3-20 帰還

「……ここは?」


 目を覚ますとフカフカのベッドの上に居た。

 私が目を覚ましたことを聞きエスタとベル、ルーチェンス公が部屋にやって来た。皆の顔を見れて安心した起き上がって話をしようとするが体が重く動かない為起き上がれない……申し訳なさが一気にこみ上げる。


「ご迷惑をおかけしました。みんな無事ですか?」


 ノクトに捕まった挙句、人質になってしまいみんなを振り回してしまった。私の心情を察してかエスタが明るい口調で答えた。


「ああ、皆無事だ。一番のけが人はマヤだな。」

「本当に申し訳ない……ベル様無事で良かった……あの陛下は?」


 この部屋にはニグルム陛下が居なかった、私を庇って刺された彼は大丈夫だったのか不安だった。


「兄貴も無事だ。マヤの保護を聞いてすぐに王宮に帰って行ったがな。」


 それを聞いて安堵した。良かった。小隊のメンバーもかける事なく無事だったらしい。本当に良かった。エスタの首筋にガーゼが貼られていた。


「エスタ殿下も無事ですか? 吸血鬼に咬まれたんじゃ……」

「知っていたのか。マヤ程じゃない。今日俺達はここで休ませてもらって明日帰る事に成る。」


「今日だけとは言わずゆっくり休んでください。マヤ殿、娘を身を挺して守ってくださってありがとうございました。どうお礼をしたらいいか……。」


 ルーチェンス公が私に向かって頭を下げて礼を言った。


「そんな……ルーチェンス公爵、私こそベル様に助けていただきました。ベル様のお陰で活路が開けました。」


 本当にそうだ。あの時ベル様がノクトの気を逸らしてくれなければ私はもっとひどい目に遭っていただろう。

 するとノックが聞こえた。ベルが扉を開けるとそこには真っ白なエルフの少女が居た。


「ニクスさん!」

「お邪魔する。ポーションを持ってきたぞ。」


 そう言いながら彼女は鞄からポーションを取り出し一人一人に配って歩いた。

 そしてエスタの隣に椅子を持ってきて座り私にもポーションを差し出した。


「うむ……領主殿も大変だったな。一番いい奴を飲め。」

「ありがとう……」


 彼女は私に小瓶を渡すと乾杯と言わんばかりに小瓶をぶつけ飲みだした。起き上がれない私を気遣ってベルが、吸い飲みにポーションを入れて飲ませてくれた。ベル様……ありがとうございます。ポーションに気を取られていたが、彼女にも言う事が有る。


「ニクスさんもこの度はありがとうございました。あの杖のお陰で助かりました。」


 ぷはーとポーションを一気飲みした彼女はそれを聞くと鼻を膨らませて得意げに話す。


「私が作っている途中の品だったが、なかなかだろう?領主殿から杖を借りたおかげで私は逃げられたからそのお礼だ。うちの村では助けられた礼は倍返ししろと言われている。」


 倍返し!言い方が怖いが……小さい杖が大きくなって帰ってきた。

 彼女は話しを続ける。


「だが……その杖だが一度返してもらおう。急いでこしらえたから調整したい。あれを完成品として渡したら親方に怒られてしまう。」

「あれで完成品じゃなかったのですか? すごい綺麗だったからもう完成品だと思っていました……」


 彼女は嬉しそうに耳をぴくぴくと動かす。感情と耳が連動して可愛い。


「……まあね。あとこの小さいのも借りる。こいつの履歴をサルベージしながらじゃないと調整が難しい。領主殿は特殊な体質のせいかうちの工房の杖をそのまま使っても威力が増さない。逆に杖の破損や暴発につながる。」


 それを聞いてエスタが納得する。


「ああ、だからマヤは村長に持ち主のいない杖を使う事を止められたのか。」

「そうだ、人間向けに作られたかものだからな。半妖精向けではない。領主殿のこの小さい杖も威力を逃してしまっていて、あなたの本来の実力を発揮しきれていなかった。杖も領主殿もよく耐えたよ。」


 なるほど……そんなことが。村長さん辛辣な訳じゃなかったんだ。


「じゃあ、私は早速戻って作業するか……杖は後日王宮に届ける。お大事に。

 ……あ、セイレーンもご苦労様。歌えたじゃない。オルゴールはしばらく貸すからまた聞かせてよ。じゃ、お疲れ様。」


 そう言って彼女は自分の身長より大きな杖を担いで出て行ってしまった。

「それでは私たちも行こう」と言ってルーチェンス公爵とベルも部屋を出て行った。

 部屋には私とエスタ、二人きりとなった。


「エスタ本当にありがとう……指輪にも助けられちゃった。」

「やっぱり、指輪が発動したか。……無茶しすぎだ。」


 右手の指輪を彼が抜き取る。夕日のように輝いていた石はくすみ光を失っていた。

 彼が魔力を込めると少しばかり煌めきを取り戻す。


「魔力が枯渇すると反応して魔力をチャージするように作られてる。一度使うと石に魔力が貯まるまで一週間は機能しないから、十分にきをつけろよ。」


 そんな機能が有ったんだ。少しだけ魔力を込めた指輪を私に嵌めようと彼は私の左手を取る。


「マヤ、こんな所で言う事じゃないとは分かっているが……」


 彼は私の左手の薬指指輪を嵌めて手を取って跪いた。


「俺とこの世界で一緒に生きて欲しい。もうマヤを手放したくない、結婚しよう。」


 プロポーズだ……

 彼の傍にずっと居てもいいんだ。


「うん!喜んで!!こんな私だけどよろしくお願いします。」

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