3-11 じょうおうさま
建物の中を進んでいくと、時折通り過ぎる塞がれた窓の隙間からは日の光が差し込む。室内の様子を見せない為にしては逆に悪目立ちしてしまうのではなかろうか?
そんなことを考えていると部屋に案内された。暗い部屋の中に一人の人影が有った。
エルフだ。プラチナブロンドの髪が肩のあたりでクルクルと柔らかく巻いている。そこから特徴的な長い耳が見えた。見た目は10代半ばの女の子だ。
小説や漫画で見るようなエルフそのままのイメージだ。繊細印象を受ける彼女は触れると壊れてしまいそうな儚さを持っていた。彼女の足首は枷が有りそこからは鎖が見える。
彼女は部屋の奥で体育座りをして、青い瞳で静かに私を睨む。彼女はエルフの村から攫われたと云われていた子だろう。アイツらこの子も攫ったのか。
私を見つめ何かを欲しているゴロツキBに指示する。
「この子の拘束を解いて。」
ゴロツキBが困惑している。
私は目を爛々と輝かせにやりと笑って圧をかける。尻尾をバシンと鞭のように壁に打ち付けた。これは痛かった。
彼はその音を聞くと嬉しそうにびくりとして、彼女の拘束を解いた。
枷が外れると彼女はおずおずと立ち上がり私を見つめる。
薄着で寒そうな彼女の細い肩に着ていたジャケットをかけた。
「良かったらこれを……怪我はないですか?あなたはニクスさん?」
「ええ。何故名前を?」
「ホロロ村長らか聞きました。私は王宮から派遣された者です。ここから逃げましょう。さぁ、次はベル様の所に……って……」
指示しようとゴロツキBを見たら彼は苦悶の表情で蹲っていた。顔が赤く息が荒い助けを乞う様潤んだ瞳で私を見上げる。
(抜かぬとダメじゃな。めんどくさいからドレインして眠らせてやった方がいいじゃう。)
彼女の言葉にギョッとするが、それならば仕方ない。私は彼の頬にそっと手を置きドレインする。彼は苦しさが和らいだようで安堵の息を吐いた。そして私は彼の目を見据えて話しかける。
「ここまでご苦労様。『おやすみなさい』」
そして彼はすっと眠りに落ちた。この様子を見ていたエルフの少女ニクスは話しかける。
「小娘、お前妖精なのか?」
小娘……初めて言われた……。口調もホロロさんに似ている。
相手は私より大先輩で有る。私はそう心で念じて答えた。
「はい。半人半妖のサキュバスで、名前をマヤと言います。」
「へぇ、サキュバス……だからこんな芸当が……」
彼女はそれを聞いて珍しいものでも見たように驚く。
そして、上から下に視線を動かし、私の周りをくるくると回って翼を触った。
「へぇー。初めて見た。……この世界はまだまだ面白い。ここは魔法弱化の結界が張られていて出られなかった。杖が有れば少しは魔法が使えるのだけれど、攫われる途中で杖を落としてね。……困った。」
「これで良ければ使います?」
そう言って私お手製の小さな杖を彼女に渡した。エスタのは又貸ししたくない。
「ちいさ……でも無いよりマシか。ありがとう借りる。」
エルフって結構ストーレートな物言いする人が多いの?
昨日受けた心の傷がきゅんと痛む。彼女は礼を言って杖を受け取った。
ここからはゴロツキの案内なしでの探索になる。杖の先を光らせその明かりを頼りに歩くが……明かりを灯すだけでも一苦労だった。地味に疲れる。
ベル様を助けたいが、私一人で……しかもニクスも連れている。無理をして二人とも脱出できないのは最悪から、まずはこの子と脱出して応援を呼ぼう!
出口を求め歩くと表へつながる古びた扉を見つけた。
この扉、鍵が錆びついていて開かない。私が魔法を使って開けようとするがウンともスンとも言わない。無駄に魔力が消費されるだけだった。
それを見かねたニクスが魔法を使い力ずくで開ける。正確には扉を壊した。
私の中のエルフの澄ましたイメージが音を立てて崩れた。この子、パワー系だ……
彼女はぜいぜいと肩で息をしていた。杖が有ってこの状況だ、杖なしでは完全に魔法が使えない。彼女は閉じ込められた腹いせとばかりに錆びついた扉を思いっきり蹴り破ると外に出られた。
周囲は針葉樹の森だが、敷地の出入り口から小さな道に繋がっていた。それに日もまだ高い。そして特徴的な建物が遠くに見えた。ルーチェンス公爵の家だ。
「あの建物……公爵の家に私の仲間が居ます。まずはそちらに行きましょう。」
彼女は私を見て頷き、二人で歩き出す。
よかったこれで応援が呼べる。敷地から出ようとした時、私は右脚を払われ転んだ。
「え!なに!?」
振り返ると右足に黒い蔦の様なものがが絡んでいた。その蔦は先ほど出てきた扉から伸びている。私は扉に戻されるよう蔦にずるずると引きずられる。まずい……。
「小娘!」
「走って!! 伝えて!!」
ニクスは私を助けようと杖を構えたが、悔しそうに舌打ちをして踵を返し走り出した。
そう、それで大丈夫。
応援を呼んできて欲しい。先ほどの一撃で彼女は疲労しているかから戦ったら捕まってしまうだろう……。
私の全身は建物の闇の中に入ってしまう。
背中にずしっと重みがかかり、視界が暗くなる。目を塞がれた。首元にひやりと冷たい物が当てられた。これは刃物だろうか……。
体を硬直させて動かないようにした。耳元に息が掛かり私を拘束している主が話しかける。
「逃がしちゃ駄目じゃないか? あのエルフ、捕まえるの大変だったんだよ? ……まぁ君が代わりになるからいいか。」
初めて聞く男の声だった。楽しそうに、仲よく遊んでいるかのように話しかけてくる。
「君、どうやら雌型の妖精なんだってね。と言う事で君は僕がもらう事にするよ。」
彼は私の角と翼と尻尾を確かめるように手でなぞる。触られるたびに悪寒が走った。尻尾を指で弄びながら更に囁く。
「ふぅん……サキュバスか。王も物好きだね。夜伽の相手かい? ……しかし我、愚妹は知識が無くて困るね。サキュバスの目を見なければ呪いにはかからないのに。さあ立って部屋に戻るよ。」
愚妹……こいつが偽ベル・グロシーの兄さんとやらか。
しかもサキュバスの対応法を知っているみたいだ。
今逆らっても勝てない。悔しいけどこのまま戻って機会を伺おう。
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