3-18 執着

 体中の痛さで目を覚ました。角がほのかにあったかい……


 瞼を開けたけど視界が真っ暗だ。また目隠しされてる?腕を動かそうとしてもまた拘束されてる。そして横向きに眠る私の眼の前に何か居る。


 私は「またか……」とため息を吐いた。私のため息に気付いてノクトが話しかけてきた。


「やぁ、起きたかい? 良かった。凍死しちゃったかと思った。」


 しつこいなぁ……。もう話す気力も湧かず言葉が出なかった。


「…………。」

「君、なかなかズルいよね。肌に触れただけで生気を吸収するんだもん。温めてるうちに回復しちゃうとか反則だよ。枯渇した君に僕を求めてもらおうと思っていたのに、計画が狂っちゃった。」


 彼は私の頭を撫でながら無邪気に笑い答える。ふと、彼の一言に違和感を持った。


 温めた……?


「これってどういう……」

「君が凍死しそうだったから温めたんだよ。顔色も戻ってきたからじゃあ始めようか?」


「始めるとは?……」

「君初めてじゃないでしょ?」


 話しが噛み合ってないっ! 分かるしそうだけど! あなたとは嫌だ!!!

 私は仰向けに転がされて彼は私の上に馬乗りに座ってきた。


 ひぃっ! ピンチなんですけど……


 私は必死にぶんぶんと頭を振るとじゃらじゃらと角の辺り鎖の音が聞こえた。

 絆が顕現している?……


 彼も気づいたらしく私の右角の装具に触った。

 うっ! 角は敏感だから触らないで欲しい!!!


「さっきから……君の角から鎖がちらちら見えるんだけど……これ何? 僕以外に縛られてるとか気にいらないから外すよ?」


 彼が言い放つと角に力が籠められる。装具を外そうとしている!私は過去の出来事が頭を過った……


「えっ!……それは……」


 「触らない方がいい」と言おうとしたが……遅かったみたいだ。

 角の装具から何かもぞもぞと出た感覚が有る……これも、こそばゆいから止めて欲しい!!

 そしてさっきまで私の上に感じていた重みが消えた。


 私は手で目隠しをずらして、状況を確認する

 彼はベッドから落ちてうめき声をあげていた。


 彼は契約の類……『異世界の理』に吹っ飛ばされたんだと思う。昔私が契約書に首を絞められたみたいに。


 私はすぐさま手枷てかせのロープを焼き切った。


 この場所は魔法を妨害する魔法陣が組まれていなかった。

 呻く彼を眠らせようと彼の顔を覗き込み催眠を掛けようとするが突き飛ばされ逆にマウントを取られてしまう。出会った時より動きが早い。


「次、目を開けたらわかっているよね?」


 凄味の有る声で言われてしまった。これは本気だ。

 彼はまた私の首筋に噛みつき吸血する。

 三分程でそれは終わり彼は静かに耳元で問いかけてくる。


「君は何者? この世の理以外のモノが干渉している。まさか……」


 話している時に窓ガラスが割れる音がした。

 冷たい外気が流れ込んでくると同時に私の上に有った重みが消えた。


「大丈夫か?」


 誰が抱きかかえて問いかけてくれている

 私はそっと目を開けるとそこにはエスタが居た。

 彼に会うのは何日振りだろう……一番会いたかった……すぐに言葉が出てこず私は首を縦に振った。


「これを着ろ。」


 彼は着ていた白いローブを脱いで私に掛ける。彼は私の無事を確認するとノクトに向かい歩み出した。


「よくもマヤをもてあそんでくれたな……代償は高いぞ。」

「君は彼女の何? その目の色はフロリーテの家の者か。あはっ! 兄弟して彼女を……」


 ノクトは言葉話しきる前にエスタに殴り飛ばされた。素手……


「貴様は絶対に許さん。」


 今までに聞いたことの無い低い声で怒っていた。


「お~怖い怖い。でもこちらも本気なんでね。」


 ノクトが纏う空気が変わった。


「彼女の血のお陰で目覚めの食事は済んだ。君一人で来たのが間違いだったね。」

「一人じゃねぇよ。」


 その言葉を皮切りに、部屋に次々と小隊のメンバーが突入して彼を取り囲んだ

 ノクトは視線だけを動かして状況を把握している。さすがにこの状況では……


 「君ら僕を過少評価しすぎだよ。目覚めに飲んだ妖精の血は最高だった。」


 ノクトの手足がビキビキと音を立てて変形する。黒い装甲でも纏うように鋭い爪が生え筋肉が盛り上がる。彼はにやりと笑うとくるりと身を翻すと同時に室内に無数の斬撃が走った。それぞれ防御するので精一杯だった。私も出来る限りの力で防御をするが強い……


 室内はボロボロになり皆、傷を負っていた。目覚めた吸血鬼がこんなに強いなんて……


 「次はお兄ちゃんとでもいっしょにおいで。まぁそんな機会も無いか。僕は君たちより執念深い。そんなに大切なら手を離さなければいいだろ。彼女の血を飲んで大分動けるようになった。準備体操は終わりだ。これなら結界ぐらい破れるさ。さぁお別れは済んだね。行こうか?」


 翼を動かす力も無い私は黒い獣の様な大きな腕に掴まり小脇に抱えられ明けの空へと連れて行かれた。

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