S級戦犯ゲットだぜ!

 それまでむすー、としていた表情は此方を見かけた瞬間、一転して笑顔へと変わる。


「灰色さん!!」


「おごっ」


 囲んでいた研究者の顔面にエルボーを叩き込んで囲みを突破すると、そのまま一気にこっちに飛び掛かってくる。飛び込む姿を抱きとめて、くるりと回ってから足を床に下ろすと、そのまま俺の胸に顔を埋めてぐりぐりと頭を押し付けてくる。


「んー! 灰色さん……灰色さん! やっと逢えました、やっと迎えに来てくれました! 遅い! 遅かったです!」


「はは、ごめんごめん。ちょっと心停止しててね」


:ちょっと心停止(心臓無し

:どうして生きてるんですか!?

鉄人:頭さえ残ってればその下はなくてもどうにかなりますよ

魔法少女:黙れ全身ブリキ野郎

鉄人:おっと、サイバネディスですか? 受けて立ちますよ

:他所でやれ


 無論、エリクサーで復活したので心臓はちゃんと動いている。サキは未だに生きている事実が不思議なのか此方を見ては首を傾げている。まあ、解らんでもない。死亡状態から復帰するのを見た事がない人はそれはもう驚くだろう。とりあえず天使をサキに預ける。


「あ、初めて見る人ですね! 私は天使です、よろしくお願いします!」


「え、えぇ……私はサキよ、よろしくね、天使さん」


 後ろで天使とサキが交流し始めるのを無視し、視線は残ったキャラの濃い研究者たちへと向けられる。俺の視線を受けた1人が眼鏡をくい、っと押し上げる。


「おや? おやおやおやおやややややぁ? なんでしょうかねぇ、この熱視線は。もしかして私、今ロックオンされている? Oh……これはもしや命のデンジャーって奴なのではないかな? 見るが良い、あの全身武装されている青年を……うおっ……武装しすぎ……どんだけ体に仕込んでるのぉ……?」


「え? あ、本当に凄い刻み込んでますねぇ。見える範囲でも全身隙間なく刻んでません? というか眼球にまで刻印刻んでますこれ? えぇ……そこまでやるのぉ? こうなると内臓とかにまで彫ってそうですね、君……頭おかしくなぁい……?」


「いや、だが異なる効果の刻印を共存させるならそれぞれ領域で干渉させないように異なる場所に彫るのは正しい考えだよ。基本的に皮膚に刻むものだけど、骨や内臓に彫る事が出来るなら確かに刻み込める量も変わってくる、それだけ異なる効果を肉体に付与できるって事だ。頭おかしいなあ、君は」


「文句はウチの母さんに言ってくれない? 圧倒的に頭おかしいのはアレだから」


「まあ、そうか……」


「暴君を出されちゃなあ……」


「お前も色々と辛かっただろう……」


 なあなあの慰めの言葉を零した研究者たちが溜息を吐きながら解散しようとするので近くの壁を蹴り飛ばした。


「話題を流して解散って手には乗らねーぞ。オラ! 1列に並べ! まだ帰宅は許してねえぞクソボケ共! はよそこに並べ!」


「うっす。ダメだったかあ」


「流石に雑すぎたか」


「おーん、だからさっさと脱出しようって言ったのに……」


 研究者たちが横1列に並んだので、振り返って浮かんでいるドローンに向かってキラ、とポーズを決める。


「第1回! チキチキS級戦犯決定ゲーム! いえ―――!! オラ、盛り上げろ」


:必死に吠えてる……

:後ろのおじさんたち可哀そう

:本当に可愛そうだと思う?

戦士:どうせ全員カスだから同情の余地はないぞ

:死にたくないから必死に盛り上げようとしてるぅ

:タンバリン……


 振り返って研究者たちを見ると必死にタンバリンやカスタネットを叩いてこの突発企画を盛り上げようと頑張っている。形相が必死過ぎる辺りが凄く良いと思う。


「折角ザキさんのチャンネルをジャックしている訳だしね?」


「私はサキよ」


「だから配信っぽい企画をするべきだと思ったんだよ。ほら、配信って言ったら企画らしいし? ここで突発的になんかやってみようかと思ったら丁度良い所に参加者が群れてるじゃん。じゃあこいつらを使うしかないよね、って感じで」


最強:カスの血筋だなぁ……

魔法少女:お前がそう言ったら誰も否定できない

鉄人:あ、あなた程の人がそういうなら……

:開幕暴君すぎて腹筋がダメだった

:当事者は地獄だろうけど見てる分には面白いんだよな……


「という訳で、君たちはこれから俺がいない間、天使を拉致ってここに連れてきてから行った事を告白して貰います。そこから視聴者の皆に誰がS級戦犯なのかを投票して貰います。S級戦犯がどうなるか? さあ……その時のノリとテンション次第かな」


 ひえ、という声が画面と研究者たち双方から漏れ出す。サキはサキで振り返って天使に何か酷い事されなかったか、とか確認してる。やっぱ天使を任せられる人間がいると楽だなぁ。


「はい、じゃあまずお前から。君はどんな戦犯行為を行ったかな!」


「え、わ、私ですか? え、えーと……えへへ……」


 1人目の研究者は恥ずかしそうに頭を掻いた。


「研究する前にちょっと楽しめないかと思って、差し入れの中に媚薬混ぜました! いやあ、媚薬結構濃縮して入れたんだけどまるで効かないから驚いちゃいましたよ……えへへへ……」


 グーパンで前歯をへし折った。気絶した姿を窓から外へと投げ捨てる。


「はい、次」


「え、わ、わわ、私ですか? そ、そんな酷い事はしてませんよ? 私は研究員の中でも下っ端ですし……あ、は、はい! 献身の為に服を脱がせようとしたんですけど、服を脱いでくれないからどうせ傷1つないだろうと思って溶解液をぶっかけました!」


 グーパンで前歯をへし折った。倒れた所をそのまま下の階へ続く大穴へと向かってシュート!


