【緊急】社会見学【配信】

:待機

:待機

:サキちゃんにしては珍しい時間

:待機ー


「……繋がったわよ」


「お、マジで? 本当だ。コメント流れてるじゃーん」


:!?

;え、誰?

:なんで男なんかと居るの?

:お、炎上かな

:は? 今すぐ消えろ

:え、待って、横に居るのアレじゃん


「……その本当にやるの? やるのね?」


「やるやる。というかザキさんも来て大丈夫? 俺欲しいの君のチャンネルだけで本体は別に不要なんだけど」


「……強さというのはどういう事なのか、この目で見たいから最後まで付いていくわ。それと私はサキよ」


「成程ね。俺は正直変えるべきだと思うけどザキさんは俺の命の恩人だしね。社会見学したいってならまあ、止めないよ。それに足手まといが1人いても余裕よ。今の俺軽く無敵だし。戦えない雑魚が居てもモーマンタイよ、マジで」


:あの、SNSで死体が上がってた人がいるんですけど

:消えろ消えろ消えろ消えろ

:草。マジで生きてる

:というか今チャンネルジャックするって言ってない?


「という訳でやあ」


:やあ

:やあ

:消えろ

:男が出て来るな

魔法少女:マジ蘇生してるじゃん

鉄人:どうせ死ぬわけがないと思ってました

:男を求めてないんだよ


「残念だったなあ……ザキさんじゃなくて俺だよ」


:帰ってくれ

:頼むから帰ってくれ(切実

:ここ数日地獄みたいな話の中心が出て来るな

戦士:残当の扱い

:今日の地獄始まるよー


「俺個人でチャンネル持ってないしね。折角記念すべき日だからなんとか世間様にね、このひと時を共有したいと思ったんだけどね。俺、配信とかようわからんし、機材とかも何も持ってないし。他人のチャンネル使った方が早いんだよね。という訳で俺を蘇生してくれたザキさんのチャンネルをジャックする事にしたよ」


「サキよ」


:カスがこの野郎

:1から10までクソボケで笑う

:恩を仇で返すな

企業人:流石ですねぇ……

:今なんて?

魔法少女:おもろ


「という訳で―――俺達は現在天使ちゃんを俺から拉致ったJPアプリケーションズ本社の前まで来てまぁす!」


 左手に握った灰色の大斧を肩に担ぎながら後ろに聳えるJPアプリケーションズの本社ビルを指差す。流石に配信を始めると異常に気付いたJP社お抱えの特殊部隊が戦闘の為に動き出すので、右手に灰槌を取り出し、こんこんと斧を叩く。


 斧に重力の帯が纏わり付く。それを上へと投げ、回転して落ちてきた所を掴みながら大地にたたきつければ、振るった方向に居た全ての者がじわれに飲み込まれ、圧縮して消えた。


「良いか、この配信を見てる全国の紳士淑女諸君。俺は別にキレてない。キレてないが、これは宣戦布告だ。俺から? 違う、連中からだ。連中は名乗って俺に特級送り込んで天使を奪ってったんだ。俺に喧嘩売ってそれで済むと思ってるんだ」


 武器を投げ捨ててストレージに戻し、首を掻っ切るジェスチャーを取る。


「今日、ここで、この日に。日本という国の柱として存在し続けてきたJPアプリケーションズという企業は折れる。それだけだ」


魔法少女:ぶちギレてるじゃん

:正気か?

戦士:盛り上がって来たな

売国奴:祭りじゃん

:うお、先発部隊が跡形もなく消え去った

:ちゃ、チャンネルを返してあげて(震え声

ユウキ:俺のチャンネルにしか映らないと思ったのに……!


「いえーい、ユウキ見てるー? お前が近くにいないから俺、ザキさんに浮気しちゃったよぉ」


「サキよ。後日返すわね、この制御不能の自走式核地雷」


:草

:本質をよう解ってる

ユウキ:うす

:はよ引き取ってくれ

:勝手に企業への攻撃始めてるぞアイツ


 会話はそこそこ、灰弩を取り出してとりあえず適当に本社へと向かってぶち込む。バリアが展開されて攻撃を吸収しようとするが、こっちは対レイドボス向けの決戦武器を持ち出しているのだ、エネルギーで構築されているバリア等当然のように消滅させながら貫通し、入口を消し飛ばす。


「入り口も御開帳―――!」


:バチクソにキレてらっしゃる

:吹き飛ばす姿がうっきうっきですよこれは

:被害が洒落になってない……

:これは犯罪では?

鉄人:今の時代、国がこれを止められるとでも?

