第6話 山賊さん!! さようなら!

 


「ぎゃああああああああああああ」

「お、俺達、殺されるの? こ、こんなガキに!?」

「ずた袋なんてふざけたものかぶりやがって!」

「もしかして、こいつ、預言の子とか言う言い伝えのガキ?」

「家無しのガキだろ!? 預言の子とかいう特権階級のガキ、ギフテッドがこんな、場所にっぎゃ」

「先生! 先生はどこだ!?」

「ぎゃあああああああああ!!!」

「食われる、猪に、食われっ、こんな、バカな、俺達月の雫山賊団が、そんな……っ!?」

「猪をと、止めろおおおお! 魔法が使える奴は全員あの猪をーー」

「違っ!? これは、召喚獣!? 術者を殺せ! 魔法を、召喚魔法を使ってる奴を!?」

「猪が、来るううう!!」


『ブモオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 ふむ。

 干支の亥、強いな。


 何回か山賊達の剣や槍、弓、それに魔法攻撃を受けているけどダメージを負った感じもない。


 そして。


「イノシシだけ見てちゃ駄目だろ」


「が、ガキ!!!!???」


 ぶちゅっ。

 隙だらけの山賊の腹に一発。

 俺の拳は容易の山賊の腹を突き抜け貫通する。


 《技能・魔力操作・強化系、使用》


 魔力による肉体の強化。


 魔力を纏う事で俺の身体は10歳とは思えない強度に変わる。


 これも全部、あのクソガキッズ達のリンチのおかげだ。


 よし、理想の悪役にまた一歩近づいたな。

 強いってのは、脱モブの最低条件だ。


「あーあ、覆面に血が付いちまった」


 一応身バレ防止の為に、村のゴミ捨て場で拾ったずた袋をかぶってる。

 

 けどこれもそろそろ新しいのがいるかもしれない。血だらけだ。


 ーー懐かしい感覚だ。


 《プレイヤー、強い魔力反応です。”ギフテッド”がいます、推定A級ギフト以上……100万人に1人の実力者です》


「ふむ……そこの木陰に隠れてる奴か?」


 月明りに照らされた森。

 木陰の向こうに気配を感じた。


「――驚きました。お若いのにお強い……素敵だ……」


「せ、先生!!!」


 木陰の奥から出てきたのはやんわりとしたローブ姿の銀髪ロングのイケメン。

 どことなくねっとりした目線。紫の口紅。


 ビジュアル系バンドにいそうだな。


 この世界、なんかイケメンとか美女とか多いのは異世界あるあるなのか?


 月明りの下のローブ……不敵な悪役っぽいな。



「妙ですね……マリス教会から手に入れたギフテッドの子どもに君のような存在の情報はない。その腕前、そして躊躇いのなさ。わかります。貴方も私と同じですよね? その袋の目出し穴から覗くのは、人殺しの目だ……その歳でなんと完成された事か……素敵だ、ご友人になりませんか?」


 おいおいおいおい

 こいつの口調に言葉、こいつ。


「おや、どうしましたか? ふふ、恐れる事はありませんよ。ご友人……今日は素敵な夜になりそうだ。あなたは私と踊ってくれますでしょうか?」


 ――話の通じない系の悪役っぽいな! 

 ある意味かっけえ! 負けてられねえ!!


「わかっていますよ。あなた、おそらくは……支配、戦争、飢餓の眷属か何かでしょう? ふふ、素晴らしい嗅覚です。あの洞窟をもう嗅ぎつけるとはね」


 こういうねっとり系悪役にはどういう対応が……


 いや、寝る前にいつも悪役妄想ロールしてんだ、自信を持て!


