第7話 洞窟で美少女を助けてみた、ダメだった。

 

 ◇◇◇◇


「おっと可愛い坊や、迷子かな? いいよ、おいで。パパとママはどこかな? おじちゃんが案内してあげよう、死の世界へ――おへっち」


「司教!? バカな! こんな子供がえっ? あれ、俺の首どこ?」


「死の試練! ああ、愛しき死の女神よ! 我らに試練をっおご」


「黒き手の者がいたはずだ! 早く呼べ!」


「だ、ダメです! 召集の鈴を鳴らしても反応しません……! が、ガキはどこに!? ああ!!?? 天井に!? 張り付いて?」


「な、なんだ、なんだこのけだものは!? 異神の使徒か!? おのれ、どこから嗅ぎ付けた!」


「あああああああああああ!? ネズミ!? ネズミが、俺を食って!?」


「3小節の呪文が通じない召喚獣!? バカな、一級魔法使いでもなきゃそんな真似!?」


「魔法騎士団の刺客か!? 教会め! 今更あの3人が惜しくなったか!」


「ああ、だから私は言ったんだよ! ホルガ村の近くで儀式はやめた方が良いと! 7大神が必ず我らをつぶしに来るって!!」


「バカが! 7大神は、そもそもっ!! ああクソ! 誰が、誰が裏切った! 


「……まさか! あの3人を助けにきたのか!? おのれ、薄汚い7大神の飼い犬め!」死のしもべよ、出でよ! 7つの予言の終焉をつかさどる我らにぶんのいちっ!?」


「……転生勇者よ。もう、遅い。支配も戦争も飢餓も、死の女神の抱擁を受けた……予言は我ら蟲の教団が達成するのびゃぶん」


「ああ! 副司祭も死んだ! おのれ……! ギフト起動、”死の輩”! 来い! 我が骸の兵よ! ああああああああああああああ!!?? 何故!? 何故、こっちに来る? あぎゃ」


「ぎ、ギフトが暴走したっ! 骸の兵がこっちに、いやあああああああああああああああああ」


「違う……コイツ、転生勇者じゃない…! こんなガキ、あの時聖堂にはいなーー」



 ぐしゃ。

 ぼきっ。

 どじゅ。

 ぶもおおおおおおおおおおお。

 チューチュー!!


 《洞窟内の蟲の教団の人員を全て始末しました》


 《職業・呪術師のスキルツリーにポイントが追加されました》


 《職業が呪術師の為、貴方の魔力はすべて”呪力”に変換されます》


 《”魔力操作・強化”技能は”呪力操作”に進化しました》


 洞窟の中には黒いローブを着た連中がゴロゴロ居た。

 見つかった瞬間、攻撃してきたので対応たしたが……


「うーん。さっきのねっとりイケメンが1番強かったな。皆、大した事ねえや」


『ぶも』


『ちゅー』


 ごりん、ごりん。

 ゾゾゾゾゾ。


 片付けた連中の死骸をイノシシの亥が丸呑み。

 ネズミの子はなんか目を離した隙にすげえ沢山増えていた。

 ネズミの大群が、死骸をきれいにクリーニングしている。


「うーむ……このお面と言い、呪術師の職業といい。このギフトも、もしかして、ライフ・フィールドの"術式作成"スキルなのか?」


 どんどん馴染んでいく力について少し考える。


 術式作成という名前の能力も、ライフ・フィールドに存在するものだ。


 でも、干支百景調伏呪法?


 俺のギフトにもともと存在していた力だが……。

 こんなのゲームであったっけ?


 自分でも良くわからない点がいくつかある。

 いやそもそもライフ・フィールドのスキルや職業がなんでこの世界に?

