凡人呪術師、ゴミギフト【術式作成】をスキルツリーで成長させて遊んでたら無自覚のまま世界最強〜異世界で正体隠して悪役黒幕プレイ、全ての勢力の最強S級美人達に命を狙われてる? …悪役っぽいな、ヨシ!

しば犬部隊

異世界転生編

第1話 たのしいクラス集団転移


 

「やっぱ、職業ロールは呪術師で、術式作成ビルドがPvPでは最強か……」


 いっそ悪役にでもなれば良かった。


 やりたいように自由に生きれば良かったんだ。


「……明日から期間限定イベント、"ダンジョンウォー"始まるのか。なになに、報酬であるスキルポイントでしか獲得出来ない特別なスキルツリーが存在します……すげえ、修学旅行してる場合じゃねえ」


 前世の事。


 ある日、自分の人生が2回目であると思い出した。

 どんな人生だったか、とかは覚えてない。


 多分、モブだったんだろう。

 友達も恋人も仲間もいなかった、ような気がする。


 事故か、事件か、病気か。

 1つの自覚がある。

 俺は独りで弱いまま、死んだ。


 そして、この2回目の人生も、俺の役割は決まっている。


「あー、あのクエスト……こんな分岐もあったのか。2人目のプレイの時は皆殺しエンドじゃなくて、島民に味方してみるか? でもな……煮つけだしな……」


 旅館の部屋、窓際の謎スペースに1人。

 スマホでゲームの攻略wikiを眺める。


 今、心の底からハマってる神ゲー。


 アクションRPG生活・恋愛・経営シュミレーションダークファンタジーオープンワールドゲーム。


 "ライフ・フィールド"

 発売から2ヶ月、すでに全世界で2億本の売上を誇っている化け物神ゲーだ。


【ライフ・フィールド完全攻略】


【ver50の最強ビルドはこれ! 勇者特性に精霊術スキルライン!?】


【黒騎士ビルドが厨二ロマンすぎてワロタ。闇の王ルートに行けるぞ】


【この火力、一瞬で敵が溶けます。職業・魔法使いで妖精血統からの闇堕ちイベントを目指そう】


【最強ペット10選! 召喚士ビルド限定のワイバーンがヤバすぎる】


【ワロタ、スライムをペットにしたら服溶かされた】


【お前ら、"生まれ"は何を選んだ? 俺は転生勇者だけど】


【"エルフの愛弟子"選んだんだけど、なんか開始速攻、檻に閉じ込められてもうゲーム内時間1000日超えちゃった……もしかして、エルフの時間感覚レベルで捕まる……ってこと!?】


【皆は一週目、どのエンドになった? 俺は”人魔大戦、開戦”エンドだったわ】


【皆殺しエンド、”神々の御首を飾って”ってどうやったらいけんの?】


【そのエンドは全プレイヤーの1%も行ってねえからまだ正確なフローチャートないぞ】


【あの島クエストの結末は? 島民と人魚、どっちの味方をする?】


【呪術師ビルドはマジで雑魚。だって魔法系のスキルが一切使えなくなるうえに、NPCからの好感度補正にマイナスかかるから】


【呪術師だけはマジで調整失敗だろ。魔力っていう重要ステが呪力とかいう使い道の少ない死にステに強制的に変換されるし】


【でも、PVPだと呪術師ビルドの奴らの勝率高いんだよな……】


【ライフ・フィールドPVP報酬で手に入る最強アイテム20選び! 大鬼具足の効果がヤバイ】


 人生をやり直せても、俺はモブのままだった。


 努力しても結果は実らない。

 強くてニューゲームはなかった。

 だからゲームに、ハマった。


 プレイしたらプレイした分だけ結果が付いてくる。

 現実とは違って。


「わ、わァ……ま、またババひいちゃったぁ!! なんでワタシばっかり!」


「あははははは! スノウちゃんは運が悪いですなあ! 王族様もどうやらカード運だけはどうにもできないようだなあ!!」


「春咲、それ、スノウの本国で言ったら不敬罪だよ。10年は檻の中じゃないかな。あ、そろった、はい、アガリ」


「あ!! アキがウノって言ってない!!」


「夏樹。ババ抜きでしょ、これ」


 謎スペースの仕切りの向こう。


 部屋からは、リア充達の楽しそうな声が響く。


「よお、お邪魔しまーす! お、もう始めてるじゃん」


「女子連れてきましたー! って、もうとっくに連れ込んでるし、しかもスノウさん! あ、え、なんで!?」


「わ、アキ君もいたんだ……ちょ、メイクもう一回し直してきていい?」


「この部屋のメンバー濃すぎでしょwwwアガるわー」


「恋バナしたい!」


 部屋からの声がさらに増える。


 修学旅行の夜だ。


 皆思い思いに過ごしている。

 友達、今回の人生では欲しかったなあ……

 あれ、もしかして俺、前世でも友達いなかったのか?


