アプリ配信停止のお知らせ

「ひっ、ゆ、許して、私はただのサラリーマン……」


「あぁ、行け行け。カタギに手を出すつもりはないから。残って巻き込まれる場合は知らんけど」


 掌底を叩き込む。よろめく姿の腕を掴んで引き寄せながら横に長し、射撃の壁にしつつ体を回って入れ替わりながら蹴りを飛ばす。他の方向から来る斬撃を再び盾に使って回避しつつ遮蔽越しに衝撃を貫通させ、粉砕する。


 ぼろぼろになった姿を捨てつつ弓を抜けば矢の代わりに雷が装填される。照準は一瞬、雷の矢を放てば一番近くに居る対象へと自動的に突き刺さり、貫通して体内を焼きながら次の対象へと向かって雷がその勢いを消すまで連鎖して焼いて行く。


「どう、社会見学参考になる?」


「あんまり……」


:せやろな

:やってる事が滅茶苦茶すぎてな

:サキちゃん落ち込まないで!

:ソイツの頭おかしいだけだから!

:男ははよ消えろ

:この状況でもまだそれ言えるの凄いよ

鉄人:そも戦い方の参考に関してはインストールで終りますからね……


「50人以上しばき回ったし、そろそろ次の目標に行くか」


 弓を戻して灰弩を取り出し天井を射撃する。それだけで10フロア分貫通消滅する。こういう状況で悠長にエレベーターや階段を使うのは間違いなく馬鹿のやる事なので、サクッと天井に穴をあけてそれを通り道にしてしまう。


 無論、壁外から突入する方が安全だが、これは宣戦布告を兼ねた事なので派手に暴れ回っているだけだ。もう既に50を超える数を処理しているし、そろそろ終わりが見えてきた頃なんじゃねぇかなぁ、とは思っている。いや、流石にまだ精鋭部隊ぐらいは残してるか。


 まあ、いいや。出てきたら倒そう。そう思考放棄してサキを掴んで跳躍する。


 開けた穴の淵を蹴って更に上へと飛ぶ。容易く上へと向かって数階突き抜けるように跳躍しつつ自分へと向かってくる気配を全て読み取る。既に社員の大部分は逃げているらしく、ビル全体から感じられる気配は薄くなっている。


 軽々とステップを踏んで上へと移動する。


「所でザキさんって強さに拘りのあるタイプ? 意識高い系?」


「サキよ。意識が高いというか……目的があって、力が必要なのよ。だから参考になるかと思って付いてきたのだけれど、まるで参考にならないわ」


:せやな……

戦士:だろうな

魔法少女:スタートライン違うしね

鉄人:前提が違いますからね

星条旗:考え方が間違ってるね!

最強:うーん……

:なんややばいハンネの人増えてきたな……

:有名人が混じってる(小声

:チャンネルジャック2回目になると皆動くの速いね……

:強い人たちは配信する必要ないからしないしな


「強さが必要系の人かあ。まあ、わかるよ、気持ちは。強くないと生きていられない世の中ってあるよね、うん」


「絶対に解ってない気がする……」


 よっと、穴の中から20階に到着する。ここはサーバー室。JP社が抱えるアプリのデータやその配信を行う為の重要な施設だ。ここが停止するとJPシャから配信されているアプリが動かなくなってしまう為、厳重に管理されているのだが、


「こんにちわ! さよなら!」


 槌と斧。纏う。振るう。


「サーバー室ないなった!」


「サーバーどころかこの階そのものを破壊してる……」


:ないなったねぇ

:影も形もないね

:ついでにアプリが動かなくなったことを確認

:あ、ほんとだ

:JP社配信アプリ終了のお知らせ

:こうやって見るとマジで崩壊してるんだなあ、ってのが良く解る

:俺のメイン火力だったんだが……?

:諦めろ。嵐が過ぎるのを俺達一般市民は祈るしかない


 20階破壊完了。これで資金源であるアプリサービスを停止に追い込めた。ここを復旧するとなると相当金と時間がかかるだろう。これを破壊しただけでもだいぶ気分が良くなってくる。やはり破壊、破壊こそが全ての答え。破壊する事は正しい。


「じゃ、次は研究室の方へと天使を向かえに行くか……気配はあっちの方だな」


「気配とか、解るの?」


「解るよ。人によってそれが命の気配だったり、魂の気配だったり、体内を巡る魔力の流れだったりで感じ取るものは変わってくるけど……上位帯に上がれば大体の人はそういう気配を読めるようになるよ。義体は割と気配が薄いから嫌い」


「……そう」


 天井に穴を開けてサキを抱えて跳躍する。


「何を考えてるのかは良く解らんが、君は強さってものを知りたいのなら見れば良いとは思うけど、そもそもからしてスタート地点が間違ってる。学生がチマチマとダンジョン潜って、稼いで、それで自分を強化しようって発想、アレそのものが間違ってるよ」


:学生の放課後全否定来たな

最強:いや、灰色くんは正しいよここら辺

:じゃあどうしろって話なの?