 でもな、ラノベのゲーム転生モノ、その辺あんま触れない作品の方が多いしな……。


 いや、待てよ。

 自分でも良くわからない力、妙に違和感のある世界での冒険……。


「ふむ……それはそれで……天衣無縫な無頼的な悪役っぽくて良いな」


 俺は改めて周りを見つめる。

 半笑いで襲い掛かってくる黒いローブ連中や、ゾンビっぽいのとか骸骨っぽいの。

 化け物みたいな連中を狩って回ってここにたどり着いた。


「……黒魔術のオカルト儀式か?」


 酷い光景だ。

 たくさんの動物の死骸。

 見た事のない生き物は、モンスターのものか?

 広間のような空間には血で描かれたような魔法陣っぽいのが引かれている。


 そして何より酷いのはーー。


「うっわ」


「……」


「…………」


「……………」


 酷いモノを見つけてしまった。


 気味の悪い、なんか骨っぽいので出来てる十字架。

 それが3つ。


「……ああ、やっと、死ねる」


「ふ、ふふい。……ワタシの理論は間違えていな……い」


「……血、飲みたい、でも飲んだら、また生きちゃう……」


「うっわ、うっわ」


 思わず2回呟いてしまった。


 なんだあれ、人、か?


 十字架には人っぽい何かがそれぞれ3人、磔になっている。

 ひどい有様だ。

 映画で言えば18禁確定。

 人か死体かで言えば、ギリ死体だな、


 腕とか脚は腐りかけているし、うわ、眼のとこに巻いてる布、血だらけじゃん。

 ……くり抜かれたってコト?


「……だ、れか、いるの?」


「……あ、ああ。ようやく、終われる……」


「……死にたい」


「うわ〜」


 なんか悲惨なドラマを感じるな。

 流石、道を歩けば山賊やら盗賊やらにぶつかりまくるクソ異世界。


 胸糞イベント盛り沢山って訳だ。


「ライフ・フィールドっぽいな……」


 この容赦ない残酷さ。


 ほぼすべてのクエストに登場人物の死亡ルートや全滅エンドが用意されているあのゲームっぽい。

 あのゲーム会社マジで人の心がないシナリオかましてくるしな。


「……死の匂い、やっと来てくれた……」


「……目が見えないのが、残念だね。でも、わかるよ、恐ろしいモノが来た……」


「……あはは、ようやく死ねる、死の女神……くんくん、以外と男っぽい香りなんだあ」


 なんだ、こいつら?


 さっきから独り言の内容的に……死にたがっているような。

 う〜ん。

 あの黒ローブとか山賊さん達みたいに問題無用で術式展開するのはなあ。


 話しかけてみるか? 

 十字架磔にされてる奴らに静かに語りかける翁面の俺。

 うーん、悪役か? ……悪役だな。


「俺の声が聞こえるか? 磔の者達よ」


 磔の者達ってなんだよ。自分の語彙力悲しいわ。


「……だ、れ?」


「……死の女神ではない……?」


「ふへ……な、な、な、なんだ……人違いか……」


 死の女神……?