企業人:法は企業が受け持つ。イイ時代になりました


「……本当にやっちゃうのね」


「ザキさん、あんま離れないでねー。流れ弾飛んで来ても知らんから」


「解ってるわ」


 本社の崩壊したメインエントランスへと向かおうとすると、空に電子空間を通して攻撃が組み上げられる。電脳上に構築されたワイヤーフレームがそのまま現実化したと思うと、それは星となって降り注いでくる。


「JP社の攻撃用アプリ“コメット”か。アリス」


『ういうい、もう干渉してる』


 ジッジッ、とノイズが走ると出力途中だったアプリが解体される。完成されればそれこそ人間一人ミンチにするには容易い火力が出たのだろうが、電脳を通して発動するアプリである事が災いしている。


 こと、電子という領域に関して我が妹を超える怪物は地上にいないと思う。俺がメタ特化であるなら、妹はサポート・テクノロジー特化、進歩する現代の科学力を理解し、そして運用する事に長けたパーティーのサポート要員だ。そういう風に母が調整し、産んだ。


 だからこの程度、呼吸するように解体する。


『前々から企業のセキュリティってどんなもんなのか興味あったんだよねぇ……丁度良い機会だし、全部割ってみよっかな』


「おぉ、やれやれ。敵に容赦する必要なんて欠片もないからな」


 灰弩を担ぎながら歩いて本社前まで行く。上階から窓を割って義体型の保安員が飛び出してくる。対人においては無類の強さを誇る銃器を構えると、警告する事もなく攻撃しようとして―――その動きが停止する。


『はい、雑魚セキュリティ。電子脳のファイアーウォールもうちょっと強化した方が良いと思うよ? 割るのに1秒もかからないじゃんこんなの』


「か、体が動かない!? ま、待て! 勝手に体を動かさないでくれ! うわぁぁぁあああ―――!!!」


 エントランスまでの道を譲るように左右に別れた保安員は互いに銃を向け合うと互いの体を穴だらけにするように引き金を引いた。左右で同士討ちを行っている間を邪魔冴える事もなく進み、入口を抜ける。


 エントランスロビーでは一般社員が恐怖の表情で此方を見ているので、外を指差す。


「邪魔しないなら何もしないよ。あと転職先を今から探しておくことをお勧めする」


 全力で頷いた社員たちが悲鳴を口にしながらビルの外へと飛び出して行く。その姿を追いかける事もなく灰弩を横に、上に、そして前へと射撃する。アリスから送られてくるデータに、敵の姿がステルス状態を貫通して表示される。


 灰弩から吐き出される消滅弾に飲み込まれて、跡形もなく姿が消し飛びエントランスロビーが穴だらけになってくる。それを阻止する為に精鋭部隊が上の階へと通じる穴から飛び降りてくる。それを見ながら武器を双剣に切り替える。


「派手にやってくれたな灰色の嵐! これだけやって無事で済むと思ってるのか!?」


「先に仕掛けてきたのはお前らだろう? 馬鹿な事を言うなよ……殴られたら殴り返す、当然の話だ。滅茶苦茶にされる覚悟がないなら最初から襲い掛かってくるなよ、弱いものいじめになるだろ……!」


:言ってる事滅茶苦茶だよぉ……

:ガチもんのテロリストだぁ……

:うお、笑顔が怖っ

:サキちゃん登録者1万人達成おめでとう!!


「私、欠片も嬉しくないんだけど……」


「はっ、諦めろ―――お前らはもうおしまいだ」


 空間を裂いて飛び込む。一瞬で背後に回り込み、斬撃を振り抜きながら体を捻り、捻りつつ足で槍を蹴り出す。1人を両断しながら灰弩に切り替えて射撃、3人纏めて飲み込みながら接近する弾丸をナイフで切り払い、指の動きで剣を召喚して投げ飛ばす。


 そのまま体を滑らせるように回転しながらデスサイスを一閃、最後に蹴り飛ばしながら刀で斬撃を飛ばし、槍を蹴って跳ね上げさせて相手の斬撃をパリィ、戻ってくるデスサイスの動きで処理しながら大剣を踏み込みながら振り下ろし真っ二つに。


「重・斧・壊・技―――」


 斧と槌の組み合わせをもう1度取り出し、合わせ、纏う。距離が少し開いたのでサキを回収するように横に一瞬で飛び込みつつ、武器の柄を引っかけて姿を持ち上げ、回転するように助走を付けてから上へと思いっきり投げる。


 天井に開いた穴から4階ぐらいまで飛び出すのを見送りつつ、


「グラムレイド」


 エントランスに重力の波を叩き込んだ。拮抗なんてものはない。灰斧に刻まれた術式は抗力無視。斧によって殴られたもの、或いは斧に付与されたものは抵抗を無視してその破壊力を示す。エントランスに集った全ての有象無象を塵に返し、破壊の痕跡だけを残す。


 落ちてきたサキをお姫様抱っこでキャッチする。


「感想は?」


「全く参考にならないって事かしら……」


:それはそう

:草

:そいつ参考にしない方が良いと思うよ……

:人類卒業組

:いや、あの状態から蘇生してるならそら人類卒業してるわ

:装備もスペックも違いすぎる

:警察とかマジで止めないんだな……

:企業直属の部隊が足止めにすらなってねぇ……


「20階がサーバー室、30階から35階までが研究室、50階が社長室らしいから順番に破壊するのが本日のスケジュールだぞー」


「殺意しか感じないスケジュールね」


 やる時は徹底的に。それが灰谷家の唯一の家訓。


 という訳で滅ぼすよ、JPアプリケーションズ社。生まれてきたことを後悔しろよこの野郎。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る