフォルメされたネズミが1匹、俺の掌から現れた。
初めて絵を描いた絵心のないちびっこがクレヨンで描いた奴みたいだ。
「な、なんだ、こりゃ」
『チュー?』
「……もしかして、お前、俺のギフトとかいう奴か?」
『チュー……?』
ぐしゃっ。
ネズミが急に潰れて消える。
時間制限があるのか?
「……凄え。なんだこれ」
一つ、分かった事がある。
俺、魔法みたいなの使えるかも知れん。
「……こういうの鍛えたら、マジで出来てしまうんじゃねえか? 悪役プレイ……」
もう、モブは嫌だ。
1人で死にたくない、誰かに憶えていてほしい。
でも、自分の性格が捻くれてるのはわかってる。
誰かと話すのも苦手だし、友達もいねえ。
だから、もうこれしかない。
意味もないし、間違ってるかもしれない。
けれど、俺はもう決めた。
「悪役、本気で目指してみるか」
《プレイヤー、既にギフトを扱えるのですか。興味深いです、しかし……干支百景……? そのような術式はライフ・フィールドには……》
……ん? 今、なんか、聞こえた?
いや、気のせいか。
床と壁しかない狭い小屋の中には俺しかいない。
まあいいや。
悪役の事考えよ。
悪役に必要なのはなんだろう。
金、力、カリスマ……
「いや、美学……じゃねえか?」
2度目の人生で触れてきた数々のエンタメ。
かっこいい悪役ってのは、美学やこだわりがあった。
死ぬ時には観客から惜しまれるような良い空気吸ってる悪役がベスト。
まあ、この辺はおいおい固めていくか。
「あとはやっぱ強さだよなァ」
悪役とはやはり我を通すものだ。
弱い悪役など、他人に自分の弱さを攻撃に変換するだけの害悪に過ぎない。
俺がなりたいのは、こう、不敵な感じのかっこいい悪役だ。
「……強さ。でも、俺のギフト、ゴミとか言われちまったしなあ……地道に鍛えるしかない感じか?」
今頃、聖堂では俺以外の転生した連中は職業適性検査とか言うのを受けてるらしい。
ギフトの他にも”職業”というものがあり、それによって自分の才能や適性が決ま――。
「あれ……? なんかこのシステム、見覚えというか聞き覚えあるな」
先天的に決まっているらしい固有の才能、ギフト。
才能や適性を示す”職業”。
それら全ては”生まれ”によって決まっているらしくて。
「ライフ・フィールドみたいだ……」
《……気のせいですね。今回の転生者もナビの声を聞くものはいませんか。……同調を続けましょう。でも、もしお話出来たら……ふむ……どんなキャラでいきましょう。やはりここは、謎の黒幕ミステリアス系ナビゲーションメッセージで……こう、感情も抑え気味でいくべきですね……定命の者よ、とか呼んじゃおかな》
「いやこれ、確実になんかいるわ。誰だ?」
《……え? き、気のせいですよね。あれですよね? 中二病の子がやってしまう心を読まれてる事をわかってるぜ! みたいに妄想するアレですよね》
「中二病の理解度が高いな……でも、異世界転生してガキに生まれ変わったような異常事態中なんだ。このくらいじゃ驚かないぞ」
《え、か、会話が成立しているのですか……?》
「まあ、声は聞こえてるしな。……誰?」
《……こほん。――定命の者よ、よくぞ我が声を聞いた。我は――》
「それ、謎の黒幕ミステリアス系ナビゲーションメッセージロールプレイか? いいね」
《……ぐすん》
あれ、黙っちゃった。
なんか悪い事したかな。
……できる所までノリに付き合ってみるか。
「――だ、誰だ!? どこにいる!?」
いや、さすがにきついか?
モブAに演技力とかアドリブとか求められてもなあ。
《!! ふ、ふふふふ。定命の者よ、恐れるな。我は貴様の事をずっと見ていた……なかなかのものだった》
いけたっぽい。
なんか満足そうだ。
さっきの独り言、なんか気になる事言ってたな、こいつ。
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名 前:
レベル:####
STR:1(決戦術式によりデバフの影響下にあります)
INT:1(決戦術式によりデバフの影響下にあります)
POW:1(決戦術式によりデバフの影響下にあります)
技能:???
職業:???
ギフト:
保有術式:【干支百景調伏呪法】【決戦術式・天の岩戸】
生まれ:呪われた人生(二回目)
進行中のイベント:彼方からの声
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