2-16 異変遭遇

 その目と視線が合った。


 金色の瞳


 顔も少し見えた・・・少年だ。笑っている。そして何か話している。


「何って言ったの?・・・ごめん聞こえない・・・。」


 私は立ち上がり扉に近づこうとした。

 と思ったら。急に腕を引っ張られ走り出した。先生が私の腕を引いて走る。


 え?なんで・・・??


「マヤ!なに魅了されているんだよ!!罠にはまっているぞ。こっちだ。」


 私達は入口へ向かって走る。しかし体の自由がきかない。

 ちょっと待って、うまく走れない。


「やっ・・・せ、先生・・・待って・・・あっ・・・。」


 足がもつれる私を見て先生は途中の空き教室に入る。

 教室の奥へと入り私の足は限界を迎えた。ぺたん座り込んでしまう・・・脚に力が入らず立てない。それに段々と体の力が抜けてきた


 ―――ずーーーー・・・


 廊下から足音と何かを引きずる耳障りな音が聞こえた。この教室に近づいてくる。

 いつもなら怖い音だが酔っている為か、何とも思わない。


「こっちに来い!静かに!!」


 そう言って彼は、後ろから私のウエストを引き寄せた。

 先生はローブのフードを目深に被り、そして私を更に引き寄せてローブの中に隠した。私は彼に後ろから抱きしめられる形で座っている。


 すっぽりローブの中に隠された後。あの甘い香りとは違ういい匂い・・・おいしそうな香りがする。そして非常にお腹が減っていたことに気付いた。生気が減ったと形容した方が正確かもしれない。

 目の前をいい匂いが掠めると口の中に涎が溢れる。何だろう?フワフワしすぎて良く分からなくなってくる。・・・ここは夢の中なのかな?たまらず口を開けて香りの元を軽く甘噛みする。


 ―――美味しい。


 その味で心が落ち着いた。頭のふらつきが収まってくる。

 それでも奇怪な足音は確実に近寄ってくる。私達の居る教室近くまで来るが、また一歩踏み出して通り過ぎて行った。暫くしたのち、視界が開けた。あの甘ったるいにおいが消えたが、まだ頭はぼんやりする。


「おい・・・もういいか?」


 先生が困った声で尋ねてきた。そうだ私は先生と居たんだ。何を困っているのだろうか。

 ぼんやりしながら目を動かして周りを確認する。私は先生の左手に噛みついていた。甘噛みでだが・・・・


 美味しかったのって先生か。


 だんだん頭がクリアになってきて状況を把握する。

 先生の手に・・・甘噛み・・・ドレイン・・・ひぃぃぃぃぃ!?

 次第に羞恥と申し訳なさでいっぱいになる。

 彼はローブの中から私を解放する。私は慌てて離れて、持っていたハンカチで先生の手を拭く。


「た、大変失礼しました・・・。」

「・・・ああ。魅惑が解けたみたいだな、良かった。それにこいつのお陰でうまくやり過ごせたな。」


 そう言って彼は妖精隠れのローブをしみじみと見つめた。


(ふふっエスタは美味しかったのう。)


 にやにやと真夜の君がからかってくる。

 やめて!恥ずかしい!思い出させないで!・・・真夜の君何であの靄の匂いに反応したの?


(あの匂いは魅惑の呪いじゃ。私達には魅惑に対する抵抗力がある。だから直ぐには掛からないが抵抗するのに自ずと生気を消費しておった。)


 だからあんなことになって生気が足りなくなったのか。

 はぁ・・・一応先生にも説明しよう。


「先生?私・・・魅惑に抵抗してああなったみたいです。抵抗するのに生気を多く消費たらしくドレインしてしまいました。ご迷惑をおかけしました・・・。」

「成程・・・眠らせるとは聞くが魅惑は初めて聞いたな。そいつは対象を眠らせて魂を迷宮に連れ去ってしまう。迷宮の封印が弱っている様だ。扉の隙間から怪物の一部が出てきて生徒の魂を攫って行ったのだろう。」


「それって伝説じゃなかったんですね。怪物ってなんですか?眠らせて魂を連れ去るって・・・。」

「古の妖精といった所だ。犯人は分かった。今夜、眠っている生徒たちを迎えに行くぞ。」

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