:開幕から戦犯スコア高い奴来たな

:どうしよう。欠片も同情出来ない

:まだ穏便な方でしょ

:これで穏便なの……?

企業人:まあまあジャブですね


 やってる事は開幕カスである事には違いがないが。だがこれで2人程ゲームから脱落してしまった。残された戦犯候補たちの前を歩く。


「S級戦犯はお前かな? それとも君かなぁー? よーし、今度は君の告白を聞いてみよっか。君はどんな不埒な事をしたのかな?」


「はい! 私は催眠ガスを使って無力化しようとしました! 深呼吸されたのにまるで駄目でした!」


「うーん……判断に悩む所だな……あまりにも普通過ぎる……ほかに何かしてない?」


「はい! 天使ちゃんのエロ画像をAI生成しました! SNSで投げました!」


 前歯へし折って腹パンして倒れた所で蹴りを叩き込んで大穴の中に放り捨てる。


:中々のカス度高い奴だったな……

:アカウント特定できそ~

:どうして笑顔なんだこいつ……

:怖いよぉ

妖精:特定して消しといた


 これで更に人が減ってしまった……次は誰から追及してやろうかな、と思っていると自信満々に1人が前に出てきた。


「俺はそこらのクズとは違い、学術的な意味でその天使に興味を持っている……その体は未知の塊だ。軽く研究するだけでも新たな技術が大量に出てくる。状態復元能力、観測出来ないエネルギー、そして圧倒的なまでの肉体的なスペック……どれをとっても素晴らしく、そして美しい」


 呟くような最後の言葉、それから溜息。


「彼女の体は誰かが1人で独占して良い様なものではない。人類の技術が、科学が、その全てが進むような奇跡の存在だ。解るか、灰色の嵐。君は今、人類の至宝を独占しているのだ。これは人類に対する背信だ、余りにも愚かな行いだ……己の行動を見つめ直す事を進める」


「興味ないね」


 人類の事とか、進歩とか、そういうのはほんとどうでも良い。


「俺にとって重要なのは本人の意思と、どうなりたいかって事だけだ。生まれを選ぶ事は出来ないが、どうあるかは、どうありたいかという心は個人の自由だ。そして俺はその自由を尊重する。俺が生まれる親を選べなかったように、彼女も生まれる場所を選べなかった」


 それでも。


「どう生きようとするかは、自由だ。それだけは強制されて良いもんじゃない」


「その選択の結果、全てを敵に回そうとも?」


 腕を広げてアピールする。


「世界の全てが今、俺の敵だぜ? で、お前は何をした?」


 俺の言葉に、研究者が笑った。


「針が肌を通らず、採血が出来なかった。言われた通りアダマンタイトの針もダメだ。ミスリルの刃も通さなかった。だから光圧縮レーザーで肌を焼ききる事にした―――だが通さなかった。彼女の肌は最初僅かに赤く腫れたように燃えて、次の瞬間には適応した」


 はは、と研究者は笑った。


「化け物だ。この天使と呼ぶものは、人の形をしているだけで人ではない。モンスターか……或いは、人の形をしているダンジョンそのものだ。そうだ、ここまで滅茶苦茶なのはダンジョン以外ありえない。案外これが正解なのかもしれないな……くくく」


 1人で納得した様子の研究者は楽しそうに笑っているので容赦なく前歯と鼻をへし折ってやった。ついでに両足を掴んでジャイアントスイングから窓の外へとテイクオフさせる。じゃあな、もう二度と出て来るなよ。


:容赦ねぇ……

戦士:それはそれとして絶対に処する精神

:うおっ、良く飛ぶ

魔法少女:容赦する理由ないしね

全裸:悪い奴はとりあえず殴るに限る!


「ところで天使ちゃん、色々されたみたいだけど大丈夫?」


「ぐぅ―――って我慢したらなんか平気でした!」


「そっかぁ、偉いねぇ……」


「はい! 私はとても偉いので帰りに何かお菓子を買うべきだと思います! あれ、サキさんどうして私を撫でているんですか? あ、灰色さんもどうして撫でてくるんですか? あ、もっと続けてください。私は偉いので」


 天使を撫でて自分も視聴者もだいぶ癒された所で戦犯ゲームもだいぶ興味を失ったので、残った全員の前歯をへし折って穴の中へと放り込んで廃棄する。これでゴミの処理は完了した。これ残される気配は社長室らしき場所にあるものだけだ。


 恐らくこの状況でも社長はまだ逃げていない。最悪、天使さえ奪還できるなら逃がしても良いとは思っていたが……もう1つの気配を感じ取る限り、リターンマッチを受け入れるつもりなのかもしれない。


「じゃ、後はケジメつけさせに行きますか」


 徹底しなくてはならない。


 周知しなくてはならない。


 天使を狙った者、敵対した者、その末路はどうなるかという事実を。

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