「――いいね、じゃあ友人の条件を教えるよ」


「おや、それは嬉しい。条件とは?」


「俺と対等である事。ふむ……困ったな、お前はそう見えない」


「ーー素敵だ。そのずた袋の中のお顔をぜひ、見たくなりました。その死に顔も」


 ばさり。

 そいつの黒いローブがゆらめく。


「蟲の教団! "黒き手"の親指! ロマネスク・ブルー・ミルクです、ご友人、貴方に死の美しさをお教えしましょう」


 黒いローブの男が、ねっとりと地面を撫でて。


「――ギフト・スタート”死の呼び声”」


「えっ、せ、先生……それ、俺達も巻き込まれ、あ、ああああああああああああああああああ!?」

「いやだ、死に、死、ああああああああああああああああああああああ」

「オルゴールの音、なき声、遠吠え、ああ、水が頭の中でええええええええええ」


 黒いローブの男の足元から広がる闇。

 その闇には人間の手や足が浮き出てもがいている。

 それに触れた山賊達が皆、泡を噴いて倒れていく。


「7つの終末預言、6つ目、死の預言! 人間が避けられぬ死の女神、我らが彼女の力! さあ、ご友人! 私こそが、貴方の死っ――」



 そこでイケメンの言葉は止まった。


 ずんっ。


 おお、凄え。

 魔力を足に纏えば、すげえジャンプできるじゃん。

 でも、魔力強化、後で身体痛くなるんだよね。


「あ、え?」


 ボスっぽい奴が目をぱちぱちと見開く。


 ポーズ取った瞬間に、地面を蹴り、肉薄。

 そのまま腹をぶん殴った、突き抜けた。


 地面を染めた黒い闇は、魔力を纏った部分には触る事が出来ないようだ。


「バカな……あなたは死が、怖く……」


「悪いな、経験済みだ」


「……ああ、素敵だ。グレ……ド、あとは……」


 まあ、前世で死んだの覚えてるから広義的には嘘じゃないだろ。

 

 満足そうな顔で死んだな、こいつ。

 ……ふむ、満足っぽい感じで死ぬの悪役っぽいな。


「さて、戦利品タイムだ」


 山賊の野営地と書いて宝箱と読む。

 ライフ・フィールドプレイヤーの共通認識だ。


「お、なんか高そうな絵画とか像とかめっちゃあるな。……いやでも売るツテがないか」


 現金やポケットに入るレベルの宝石や貴金属をいくつか頂く。


 村でのクソ婆の畑仕事だけでは満足な食事をとる事すらできない。


 悪役に必要なのは健全な精神と健康な肉体。その為に食事をおろそかには出来ないしな。


「にしても、山賊を始末するのにも慣れすぎたな」


 こぽぽ。


 まだ点いてる焚火の前に座り込み、俺はテントの中にあった鍋で水を沸かして一息つく。


 良い夜だ。

 この世界は月が2つある、そのせいか月夜が本当に明るい。



 《精神判定ロールが発生します。――”呪われた人生(二回目)”により、あなたは血と死と呪いに慣れています。凄惨な場所においてもあなたの心は揺らぐことはありません》



 自分が始末した敵の拠点の真ん中で、優雅に白湯を飲む。

 ふむ、なんかねじの外れた悪役ぽくて悪くない。悪くないが――。


「俺、なんか……慣れてるな」


 余った水で血まみれの手を洗う。


 ぼりん、ごりん。

 どこか小気味良い音。

 亥が、山賊の死体を丸呑みにして咀嚼する音だ。


 ……ふふふ、どうしよ。あいつ人食うのかよ。口めっちゃ大きい。怖……。



 《人間の規定殺害数を突破。ライフ・フィールドの引継ぎが進行します》


 《職業システムが解放されました》


 《適正により、貴方の職業クラスは”呪術師”に決定されました》


「……え」


 今、なんか聞こえた、またあの声だ。

 気のせいか、ライフ・フィールドからの引継ぎだって?


 《呪術師の職業、貴方にはぴったりのクラスですね。プレイヤー、。いえ、言葉は不要でしょう。貴方はこの世界でもまた大いなる力を求めている。この1週間、ずっと貴方を見ていました。――なかなかのものでした》


 不要じゃねえよ、説明してほしいよ。

 いや、でも、しまった。

 こいつには俺の、説明不要の不敵な悪役ムーブを見せつけている。

 今更戸惑ったり、聞いたりするのもダサい気がするな。


 《あなたは恐ろしい人です、この世界に来訪し、わずか1週間ですでに山賊を100人以上討伐している。勇者候補として訓練を受けている者達は未だ、実戦すら経験していない状況で》


 そんなに。

 ノリノリでやりすぎたか?

 現実世界だと余裕で死刑だ。


 《呪術師の職業特性。”殺害適正”。貴方は他者を害する事に何も感じない》


「うん?」


 《素晴らしい。貴方はライフ・フィールドの理想的といっても良いプレイヤーです。――ええ、貴方にはすべてお見通しなのでしょう?》


「……さあな」


 本当に何のことだ?

 お見通しも何も、こっちはお前が何者かすらもわからないのだが。


 《なるほど。手持ちの情報すら明かす気はない、と。ご存じの通りです、プレイヤー》


 ご存じじゃないけど、ここは黙っておくか。


 《貴方はこの世界になじめば馴染むほど、ライフ・フィールドとの同調が進みます。呪術師の職業はその始まりにすぎません》


「……え?」

 《うん?》


 あ、やべ。


 思わず素が出た。

 同調? え、この呪術師ってまさか、ライフ・フィールドの呪術師職業クラスの事か?


