3-16 救出

「見つけた。二人とも無事かい?」

「……その声……あなたは!!」


 何者かに気付いたベルは名前を言おうとするが、彼は微笑み人差し指を自身の唇に当てて秘密の意を伝えた。

 普段降ろしている黒髪はオールバックに整えられ、ゴーグルをつけていた。服装も動きやすくどこかカジュアルだ。私の鎖を辿ってきたのだろう。右角が温かい。


「今日はお忍びなんだ。さあ、二人とも帰ろう。」


 ニグルム陛下だった。


「位置はマヤからも説明されていて分かったけど、ベルが魔法陣を破ってくれて助かった。特技は今も健在だね?さすが、リーリーと競っただけある。」


 彼は私の手かせを外しながらベルを讃えた。リーリと競うって……


「お……恐れ入ります!!リーリ様には足元にも及びません……へい……黒馬の君も異名の通り長距離を移動されてしまうなんて……。」


「恥ずかしいな、体がなまってしまって昔ほどの力は無いよ。さて、取れた。」


 やっと自由になった!


「ありがとうございます!」

「さて、行こうか?ベルは魔法陣破りで疲れたろう?僕が運ぼう。マヤは飛べるかい?」


 わたし達は自分の荷物が入った袋を部屋の端から引きずり出して脱出準備を図る。


「はい!!私は大丈夫です!」


 三人で窓辺で準備をしていた時だった。

 急に背中を抱かれた後に、彼のくぐもった声が聞こえた。


「……イヤ!!!!今魔法を!!!」


 ―――え?


 ベルの顔が青ざめてニグルムに向かい回復魔法を使っている……

 ゆっくりと彼は床に崩れる……


「横取りは戴けないな~!!」


 陛下の左肩付近に赤く傷口が有り血が滴っている。

 ノクトは影から黒い触手を伸ばしておりその一本が赤く染まっていた。彼はその一つをぺろりと舐めて笑っている。刺したの?


「男の血は好かないけど、さすが妖精の系譜って所かな?君は何番目の子かな?サキュバスの夜伽相手?」


「…………。」


 ニグルム陛下は痛みをこらえながら無言で彼を睨む。

 私は咄嗟に陛下とベルの二人に触れて一気にチャージした。

 ベル嬢は消費しているし、陛下に生気を分けて傷の治りを良くさせなくちゃ

 チャージの効果が有ったのか、ベル嬢の魔力の出力が上がる。


 防御に回った瞬間私は足を掴まれて床に倒れ込む。魔法を使って私を掴む触手を斬るが追い付かない。そしてずるずると引きずられノクトの足元にたどり着くと拘束されそのまま彼に捕まってしまった。身をよじって暴れるが、がっちりと体と頭を抑えられて首が露わになる。

 そのまま吸血されてしまった。やっと動けるようになったのにまた!!

 先ほどのチャージで体がぐったりと重い。更に血を吸われたら生気が枯渇してしまう……

 血を吸い終わったノクトは嬉しそうに吸血の跡を舐めて、私の体を這うように触りながらニグルム陛下を挑発する。


「君の夜伽相手は僕がもらうよ。とっても美味しくて気に入った。君と違って寿命でこの子に寂しい思いもさせない。」


「マヤを離せ……。」


 歯を喰い縛りながら睨む彼を見てノクト笑う。

 嫌だと言わんばかりに彼は傷跡をもうひと舐めした。

 ぐったりしながら私の口を使い真夜の君はつぶやいた


「……のう、小僧。あまり調子に乗るでないぞ?寿命寿命五月蠅いのう。その長い寿命が終るぞ。こいつも我慢の限界のようだ。」

「なんだ?お前……」


 不思議そうに彼が顔を近づけた時、私は思いっきり頭を横に打ち付けた。

 角が有るから威力はこちらが上だ。彼は私から離れる


「まだそんな元気有るの?」

「【眠れ!!!!】」


 彼は目を隠して私の催眠から逃れる。触手が私の目を隠す。

 触手が私を拘束する力が強まって、とうとうピクリとも動かせなくなった。


「これ以上手荒な事はしたくないんだよね。くり抜くよ?……もっと血を吸って君から僕を求めるようにするもの一興か。」


 そう言って彼はまた私の首にかぶりついて吸血を始めた……


「本当に活きが良くて困っちゃうよ。こちらの御嬢さんは結界を破るとはね驚いた。さすがに拠点を変えるか。ボードゲーム楽しかったよ。でも次会う時は僕が勝から。じゃあね。」


 そう言って彼は私を抱えたまま窓を破って表へと飛び立った。


「きゃぁ!マヤさん!!」


 彼女の悲鳴が遠くで聞こえた。凍えるように寒い……

 私は気を失った。

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