「……次のライフ・フィールドでの新キャラのロールとビルド考えるか」



 神ゲー、ライフ・フィールドには1000種類以上の職業クラスがある。


 ファンタジーRPGおなじみの戦士職1つとっても、騎士、剣闘士、重騎士、騎兵、侍などのおなじみのものから、サンドバックやなめくじ戦士、ゴブリン武士などのもはや職業と言ってもいいのかというネタ系からよりどりみどり。



 職業のほかにも”生まれライフパス”、生い立ちまでも自分で選ぶ事が出来る。


 この2つを選び、最期に決めるのが|才能《ギフト。


キャラの固有のスキルツリーだ。


 例えば職業が同じ騎士でも、生まれによって選べるスキルツリーは違う。


 騎士の職業に生まれを”男爵家の八男”に設定するとそのキャラのスキルツリーは”戦場出世”と呼ばれる生存に適したキャラにふさわしいものになるし、生まれを”帝国武門の出”にするとスキルツリーは”皇帝の護衛者”と呼ばれる他者を守るようなキャラになる。


「ゲームでも結局、生まれと職業で人生が決まる訳だ」


 ゲームなのにその辺厳しいとこが好きだぜ、ライフ・フィールド。


 次の周回キャラは術式作成ビルドのスキルツリー、どんなのがあるのかな。


 その時だった。


 がらり。


 部屋と俺の謎スペースを隔てる扉が開かれた。


「あ……ご、ごめん、このスペース、気になって……か、勝手に開けたの悪かった、です?」


「おお、いや、大丈夫です……」


 すげえ美少女がいた。


 まるでアニメや漫画のキャラがそのまま現実に出てきたような美少女。


 雪のような真っ白でシミ一つない肌。

 宝石のような青い瞳。

 それ自体が輝いてるかのような金色の長い髪は胸のあたりまで伸びて。


「えっと、粕谷クン、ですよね?」


「あ、はい」


 浴衣姿。

 ド級の金髪碧眼美少女がそこにいた。


 やべえ。

 なんで話しかけてきたんだ。なんで扉開けたんだ。


「あ、同じクラスなのに話すの初めてですよね! こほん。こほん」


 彼女が俺の態度で何かを勘違いしたらしい。

 違う、別に話すのが初めてだから戸惑ってるんじゃなくて。


「ワタシは、西ヨーロッパ、リヒテンシュタインから交換留学でやってきました、スノウ・フォン・ウント・ツー・リヒテンシュタイン」


わずかに緩んだ浴衣の胸元。気付いていないみたいだ。


同年代の男誰もが目を奪われそうな、白い首筋が眩しくて。


「スノウって呼んでくださいね!」


 キラキラの笑顔。


 溢れるお嬢様、お姫様オーラ。

 

