3-01 妖精騎士
私はマヤ。半分人間、半分妖精の今をときめく異世界転移者だ!
半分妖精の部分は半分サキュバスがより精密な回答に成る。諸事象でこの異世界に来てから角と翼と尻尾が生えてしまったのだ。ちなみに今、私は国王陛下に忠誠を誓うため
今日は年に数回ある称号授与式の日だ。
私は『王宮と学院の事件での活躍』とそれにより存在が知られてしまった為『これから起こるであろう、面倒事を避ける為』という何とも複雑な理由で騎士の称号を与えられることになった。
この称号授与式は公式行事だが参加者は少ない。大臣達と貴族の中でも四代諸侯のが代表として集まっていた。プラスアルファで妖精を一目見ようと、何とか参加した専門家がパラパラと居た。
エスタも王弟殿下として参加している。
前髪を上げ伊達眼鏡を外して王族モードだ。普段もカッコいいが、時々その姿を見ると胸の鼓動が早くなる。彼は普段、城から抜け出し田舎で魔法屋を営んでいる。私はそこにお世話になっているのだ。
そして彼の影武者シャルはいつもと髪色が違う。濃い青の髪色でエスタの秘書官役で参加していた。シャルは普段城に居ないエスタの影武者をしている。とても明るく軽くフレンドリーな青年だ。
会場には聖女リーリもいて、私と目が合うとにっこり微笑んでくれた。白い肌に白い髪。穏やかな緑の瞳。月の精と言っても信じてしまう人が居るのではないかという程に彼女は儚げで美しい。
そして目の前に居るニグルム陛下。彼はエスタのお兄さんで私と召喚契約を結んでいる召喚士でもある。サラサラの黒髪で金色の瞳、黒い服を着ている事が多いので冷たい印象を感じるが、実際は笑顔が素敵な穏やかな太陽の様な方だ。
この通り会場内には見知った顔がいてとても心強い。
称号授与は私以外にも二名。他にも国に貢献した人物への勲章授与式も合わせて執り行われるのだ。
「マヤ=サエキ。そなたに『妖精騎士』の称号を授ける。」
私の本名は
この国には爵位の中に騎士と魔導士が有る。この二つは同格でそれに新たに加わる形でこの妖精騎士という位が復活された。400年前に国に貢献した妖精に与えられたことが有るらしい。
私は妖精騎士号だけでなく、領地も与えられる事になった。
この国には領地を持たず騎士号だけという場合も多いので、嫉妬ややっかみの的になってしまうのではと震え、エスタ先生に相談したが……鼻で笑い飛ばされた。
なんでも、その領地は誰も欲しがらない領地なので、誰からも嫉妬の的には成らない。むしろ、押しつけられたか……という印象の方が多いそうだ。領主たちの間では
騎士・魔導士号を持つ人はそれぞれ騎士団、魔術師団に所属が義務付けられているが私はどちらにも所属しない。ニグルム陛下直轄管理になっている。陛下からの指令に応えるぐらいで他に式典参加したりもする。
そう、称号だけ頂いて特に何も活動が無いのだ。名ばかりの騎士でやっかみや嫉妬は? ともエスタに聞いたが……。
あの領地との付き合いでトントンだろうとのことだ。
それ聞くと領主役として不安になってくる。
私は立ちあがり所定の位置へと戻る。
堂々と振る舞うように指示が出ているので歩幅は大きくゆっくりと歩いた。そんな私の姿を見て小さなざわめきが聞こえる。
「
「なかなか可愛い男の子ね。」
そう、彼等には私が男性のように見えている。実は訳合って私は男装することになった。
私がサキュバスということで『
むぅ……私がサキュバスでもインキュバスでも、どんな格好をしても彼らの近くにいる限り噂が
ただ、出来るだけ問題が少なくなる選択肢を取る方が賢明だ。本当に陛下の縁談の支障が有っても困る! そして不埒な者はお断りだ。それ以外にも町で私の正体がバレてしまっても過ごしにくい。
その大臣からは注目が薄れた後、折りを見て好きなスタイルの正装に代えてもらって構わないとも申し訳なさそうに言われているので了承した。
男装の
髪型を整えてもらいメイクをした後。ジャケットに袖を通すと改めて緊張した。表情を引き締めればそれなりに見えなくもない……と信じたい。
用意されている正装もジャケットが長くパンツスタイルであまり体のラインが出ない。
それにこの国には私と同じ身長の男性や髪の長い男性も多い。名前もこの国の中では変わっているので、すぐにはどちらかわからないだろう。
仕上がった姿をシャルとエスタに見てもらったが、二人からの評価は上々で、私に弟が居たらこんな感じだろうなという感想だった。確かに実兄二人に似てなくもない……
ただシャルは『ジャケット脱ぐとエッr……』と言いかけてエスタに睨まれていた。
……人前でジャケット脱がないようにしよう。
などと回想に
これで私は陛下直属の妖精騎士となった。名ばかりのお飾りではあるが……出来る限りの事はしよう!