 なんか、なんだ。それ、悪役っぽいな。

 コイツらはそれを待っていたのか。


 ふむ。

 ライフ・フィールドのお約束として攻略した洞窟にいる敵は全て皆殺しにしておきたいけど……


「……こ、ろして」


「あ?」


「……いるんでしょ? 目の前に。……あなたが誰かは知らないが……教団の声が聞こえなくなった……あなたが殺したんだ……」


「はは……黒い指も何人か居たはずだけど……やる、ね。旅人クン……」


「あなたが、僕を殺して、くれるの?」


 おお。なんか急に喋り出した。

 ……3人いっぺんに話し始めるとわかりにくいな。

 もういいや。


「良い、お前達が何を望むか、既に知っている」


「……え?」」」


 ライフ・フィールドあるあるその一。


 "どうしようもない鬱イベントが石ころのように転がっている"、だ。


 初心者はそういう鬱イベント1つ1つに本気で付き合って心を折る。

 玄人は違う。

 諸行無常。あまり感情移入しないのも弔い方の1つだろう。


「……良い。何も言う必要はない。お前達の望みは、叶う」



 《プレイヤー。選択の時です。目の前にあるのは自らの死を望む哀れな魂。あなたの世界に対する答えを教えてください》



 謎の声もなんかノリノリな感じだ。


 う~ん、まあ本当は助けてあげたいもんだが……。

 翁面があるんなら、俺がゲームで手に入れた回復アイテムとかもアイテムボックスにあるかもしれないが……。

 あれからうんともすんとも言わないんだよな。


 この一週間の修行でも、他人を回復させるような事はしたことないし。


 死にたいと呟く救えない奴に安らかな死を……。

 うん、それこそ悪役だろ。


「眠れ、哀れな魂達よ……」


 魔力を手に籠めて磔に触れる。


 家無しとして勇者候補の元クラスメイト達にしばかれ続けるあの生活。


 魔力の操作はかなり練習出来ている。

 そしてその性質も。


 《あなたのは呪力、ですね、プレイヤー》


 ……そうなの? まあいいや。


 どうやら他人の呪力は体に害になるらしい。

 これだけ弱ってるんだ。

 攻撃じゃない、呪力を流し込むだけで彼女達は力尽きるだろう。


「……ああ」

「これは……魔力……いや、違う……? もっと濃くて、なめらかで」

「暖かい……」


 ブウウウン。


 磔にされた彼女達を黒い光、墨のような色の呪力が包んでいく。


 まあ彼女達には彼女達の地獄があったんだろうな。

 俺が知る由も、寄り添う理由もないけど。


「さらばだ」


 呪力を更に増やすため、俺は目を瞑る。

 悲鳴も苦しみの声も聞こえない。

 苦しむ事なく終わらせてあげるくらいしか出来ないけど、まあいいよね。


 《なるほど、それが、貴方の選択ですか。安易な死ではなく、険しき生を歩め。ふっ、やはりあなたは興味深いです。プレイヤー》


 うん?

 なんだ、ナビの反応がおかしい。


 ぼきん。


 え。何の音?


 俺は呪力操作をいったんやめて、目を開く。


「……マジ?」


 3本すべての十字架が折れている。

 そして俺の目の前には――。


「……え?」


「……刻印が、消えた?」


「……嘘、死の紋様が、な、なくなってる……」


 物凄い美少女3人。


 白い髪、赤い髪、黒い髪。


 伸びきった髪の毛から覗く顔、小さくて本当に人形のような現実離れした美。


「傷が……ない?」


「バカな……死の権能で傷つけられた傷は、決して治らないはずじゃ……」


「あ、へへ。……わ、わた、わた、わたしも、ふ、不死にも、戻って……」


 襤褸を纏った少女達がその場に立ち尽くす。

 磔にされていた時の傷がない?


 あっれー?

 なんか話違うな。

 死にたがっている奴らにさわやかに引導渡す悪役プレイだったはずなのに。


 まあ、生きてるんならいっか。


 ふむ、それはそれで気まぐれな悪役ムーブっぽい気もする。

 他人の生殺与奪すら自分がすべて握ってしまう……悪くな――。


「どうして!!!!!!!」


「うお」


 洞窟が揺れる。

 彼女達の声に反応し、世界が震えるように。


「――なんで生きてるの!? なんで、助けたの!!??」


「あ、はは!! はははははははははは!! 世界よ、これがワタシ達の運命とでも言う事かい!? 死すら、与えてくれないと!? この呪われた業を手放す事は許さないと、そういう、事か……」


「ああ。また飢える……また、欲しくなる……ああ、死にたかったのに……死にたかったのにいいいいいいいいい」


 ぼおおん。


 膨れる魔力。可視化できるほどに濃くて大きな魔力。


 白、赤、黒。


 火山噴火のような魔力を彼女達は噴出して。


 ぎん。

 白、赤、黒の髪。

 それぞれ2つ。金色の目が合計6つ、俺を睨みつけて。


「「「――どうして、治した?」」」


 おおっと。

 なんか話変わってきたな。

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