:お前は全国の学生探索者を敵に回した

:既にこの人国内の企業全てと敵対してると思うんですけど


 よ、っと上の階へ抜ける。敵の気配。肩にサキを担いだまま槍を取り出して迎撃に走る。


「そもそも低ランク帯で得られる経験も金もカスみたいなもんだから、さっさとそこら辺全部ふっ飛ばして高ランク帯に突入できるように下地を揃えて入る方が早いし良いよ。マジで何で世の学生が放課後にチマチマダンジョン攻略してんのか俺は解んない。アレ死ぬほど効率悪いでしょ」


:全否定pt2

:それしかできないからだろ?

:じゃあ何、借金しろって話?


「せやな、借金も一つの手だな。ぶっちゃけ初級下級で得られる経験って記憶転写によっても100万もしないレベルのお値段だから、記憶の転写でそこら辺ふっ飛ばしつつ下級の上から中級の下ぐらいで活動できるの投資を体にぶち込んだ方が早いし後々楽になると思うよ」


 コツコツ積み重ねれば強くなれるという考えは幻想だ。問題の9割は金で解決できる。


「基礎をインプリントで済ませて問題ある? って言われたらまあ、細かい動きに差異とか出てくるのはそうなんだけど、それだって1か月ぐらいみっちりと運動を繰り返して体の調整を行えば解決する問題だしな。態々年単位で初級と下級を駆けずり回るよりさっさと1000万から2000万ぐらい体と装備に投資して飛ばしたほうが良いよ」


:出てくる数字が馬鹿の数字なんだわ

:学生にそんなお金用意出来ると思う……?

鉄人:今は探索者向けローンが500万ぐらいから組めますね

偉い人;学生向けローン、アルヨ

闇金:なんや、金が欲しいんか? ん?

:頼むから帰ってくれ


「そう、なんだ」


「努力って概念そのものが今は金にできる時代だからな。時間でさえ金で購入できるようになってるし。そうなってくると何を、どうやって購入してくるかが大事になってくるし、そうやって金の力で買った時間をどう活用するか……ってのも大事になってくる」


 ここら辺はまた別途努力を要求してくる所でもある。


「これは俺のカスみたいな人間性を持つ母さんの言葉なんだが、“人の強さは努力の上でどれだけ積み重ねられるかで決まる”って言ってるんだよね。強さに限らず何事も上達を目指すなら努力をする事は大前提で、その上で何を積み重ねらえるかでその人間の価値は決まる」


「……」


「人間性、金、時間、友情、将来、過去、才能、関係性、夢、命。どれだけ努力の上に積み重ねるのか、その重みがその人の価値を作る。努力をするだけなら誰だって出来る。誰だって出来るから他人には出来ない事を積み重ねるしかない。才能と金はその1つでしかない。どこまで捨てられる? どこまで選べる? 強さが欲しいならそれを考えないとね」


鉄人:暴君らしい言葉ですね

魔法少女:アイツ努力の上に積み重ねてるの無限の狂気でしょ

最強:正直同情する

:一般人ワイ、話についていけない

:努力するのも大変だと思うけどなあ


「努力の上にどれだけ積み重ねらえるか……」


 片腕で掴んでへし折った姿を窓の外へと投げ捨てる。人の気配もだいぶ減ったなあ、と思いながら虚空を蹴って上の階へ、天井を蹴り抜いて更に跳躍して上へと向かう。下へと視線を向ければ開いた穴からエントランスが見える。これで屋上までぶち抜いたら気持ち良いんだろうなあ、なんて感想が出てくる。


『兄貴、だいぶストレス溜まってた? まあ、溜まるか』


 ここ数日ずっと襲撃を受けるフラストレーションは溜まってた。それを解放してるのだからまあ、暴力的にもなるだろう。


 そうやって天井をぶち抜いてると、JP社でアプリを開発している階まで天井をぶち抜いて到着する。よ、と声を零しながら着地すると、周囲から僅かながら剣呑な気配を感じる。


「1……2……3……4、ほほう、結構やる感じの気配だな。JP社のエース部隊だと見た。イイね」


 天使を迎えに行く前に、もう1戦開始する。

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