◇◇◇
夕方に会がお開きになった後、私は陛下・エスタ・近衛騎士と秘書官数名で謁見の間に戻る。私は近衛騎士の近くで彼等と一緒に佇む。
ここに四大諸侯が入れ替わり立ち代わり挨拶でやってくるのだ。四大諸侯のその傍にはご婦人と他にも綺麗なお嬢さんを連れていた。そう、フロリーテ兄弟へのお見合い予定の令嬢だ。
はぁ~~~。ため息が出るほど美しい令嬢たちだった。所作が美しく
諸侯たちはやんわりと縁談の日程を取りつけようとするが、陛下は更にやんわりとかわしていくのだ。その代り諸侯と別の約束を取り付ける。皆、狐に化かされたように謁見の間を去るのだった。
エスタは令嬢が苦手らしいので断る理由も分かるが……ニグルム陛下はどうして積極的に縁談をしないのだろうか? 謎に包まれている。
最後に北部を治めるルーチェンス公爵が謁見の間を訪ねてきた。彼も例に漏らさず令嬢を連れていた。
ルーチェンス公爵は凛と引き締まった空気感を持つ初老の男性だ。白髪にひげを蓄えているがシュッとしている。背筋が正されており歩く姿が美しい。そして彼に付き添う令嬢もどこか鋭い印象を受けた。ペールブルーの髪にグレーの瞳。二十歳ぐらいだろうか。大人びた青いドレスを纏っていた。
二人は揃って跪くと陛下が話しかけた。
「ルーチェンス公爵久しいね。皆変わりないかい?」
「ニグルム陛下ありがとうございます。ええ皆
陛下は一瞬意外そうな顔をする。そして、にこやかに答えた。
「そうか、平和で何よりだ。確かそちらのベル嬢との縁談の話を頂いていたね。ぜひその日程を繰り上げてもらいたいのだが、出来るかい? 来週早々にでも。ジャックフロストが起きないうちに話を進めよう。」
「ありがとうございます。ではそのように準備いたします。本日は誠にありがとうございました。ではこれにて……。」
そう言って彼らは一礼して去っていくが……ベル嬢と目が合った。彼女は私を見ると目を細め薄く笑みを浮かべ去って行った。
私は背筋がゾクリとする。
爵位は彼女がはるかに上だ。私が何かまずいことをしてしまったのだろうか? そもそも顔を見てはダメだったのかな?? 不安が頭の中をぐるぐるしている所で今日の謁見は終了した。
それより! ニグルム陛下があんなに渋っていた縁談をさらりと決めた。私と同じで大臣や秘書官達がざわめいている。陛下の方を見ると何か考え込んでいた。
彼はぽつりとつぶやいた後、私達に語りかけた。
「そうか、彼らが眠るとは……。皆、来週の縁談は彼らを丁重にお迎えすることになる。マヤも参加してもらおう。初仕事よろしく頼むよ。」
陛下はそう言って執務室へと戻って行った。私達も彼の後を追う。そして執務室にて私を含めて来週の打ち合わせとやらが始まったのであった。
終ったのは深夜に近かった……。
あれ? 妖精騎士ってもっと楽な話だったような?
そう疑問に思いつつ私は会議室をフラフラと後にするのであった。
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