少しずつ崩れる日常
「んっ……寝てたか……」
感じる温もりん五何時の間にか布団を欠片ている事に気づいた……ユイか? いや、でもユイは確か家に帰っているはずだ。彼女の部屋は一応ウチにもあるのだが、お隣さんなので基本夜になったら自分の家に帰る。と言ってもほぼずっとウチにいるのだが。
主に引きこもり妹の世話の為に。となると我が家でこんな気遣いが出来る生き物なんて1つしか存在しない。
「アルバート卿、風邪をひかないように布団被せてくれてありがとうね」
この布団の中に感じるぬくもりはきっとアルバート卿のものだろう。もしや今日は1匹で寝るのが寂しかったのか? 被っている布団を軽く持ち上げると中目を瞑って眠っている姿が見えた。
長く白い髪に色素の薄い肌、整った顔立ちが静かに寝息を立てている。最近よく見る様になった顔だ。ちゃんと自分の部屋を与えた筈なのに何で同じベッドの中で眠っているのだろうかこの娘は? 寝起きの脳味噌が布団に入って来たの? 可愛いね、って言いかけている。
少しだけ布団をめくると全裸だったのを見て直ぐに脳味噌が覚醒した。
一瞬で布団を下ろして姿を隠す。一瞬見えた者を脳味噌のフォルダの中で保存隔離しておきつつ、なんとか感情をコントロールする。もう1度持ち上げてホロウィンドウで撮影しとくか……? いや、それはログに残るし一生妹にネタにされて殺されるな。止めておこう。
「ふぅ―――……」
息を吐いているとすぽ、と布団の中に丸まって眠っていた姿が頭だけ出してきた。まだ眠そうな表情を浮かべながらも、此方を見かけるとにへら、と笑みを浮かべた。
「おはよう灰色さん……」
「お、おはよう天使ちゃん……良く眠れた?」
「うん……灰色さんの匂いがいっぱいして安心できた」
そう言うと布団の中をもぞもぞと動いて近寄ってくる。逃げる様に自分も布団の中をもぞもぞと動いて反対側へと動くが、追いかける様に天使が近寄って……ぴったりと体に引っ付く。壁際のベッドな影響でもう逃げ場はない。壁を背に、正面を天使にサンドイッチされる。うお、天国と無っ!
いや、脳内をネタに走らせて現実逃避している場合じゃない。ふぅ、と息を吐いて天使の肩を掴む。
「天使ちゃん、何で俺の布団に入ってきたんだい?」
「……?」
どうしてそんな事を聞くのか、なんて心底不思議そうな浮かべられると俺が間違っているのかと思ってしまう。いや、もしかして俺が本当に間違えているのかもしれない。だってよく見ろよ、体は出来上がってても中身は幼女だぞ? パパとしてちゃんと添い寝するべきでは……!?
「そんな訳ないだろ。オラ! ベッドから出ろ! 俺のベッドだ!」
モザイク用ホロウィンドウを呼び出してシュッシュと投げ飛ばしながらベッドから天使を追い出す。
「えー、やだー!」
「やだとか駄目でーす。日頃から妹の下着姿見慣れてるから耐性はあるんだよ……!」
蹴り出した所でホロウィンドウできわどい所を隠しつつベッドに戻って来ようとする姿を自分もベッドから降りる事で回避し、そのまま部屋の外へと飛び出す。
「ユイ! ユイ―――! もう来てる!? ウチに来てる!? ユイ―――! 助けてユイ―――! ユイ―――!!」
後ろから絡みつく様に抱き着いてくる中身幼女天使を全力で無視しながら頼りになる幼馴染の事を全力で呼ぶ。許してくれ、俺はこういう時無力なんだ……!
