3-21 夢の続き
翌日城に戻ると私とエスタは王宮の魔術医や医師から検診を受けた。
私の体はボロボロだ。拘束を受けたまま暴れたせいで手首には痛々しい跡が残っている。そして首筋も吸血された跡がありすぐには消えてくれなかった。こんなに
ボロボロになるのは王宮立てこもり事件以来だ。
私が診察が終わった後、エスタも診察が終わり廊下で出くわした。
「エスタ、大丈夫でした?」
「ああ、傷もすぐ治ったし毒の影響もない。マヤは痛々しいな?守ってやれなくてすまなかった。」
彼は私の首や手首に巻かれた包帯を申し訳なさそうに見て謝罪した。
「ちゃんと助けに来てくれたじゃないですか? 嬉しかったです。」
彼は優しく首の包帯に触れる。昨日のプロポーズを思い出し耳が熱くなるのが分かる。エスタも顔を近づけて来るが……
「ちょっとお二人さん。いい雰囲気の所悪いけどこの後ニグルム陛下の所来れる?」
シャルが申し訳なさそうに話しかけてきた。
私達はさっと距離を取り彼に了解した旨を伝えた。
◇ ◇ ◇
「二人ともお疲れ様。席についてくれ。」
私とエスタはニグルム陛下の執務室に呼ばれて三人で話すことになった。
「二人とも今回はご苦労だった。無事ベル嬢も保護されて、吸血鬼二名も捕まえて引き渡すことが出来た。人魚の村とエルフの村からも問題を解決してくれたことに感謝の連絡が届いている。よくやった。二人とも怪我は?」
「俺もマヤも軽症だ。傷が治れば問題ない。」
「そうか、マヤには大変な目にあわせてしまったね……」
私もまさか自分がこんな狙われ方をするとは思ってもみなかった。でもこれは誰にも予測できなかった事態だ。
「いえ、そんな……私こそ陛下のお陰で助かりました。シールバ邸ではありがとうございました。あのその件でご相談が……」
「対価の支払いかい?」
「はい、命を懸けて救っていただいたので。」
私と陛下の間で結ばれている召喚契約、この契約の報酬の支払いを今まで先延ばしにしてもらっていたが今回は、命を懸けて彼は私を守ってくれた。なので長く続いたこの契約を終らせようと思う。
「君が望むなら仕方ない……」
ニグルム陛下は契約書を取り出した。突如何もない虚空から現れたそれを机の上にそっと置く。この世界に来て約半年、やっと区切りだ。
私は以前真夜の君が対価の回収を行ったように、宣言する。
「【対価回収の確認を致します。陛下はベル様救出時に命を懸けて私に身を挺してくださりました。よってこれを対価とします。確認は終わり契約の終了を宣言いたします】……陛下よろしいでしょうか?」
「【異議なし。契約の終了を宣言する。】」
陛下の確認終了と共に右角の装具が机の上にカタンと落ちて黒く霧散する。そして彼の右小指に嵌っていた指輪も煙のように消えて行った。
全てが終った。
「ニグルム陛下……」
私は初めて彼の名前を口にした。契約の関係上言葉にできなかった彼の名前をやっと呼ぶことが出来た。
「ありがとうございます! やっとお名前が言えました。」
「名前を呼んで貰えて嬉しいよ。マヤ、今までありがとう。少し寂しい気もするが。」
「この世界から消える訳じゃない、それに……マヤは
「
エスタは姿勢を正して改まる。私も彼に倣って姿勢をただしニグルム陛下を見つめた。
「ニグルム陛下にご報告が有ります。この度マヤに求婚して承諾の返事を頂きました。陛下には婚約の許しを頂きたい。」
彼は突然の事に驚いて私達をきょろきょろと見るが……優しく笑って言葉をくれた。
「二人ともおめでとう。兄としても王としてもとても嬉しいよ。エスタ、マヤを頼んだよ。前回みたいに僕の妹を泣かせたら許さないからね。」
「わかっている。こちらこそ危ない仕事に首を突っ込ませるなよ。」
「ああ。さて、僕も前に進まなくてはね。マヤ、エスタのこと頼んだ。」
私達は晴れて無事婚約することになった。
◇ ◇ ◇
久々に二人して魔法屋に戻って来れた。1週間ほどは王宮の務めは無し。
ニグルム陛下との契約も無事終えて肩の荷が下りた。
子ミミックを店舗の水槽に戻し、私も休もうと部屋に戻った。
今週は色々あったなぁ……などと考えながら眠りに就くとやはり妖精の姿になってしまう。
―――ガタン!
エスタの部屋で派手な物音がした。大丈夫かな?少し様子を見に行こう。
私は壁を通って彼の部屋を覗くと。机に脚をぶつけたらしく蹲っていた。
「大丈夫?」
「ああ、大きな音を立ててすまなかった。丁度いい、催眠をかけてもらいたい。……あと、マヤさえ良ければ一緒に夢の続きを」
そう言って彼は気恥ずかしそうに手を差し伸べた。
夢の続きって……!
(……じれったいのう。いろいろ有って心細かったんじゃろ? 今日ぐらい甘えても許されるだろう。わたしは眠いから寝る! じゃあの。)
え! 待ってよ……真夜の君が眠ってしまった。呼びかけても返事が無いので二、三日は起きてこないだろう。
自分でも頬が赤くなっているのが分かる。私は彼の手に重ねるように手を置いた。
「私も頑張ったので夢の中で褒めてくださいね?」
「もちろんだ。沢山甘えさせてやる」
優しい笑顔でそんなことを言われると、恥ずかしい。耳まで熱くなるのを感じた。恥ずかしいのを誤魔化すように彼に話しかける。
「じ、じゃあ! 催眠かけるので準備してください!」
「ああ。よろしく頼む」
「じゃあかけますよ?【おやすみなさい】」
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