3-14 遊戯
「いいね、美味しい美味しい。さーて、今日はどっちを食べようかな? 活きの良いサキュバスか若い妖精の末裔か……」
そう耳元で囁きながら舌なめずりをした。少し離れた所からベル様の小さな悲鳴が聞こえた。
これは……私は覚悟を決めて話す。
「私でお願いします」
それを聞いて彼は嬉しそうに顔を近づける。彼の息が頬にかかる。
「食べるってどうゆう事?」
「首筋をがぶりだよ。君の血を頂く。大丈夫、大丈夫。死なない程度に調節するから。でもなぁ……もっと可愛くお願いできない? 可愛い方を食べいなぁ~」
―――は?
可愛くお願い!?
「言ってごらんよ? さぁ。」
その要求に怒りが湧いた。
―――こいつ絶対投げ飛ばす!!
私は怒りを抑えながらも誘う様に彼の耳元で彼の望むセリフを放った。
「……お願い、私を食べて?」
―――屈辱だ。許さん。絶対に許さん。
奴は私のセリフを聞くと楽しそうに笑って首筋にかじりついた。
牙が首筋に食い込む。一瞬の痛みののちに生暖かさを感じた。
―――許さん……絶対殴る……
五分ほど吸われ続け。奴は満足そうに顔を離した。
「いやぁ、起きてから最初の食事にこだわって良かった良かった。人間と違って変わった味がするねぇ、さすが妖精!! 長寿のエルフや不老不死に成れるって言う人魚も気になったけど。とっておきが手に入って良かった。満足満足。」
―――私は不服で一杯だけど!!
少しふらつく頭で、心の中で彼に悪態をついた。
それよりも人魚を襲撃したのもこいつなのか。この兄妹の食事は吸血か……と言う事はエスタも血を吸われたのでは……無事かな?
「さて、満足したし夜はこれからだ。……遊ぼうか? どちらが僕と遊んでくれるかな?」
「遊ぶ?」
「そう、暇だから僕を満足させてよ。方法は何でもいいけどね。」
彼は急に耳元で妖しく囁き出す。
キモッ……この変態吸血鬼め!
「サキュバスの技とやらにもすっごく興味あるんだ。君はどんな夜伽をしているの?僕にもやって見せてよ」
そう言ってまた私の尻尾を弄び始めた。
サキュバスのパーツは敏感だから本当に触らないで欲しい。
「やっ……やめて! あんたが想像する夜伽なんてしていないしっ!! ちょっと! はなしなさ……」
「……あの! 私がお相手します。」
その声と共にノクトの手が止まった。
ベル様?
「え! ベル様ダメですこんな変態!」
変態と聞いていた彼が尻尾をピンと引っ張る。やめろっ!!
「マヤさん……大丈夫です! ここは私に任せてください。」
「うん、いいよ。なにで遊ぼうか?」
「ボードゲームいたしましょう。私負けません。」
「へぇ、知的遊戯か……それも面白い。盤上で君を追い詰めるのも一興だね。」
ボードゲーム!……
私が座っているソファの前にはテーブルが有る。ベルが部屋の中で見つけたのであろう、ボードゲームを持ってきてテーブルの上に丁寧に置いた音が聞こえた。
そして右手前のソファーが軽く軋む。ベル様が席に着いたのだ。
ノクトの手が私から完全に離れた。ベルと向かいで座るには私の左前のソファーに座らなくてはならない。
これはチャンスだ。二人がゲームしている間に妖精化できる。うまくいけば妖精化してノクトを眠らせれば勝機が……
と考えていたら体が浮いた。そしてすぐおろされる。
ベッド? ソファー? 後頭部に変な感覚が有る……何??
「よいしょと……サキュバスちゃんはすぐ逃げるからここに居てね。逃げたら勝とうが負けようがこの子も食べちゃうよ?」
こいつの膝枕かい!
しかも、抜け出すことも見抜かれてた!
(八方ふさがりだな。体に閉じ込められるとこんなデメリットもあるとは……何事も経験よのう。)
(えぇぇ!……そんな悠長な!)
(まぁ、おちつけ、今ベル嬢が時間稼ぎしている。その間に対策を講じようじゃないか。体力も回復せねば)
確かに……
「それではよろしくお願いします」
「ああ、本気で頼むよ」
ゲームが始まった。盤上の駒が移動する音がパチン、パチンと聞こえる。
ノクティスの感嘆が聞こえて来るので、いい勝負になっているのであろう。
時折私が体から逃げ出していないか声を掛けられる。
「サキュバスちゃんもいい子だね」
一時間ほどで、一試合目が終わった。
ある意味辛い、眠りそうになるのを堪えなくてはいけないのだ。
「うん、負けちゃった。君は盤上ではなかなか大胆だね。」
「それはありがとうございます。ではもう一戦お相手お願いいたします。」
「いいね。やろうやろう!」
そう言って彼らは二戦目を始めた。
ベル様の2戦2勝だ。
「楽しかった。いつもあと少しというところで逃げられてしまう。ああ! 盤上で君を負かしたい。でも今日は疲れちゃったからまた明日ね。」
「じゃあ次はサキュバスちゃんだよ? 君だけ何もしないのはズルいだろ? さぁがんばって」
そう言って私の体はまた何処かへ運ばれ降ろされる。
ぼふっと、柔らかい場所に着地した。
その後体の上にずっしりと重みを感じる。ベル嬢の小さな悲鳴が聞こえた。
「見られながらも興奮するよね」
―――――このド変態め……
怒りを抑えながら私は彼に有る提案をした。
「ノクト……サキュバスが見せる夢に興味はありませんか?」
「夢の中でって事?」
「そう。本来サキュバスは夢の中で甘い夢を見せる妖精ですからね。現実はその後に楽しんでもいいでしょ? 時間はいくらでもあります。」
「確かに興味深いね。でも逃げ出すつもりかい? 担保が無いとなぁ……。」
「担保ならもう貴方の下に有るでしょ?」
彼は一瞬だまりその後耳元でくっくっくと笑し出した。
ひゃぁ……
「なんだなんだ……君もその気なんじゃないか? どちらに転んでも君は僕に好きにされたいって事か」
―――そんな訳あるかい。
私は無視して話を進める。
「―――交渉成立でいいですか?」
「ああ、いいだろう。じゃあ甘美な夢を頼むよ」
「では夢の中にご招待するので目隠しを……」
「それはダメだ。君はできるんだろ? さっき妖精になった姿を見たよ? 嘘はいけない」
私はしぶしぶ体から抜けだし。ノクトと対峙する。
「お見通しですか」
「ふふ……サービス上乗せで頼むよ」
「わかりました。存分にご奉仕いたします。では『おやすみなさい』」
ノクトの体が崩れ落ちて私の上に倒れ込んだ。
と同時に私の視界も歪み彼の夢の中へと引きづり込まれる。
―――さぁ、どうしてやろうか。
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