2-31 ご褒美

 三日後私たちは国王陛下と非公式のお茶会をしていた。


 メンバーは陛下、先生、リーリ、シャル、私の5人だ。秘密の部屋で和やかに話が始まる。


 学院地下の調査結果と報告書が出たらしい。


 幻想迷宮と古の妖精の消失が確認された。

 600年、迷宮に捕らわれた妖精達は然るべき場所へ還ったのだった。彼らは完全なる眠りに就いた。

 封印が予定より早く剥がれた原因は、学生の好奇心だった。

 この件の報告書には陛下が妖精と協力して解決した。と記載が有った。


「今後は封印の儀の代わりに鎮魂の儀を行なう事にした。600年消滅させることが出来なかった存在を消してしまったからね、これは記録に残る。どこまでを記録に残すかはこの後程相談しよう。そして『協力した妖精は今後国の脅威にはならないのか?その妖精は何者なのか。』が一部で騒がれている。」

「あと……その伝説の妖精と陛下をくっつけたい一派が出て来ていますね。本当に結婚しちゃいます?」


 陛下がそれを聞いて「それは……。」と焦った顔をしている。隣に座っていた先生が「この口か?」と悪態をつきながらシャルの頬をつねる。それをリーリが「二人とも落ち着いて。」宥めているのを、私は何も言えず乾いた笑みを浮かべてみていた。私に選択権は有るのかな。


「今回もマヤに助けられてしまったね。ありがとう。契約外なのに申し訳ない。」

「いいえ、お役に立てて良かったです。」

「礼をしたい。何か望みはあるかい?」

「いいえ、何も考えていませんでした。」


 我ながら情けない。対価もまだ決められていないのに。


「ならば提案が有るんだ。君に爵位と領地を渡したい。」

「しゃく……い……りょう……ち。」


 私は露骨に驚いてしまった。爵位や領地に縁のない生活をしていて、これからも関わることは無いだろうと思っていた所に晴天の霹靂である。


「嫌だったかい?」

「いえ……、お気持ちは大変ありがたいのですが、私に務まるのか不安で……。」

「ちなみにどこのだ?」

「北にあるシールバ領だ。王室領の一部から分ける形になる。小さな領地で住民たちによって既に管理されているから、年数回尋ねる程度で問題ない。」

「ほぼ森と湖じゃないか、でもそういう事なら。……爵位は?」

「妖精騎士。騎士、魔導士と同格だ。400年前に一度だけ与えられたがその後は消えていた。この度復活させようと思う。召喚契約が有ったとはいえ2度も身を挺して戦ってくれたからね。妖精騎士は騎士団と魔術師団とは別組織で私直轄とさせて貰う。そうすれば、マヤはこの国の脅威としてとらえられないし、私直轄となれば誰も勝手に手を出せないだろう。」


「それって……寵……。」

「なんだいシャル?」


 陛下は笑顔でシャルを見る。いや、笑顔の圧だ。「いえ。」とシャルは短く返事し姿勢を正した。


「妖精騎士になったら私はどのような仕え方になるのでしょうか?」

「今までと同じで問題ないよ。ただ、行事の時に呼び出しがかかるかな。そしてまた困った時に力を貸してくれると嬉しい。」


「言い方は悪いが、名目だけと言う事か。まぁ、それならばな……」

「そういう事でしたら喜んで。」


「じゃあ、マヤは今まで通り俺の助手で、俺の元に居ると言う事で。」

「ああ、でも僕の直属の部下と言う事でも頼むよ。」


 先生はムッとして陛下を見るが、陛下はニコニコしている。

「何だ?取り合いか?」シャルがボソッと言うと。


「「なんだ?シャル?」」


 フロリーテ兄弟から圧をお見舞いされた。

 シャルも私もリーリに目で助けを求めるしかできなかった。何が有ったの?兄弟。

 そんな様子を見てリーリは苦笑しながら


「さて、纏まったようですし。詳細は各々詰めるようにしましょうか?お二人とも縁談の話でお忙しいでしょうし。」


 よっぽど沢山来ているのだろう。

 縁談この一言でこの兄弟はおとなしくなった。


 ◇ ◇ ◇


 私はリーリに手を引かれ、聖女の塔へと逃げ帰ってきた。


「そうだ!マヤ。見て欲しいものが有るの!!ねぇ~!!モロ~!」


 リーリはモロを呼び出す。屋根の上に居たのか、窓からひょっこりと顔を出し、そこから室内に入ってきた。

 そしてモロは気恥ずかしそうにリーリの隣に降り立つ。

 どうしたんだろう?最近の彼はリーリの前でも飄々としているのに……。

 そしてリーリは彼の腕に自身の細い腕を絡めた。


 人間が妖精に触れた!

 ニコニコしながら更に彼の肩をぺちぺちと触る。「触り過ぎだ……」とモロが顔を赤くしながら静かに彼女に抗議する。


「リーリもしかして……モロに触れるの?」

「そう!マヤの生気の流れを参考にして生気を纏ったら触れるようになったの!」


「生気の流れ?」

「そうそう!マヤは体の表面に高密度で生気が流れているから不思議だなと思って。練習したらできるようになったの。まだ安定はしてないから集中しないとできないけど……いずれ自然体で居る時もこの状態になるように頑張って訓練するわ!」


 わ~……聖女すごい!!なんでも出来てしまう。

 生気の流れなんて考えたこと無かった。


 モロの顔を見ると「本当は俺が触れるようになりたかったのに」と言わんばかりの少し悲しい顔をしているがそれでも、彼の願いは成就している。


「モロ……願いが叶って良かったね。」

「ああ、リーリには驚いた……。」

「ふふ。私もこの発見を論文にしようかしら。教授驚いてくれるかしら?これで一緒に出来る事が増えるわね?モロ。」


 リーリは楽しそうに腕にギュッとしがみついた。

 モロは照れながら「ああ」と答えるのであった。

 良かった……。二人ともお幸せにね。

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