 自己紹介などなくても知ってる。


「あ、あれ? もしかして、日本語間違えてた、かな? ですか?」


 目の前にいるのは、本物の外国の王族様だ。


 交換留学でうちの高校に来た事は日本中が知っている。


 テレビのニュースを見れば彼女の名前を見ない日はない。


「あ、ああ、ど、どうも。初めまして。粕谷 焚人かすたに たきひとです」


「うん! よろしく、かすたにクン! えっと……どうしてこんな所に1人でいるの?」


「あー……落ち着くんだ、狭い所……」


「あー、それ少し分かるかも! なんか秘密基地みたいかも! ねえ、ここ座ってもいいかな!?」


 くりくりした蒼い水晶のような瞳が俺を見つめる。


 圧倒的真の陽キャオーラ、断れるわけがない。


「あ、どうぞ……」


「ありがと! わ、すごいここの景色綺麗だねえ。月があんなにはっきり見える」


「あ、うん、そう、ですね……」


「え? なんで敬語? もう、同じクラスの友達なんだから敬語とかいらないよ!」


 きょとんと首を傾げる美少女にして本物のお姫様。


 思わず見惚れてしまいそうになるし、なんならこの状況だけで舞い上がってしまいそうだ。


 だが、焚人、そうだ、それでいい、淡々と対応しろ。


 彼女が1等級の宝石だとしたら、お前はゴミカス

 ゴミはゴミらしく振る舞え、でないと。



「「「「「…………」」」」」


 視線を強く感じる。


 さっきまであれほど楽しそうにわちゃわちゃしていた部屋がすげえ静かだ。


 なぜか、決まってる。


「あいつ……誰だっけ?」

「いや喋った事ないからわかんね」

「てかスノウちゃんに話しかけられてんのに愛想悪くね?」

「うざ」


 さっきまで騒いでいたリア充軍団がひそひそと陰口をたたき始める。


 こいつら身内にはさわやかなのに、それ以外には冷たいから怖いな。


「……」

「……」

「……」


 そしてさらに怖いのがあの3人。


 キラキラ最高峰トップカーストの人達だ。


 1番最初にババ抜きをしていたメンバー。


 超級の美少女とわんこ系イケメンと正統派クールイケメン。


 肩書は芸能科所属の超有名アイドルのセンター、人気雑誌モデルのエース、そして王族の騎士という出来すぎた素性。


 顔が良い奴らの無表情はめちゃくちゃに怖い。


 やべえ、どうしよう、このままだとまずい。


「あれ!? この雑誌……もしかして、ライフ・フィールドですか!?」


「え?」


「わー、日本語もっと勉強しておけばよかったかも! 話したり聞いたりは出来るんだけど、読み書きがまだ苦手でさー……、ねえ、粕谷クン、これ、なんの記事なの?」


「あ……えっと、今度の大規模PVPイベント、”ダンジョンウォー”の特集だと思う」


「わ! それってもしかして先月にもあった奴!? またやるんだ、あのクソイベント!」


 リヒテンシュタイン……いや長いから心の中ではスノウさんでいいや。


 スノウさんの言葉に俺は目を見開く。


「え……リヒテンシュタインさんもライフ・フィールドやるの、ですか?」


「えー、やるやる! めっちゃやるよ! だってこのゲームの王都ってうちの国がモデルだもん! それに王都のレヴェリナ王城だってワタシの家がモデルだし」


「え!!?? あのクソ死にゲーダンジョンと名高いあの城が!?」


「そうそう! 大門の上からバリスタ打たれる奴あるでしょ? あのバリスタもあるんだ


「マジかよ」


「というか、粕谷クン、敬語、いらないですよ? クラスメイトなんですし」


「スノウさんも敬語じゃん」


「えっ、あ、そうでした! あは」


 あ……やべ、楽しい。


 誰かとゲームの話をするなんて始めてだ。

 それがこんなに楽しいなんて知らなかった。

 だが、粕谷焚人。

 勘違いするな。周りを見てみろ。


「「「「「……」」」」」


 リア充達の視線がいよいよ、お姫様を誘拐した奴に向けるような目つきになってきている。


 そして。


「なあ、かすたに、だっけ? なんかさ、スノウさんに馴れ馴れしくね?」


 体格の良いリア充その一が、とうとうこっちにやって来てしまった。


 確か、野球部のキャプテンだ。

 アイドルやモデルに騎士と比べると1.5軍って感じだな……


「てか、そんなに仲良かったっけ? でもさ、あんま勘違いしない方がいいぞ。住む世界違うんだから」


 続けて体格の良いイケメン。

 確かラグビー部のエースだったような。


 確実にコイツらに目を付けられる。


 非常にこの後の学生生活はやりにくくなるだろう。

 下手したらいじめられるかも知れない。


「おい、なんとか言えよ。お前さ、正直ゲームの話題とか空気読めよ。スノウさんが話し合わせてくれるからって調子乗ってね?」


「え……お、岡島くん? べ、別にワタシ話し合わせてるとかじゃ……」


「それ思ったー。てか、粕谷君、だっけ? 声聞いたのはじめてかも意外とよく喋るんじゃん、でもさ、マジで空気読んでくんね? 今、俺らスノウさんと遊んでんだから」


 いよいよ本格的に、1.5軍の連中が絡んできた。

 怖い、普通に怖い。

 なんだよ、もうやっぱりこうなのかよ。


 俺みたいな何もないモブに、友達も趣味の話もする資格なんてーー。



 《技能が発動します》


 ――いっそ、悪役にでもなれば良かった。


 ……あれ?