「……ごほん、続けろ」


 《ふ、その不敵な態度。末恐ろしいものです。貴方は戦えば戦うほどにライフ・フィールドの進行状況をこの世界に反映する事が出来る”プレイヤー”です。この短期間での考えられないほどの山賊の討伐数。……とっくにご存じだったんでしょう? この世界での力の使い方を》


「……さあ、どうだかな」


 マジかよ。

 魔力やファンタジーだけじゃなく、ゲーム転生要素付き?

 しかも、ライフ・フィールドの進行状況って事は……?


 ぶうん―ー。

 妙なノイズ音。


「あ?」


 なんだ、これ。

 俺の目の前に黒い穴が開いた。

 空中に浮かぶ穴。

 まっくらで先は見えない。


 《驚愕です、まさか、すでに保管庫ボックスへの接続権すら有しているとは……》


「……我が蒐集品はどの世界においても我が物であるゆえに」


 ――いやもうこれ口調合ってる?

 キャラ造形の粗さが出てきたような気が。


 《その不遜、それこそが、王の故というわけですか》


 行けたっぽいわ。ヨシ。

 こいつ、ノリがいいな。


 からん。


 その穴から何かがこぼれるように落ちてきた。


 焚火と月夜に照らされたそれは。

 ――老人を模したお面。


 俺はそれを知っている。



 《古遺物アーティファクト・”翁面(黒)”》

 《これは”特級”の古遺物だ》

 《これは呪物だ》

 《所有者に”識別不能”の状態を付与する》

 《この面をつけた者は正体を隠匿出来る》

 《この面をつけた者は”翁の呪”に囚われる》

 《これは意思を持つアイテムだ》



「ライフ・フィールドの翁面じゃん……」


 うすら笑いを浮かべた黒い翁面。

 日本の能や神楽で使われるお面そのもの。

 それは、ライフ・フィールドに登場する特別なアイテムだ。


 《まさか……アイテムの方から貴方を見つけ出すとは……プレイヤー、貴方は一体……》


 ナビがまた驚いてる。

 いや、俺の方が驚くわ。

 ライフ・フィールドで俺が手に入れていた装備品がどうして……


「……ふむ、いいか、別に」


 まあ、もう細かい事考えても仕方ない。

 翁面、これがもし本当にライフ・フィールドのものと一緒なら。


「悪人プレイには欠かせねえな」


 ぱさり。

 かぶっていた目出しのズタ袋を焚き火に放り捨てる。

 面を被る。

 なんというフィット感。

 しっとり冷たく、心地よい。


 《翁面(黒)を装備しました。識別不能の特殊効果が発生します》


 呪物。

 ゲーム。ライフ・フィールドにて、このアイテムのジャンルはそう呼ばれていた。


 翁面(黒)のライフ・フィールドにおいての効果。

 それは、認識改変。


 この面をつけている間らは"翁"と呼ばれる存在として周囲に扱われる。


 まあ、つまり悪党プレイしまくってもこの面さえ外せばお咎め無しのチートアイテムという事だ。


 《貴方のアライメントが"悪"に傾き……失礼。貴方のアライメントはこれ以上悪にはならないようです》


 ナビの声を聴き流し、俺はふとある事に気付いた。


「……これ、もしかして、俺、正体隠して悪役プレイ出来るんじゃね?」


 このアイテム。ゲームではあまり使いどころなかったんだが、今は、違うんじゃ?

 奇妙なお面をかぶった黒幕悪役……。

 良い、すごく良いかもしれない。


 ああ、やばい。なんかテンション上がってきた!

 やりたい、このお面をかぶった状態でなんか悪役っぽい事してみたい!

 まだ生き残りの山賊とかいねえかな?



「ん? あの洞窟……」


 そういえば、なんか山賊もあのイケメンも洞窟がどうのこうの言ってたっけ?


 山賊の野営地の奥に、先の見えない洞窟の入り口がぽっかりと口を開いている。


「ふむ。入るな、と言われると入りたくなってくるな」



 野営地をこれ以上漁っても特に何も無さそうだし……。


 それに、ライフ・フィールドでも山賊の野営地から洞窟とかのダンジョンに突入するとかよくあったしな!


 行ってみるか! 洞窟探検!

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