第三章 夢想の妖精騎士

プロローグ 雪に閉ざされる

 妖精と緑の国『ヴィリディス』その北部には『ルーチェンス領』が存在する。四大諸侯が治める北部最大の領地だ。その殆どは山や森林が占める自然豊かな土地だ。

 ここルーチェンス領では今日も何かを守るように雪が降り、世界を白く閉ざしていた。


 私はこの閉ざされた世界が好きだ。


 吐息は白く空に還るように消え、この寒さと静けさに溶けるのがとても心地よい。

 外套がいとうに雪が積もって自身も白に染められてゆく。歩みを止めて見上げる灰色の空からは、音もなく雪が舞い降りる。この光景は永遠すら感じてしまう。


 それを引き留めるように遠くから透き通る歌声聞こえてきた。

 隣の『旧シールバ領』に住まう人魚たちの歌声だ。彼らは古の言葉でまじないの唄を歌っている。

 歌われる意味は私には分からないけど……不思議でずっと聞いていたい。私も彼らのように歌えたらな……。


 家に帰る事を思い出した私はハミングしながら雪道を歩きだした。

 しかし、この歌は何の歌だろう?彼等はいつもと違う歌を歌っている……何かあったのだろうか?

 そんなことを考えながら歩いていると雪の上に誰か倒れていた。


 小さな女の子だった。


 私は慌てて駆け寄り彼女に積もった雪を払う。息が有るか口元に耳を近づけて確認する。小さな呼吸がきこえるが彼女はひんやりと冷たい。最悪な結末が頭を過るが彼女は薄らと目を開けた。良かった!


 私は彼女を背負い家へと急ぐ。そして彼女の意識が途切れないように声を掛け励ます。


「まっててね。もう少しで家だから。」

 

「……気にしないで、もう大丈夫よ。」

「え?」


 少女から想像以上に大人の女性の声が聞こえた。次の瞬間首筋に痛みが走り私は前のめりに倒れた。


 え?……なにが起こったの?


 私が顔を上げるとそこにはさっきまで背負っていた少女と似た雰囲気の大人の女性が私を見下ろしていた。口元から赤いものが滴っている。そして次第に彼女の姿は揺らぎ見たことのある人物へと変わって行った。


(ああ、私……食べられたのか……)


 冷たい雪に包まれながら意識が遠のいて行った。



 人魚の唄……私も歌いたかったな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る