 ……これ、よく考えたらチャンスなのでは?


 よく覚えてはいないが、きっと何もなかった俺の前世。

 きっとモブその1で終わった前世。

 こういう場面で事なかれ主義を貫いたんだろう。


 だから、前の人生は俺、独りで死んだんじゃないか?


 好きの反対は無関心だ。


 なら、嫌われたら、どうなるんだろう。


 無関心でいられるより、もしかしたら。


 ――いっそのこと、悪役の方が。


「あれ? み、皆、どうしたの? あ、そうだ! 粕谷くんも一緒にトランプしようよ!」


「あー……はは、えっと、それは、ねー」


「粕谷って確か昔……ああ、そっか」


「スノウ、友達は選ぶべきだよ、キミの優しさは時に残酷だから」


「えっ! アキ、それ、どういう意味? 別に粕谷くんにそんな気持ちで話しかけてないんだけど!」


 悪役と言えば、やっぱあれだろ。

 傲岸不遜、不敵な態度。


 不敵……不敵……。

 なんか、こう、偉い人にフランクな態度取るの不敵な悪役ぽいな……


 偉い人……あ。


「あ、粕谷くん、ごめんね、なんか、私のせいで……ええっと、あれ? そ、そんなに見つめられると少し、その、照れるかなーって」


 目の前に本物のブルーブラッドの王族様がいた。



 《技能が発動します》

 《勇気ロールに成功》

 《特殊な選択肢が発生します》



「殿下、貴女と同じ趣味を持てる事光栄に思います」


「エッ?」


 俺はおもむろに立ち上がり、スノウさんの隣に椅子を寄せる。

 顔がくっついてしまうほどの距離への急接近。


 石鹸の香りと甘い柑橘の匂いが本当に凄い。

 本当すみません。


「な……」

「あ?」


 固まる1.5軍達。

 目を見開き、鼻の穴を膨らませている。


「え……あ、う」


 おお、羞恥と怒りでスノウさんも顔が真っ赤。

 これ、国際問題とかになんのかな……?


 国際問題? 


 ……悪役っぽいな! ヨシ!


「「「は???」」」


 カーストトップの3人も、無表情なのに口元が痙攣してる。


 こわい、怖い、怖い。


 でも。


「お前……マジで何してんの?」


「何って、スノウ殿下とゲームの話をしてるんだが? ねえ、殿下」


「ふざけんな!!」


「何してんだ! てめえは!」


 1.5軍達が、拳を振るう。


 でも、それよりも先に。


「キミ、スノウに馴れ馴れしすぎでしょ」

「っダメ! アキ! 一般人です!」


 スロモーション。

 いつのまにか、お姫様の騎士、爽やか金髪イケメンの拳が俺の目の前に。


 うわ、これ絶対痛いよ。


 目を瞑ることすら間に合わないその瞬間。


 俺はふと、窓の外へ視線を。


 あれ? 月、あんなに大きかったっけ?


 そして、それは始まった。


「えっ……!?」


「なん、これ……!?」


「……! スノウ! こっちに!」


「あっ、待って、アキ! 粕谷くんが光に包まれて!?」


「スノちゃん! アキ! 早く部屋の方に!」


「ダメだ!? こっちにも光が!?」


 月が、窓いっぱいに広がって。


 この部屋だけじゃない、旅館の至る所から悲鳴が響く。


 光が、全部を白く染め上げた。


 ーー綺麗だ。


 それで俺の意識は途切れた。





 《術式展開、ステータスオープン》



 ——————————


 名 前:粕谷焚人かすたにたきひと


 レベル:####


 STR:1(決戦術式によりデバフの影響下にあります)


 INT:1(決戦術式によりデバフの影響下にあります)


 POW:1(決戦術式によりデバフの影響下にあります)


 技能:???


 職業:???


 ギフト:???


 生まれ:呪われた人生(二回目)


 進行中のイベント:たのしいクラス集団転移


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