『ウケる』
「俺は何も面白くないが??」
「天使ちゃんは慎みを少しはもたないと駄目よー?」
「んー?」
幸いユイは既に居た。昨日の今日で早めに家に来てくれてるのは助かる事だった。ユイに天使を預ければ何時も通りの朝がやってくる……いや、全く持って何時も通りという訳ではないのだが。それでも朝にコーヒーを飲んで、朝食を食べる事の出来る穏やかな時間があるのは良い事だ。
空いたお腹の中に朝食を流し込めば眠気と疲労で鈍っていた脳味噌に力が戻ってくる。眠れなくても戦える体だとはいえ、やっぱり休息を入れた方が頭は回る。こうやって穏やかな日常がやってくると心の大事なものが回復するのが解る。
寝起きサプライズは止めて欲しいけど。
『これはしばらく兄貴のベッドに潜り込んでくるんじゃない?』
「そのうち慣れそうでやだなぁ……」
慣れたくないなあ、と呟きむしゃむしゃとトーストを飲み込む。サラダ、スープ、トースト、ジャム、バター、オムレツ。朝からこれだけ豪勢な朝食を食べられるのは中々恵まれていると思えるのはユイがいない場合の朝を知っているからだ。
我らクソザコ兄妹、朝ごはんはコーンフレークで済ませがち。
「シュウ君、今日は学校は?」
「校長先生からメッセ来てたよ。“其方の事情は把握しているので、学校に来る事は考えないように”、って。まあ、この状況で学校に向かう様な事があればそれこそ学校が戦場になりかねないから間違ってはいないんだけど」
でも誰だって1度は学校がテロリストに選挙されて、それを取り返す事を妄想した事はある筈だ。あれは男の子であればだれもが1度は通る道……とはいえ、現実でエンカウントしたいか? と言われると無言で首を横に振る。まあ、テロリストなんて誰もリアルでエンカウントしたくないわな。
迷宮教とか……怪物信仰とか……イモータル求道会とか……テロリストもダンジョンで強くなってるからほんと困った世の中だ。
今の時代、金さえあれば誰だって強くなる事が出来る。それは一般人だってそうだし、テロリストだってそうだ。本当に、物騒な世の中になったもんだ。
「あぁ、本当に物騒な世の中になったもんだ……」
ごくり、と最後の一口を喉に流し込んで朝食が終わる。背筋を伸ばして体を解す。昨日は昨日で大変だったが、今日は昨日よりも大変な1日になりそうな気がする。座っていた椅子から立ち上がり、食べ終わった皿をキッチンへと運ぶ。なお、天使は未だに山盛りパンケーキを食べるのに夢中になっている。
「ん、ありがとう」
「此方こそ何時も家事やらなにやらありがとうな」
「ふふ、好きでやってるから気にしなくて良いよ」
エプロン姿でキッチンに立つ幼馴染にビシっと指差す。
「お嫁さん力プラス10ポインツっっ!!」
『惚気か?』
洗い場に食器や皿を置いて軽く手を洗ったらその足で玄関の方へと向かう。ダイニングを出た所でパンケーキを口に咥えた天使がんっ、と声を零しながら立ちあがろうとするのを片手で制する。
「ちょっと朝のジョギングしてくるだけだから、大人しく朝飯食ってろ。ほら、ユイが追加のパンケーキを焼いてくれてるぞ」
「む、パンケーキ……」
視線がキッチンの方へと向かったのを見て素早く玄関へと向かい、ブーツに足を通して家を出る。
朝の陽ざしを体にいっぱい浴びて背筋を伸ばすと、犬小屋からアルバート卿が顔を出す。欠伸を零しながら軽く体を伸ばすアルバート卿の姿を愛でたら軽く手を振って、門を抜けて家の前へ。さぁ、てと声を零し指を鳴らす。
「1……5……監視してるのは7人か。気配はそこそこあるな、隠す気はなさそうだな。って事は傭兵系の人達かな、これ」
背筋を伸ばし、屈伸、足を軽く動かしてから体の調子を確かめる―――うん、良く眠って美味い飯を食ったから体の調子はすこぶる快調だ。やっぱりアイのある手料理食ってると体から出てくるパワーが違う。冷凍食品なんかでは絶対に補充出来ないエネルギーで満ちている気がする。
「お、気づいてる事に感づいたな。結構の手練れか。この感じだと……大体上級相当か? まあ、どっちにしろ仕掛けてくる気配があるっつーなら……朝の運動にちょっと付き合ってもらうとしようかな」
ストレージから灰色のコートを取り出し袖を通す。とんとん、と軽く地面を蹴ってジャンプ。体を軽く調律して準備完了。
「じゃあ
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