2-15 異変発生

 学院内で事件が起こった。


『旧館で生徒が倒れてたらしい。怪我や持病も無く、ただ眠っていると。しかし朝になっても、日を跨いでも起きる気配が無い。医師によると原因不明。魔術医によると呪いの痕跡が見える。』と


 呪いとは、人以外の使う術の事。私が使うサキュバスの術も呪いに該当する。

 これと同様の事件が立て続けに2人起った。呪いの痕跡が有ったので人為的なのか自然的な要因なのかを調査するチームが学内で組まれた。なぜかその中にエスタ先生も含まれていた。


「先生は呪い詳しいのですか?」

「いや、人並みだ。」

「じゃあなぜ?調査チームに?」

「古典魔法の教授もチーム入っているから仕方なく。それに俺も気になる事が有るから、調査しようと思ってな。ということで・・・今日の放課後、旧館に入るからマヤも準備を頼む。」


 え・・・?旧館に私も!?

 先日旧館で、プチパニックを起こしたことは記憶に新しい。

 決定なの??暴君め・・・


 私達は放課後旧館に入った。倒れた三人の共通点は、旧館内で発見された。調査チームも午前の内ここに入り一通り調査したらしいが結果については何も聞いていない。


 とうとう放課後になってしまった。私は先生と二人で旧館の前に立っている。旧館前は人通りが少ない。表から見る限り照明もついていない。独りでは無いとはいえ怖い。

 不安になり先生を見ると彼は涼しい顔をしている。そして見慣れないローブを着ていた。心なしか先生の姿がぼやける。疲れ目だろうか?


「先生そのローブ何ですか?初めて見ましたけど。」

「あぁ、これは『妖精隠れのローブ』で、これを着ていると妖精から見えなくなるんだ。」


「へぇ~そんなアイテムが有るんですね。私も先生の姿が少し見えづらいのですが・・・。」

「・・・あぁ、そうだったな。迷子になるなよ。さあ入るぞ。」


 そうだったなって・・・先生を見失ったらパニックと迷子は必至だ。

 入口で躊躇っていたら先生はズカズカと進んで行ってしまった。


 待って!早速迷子になる。置いてかないで欲しい!!


 ―――パキッ!


「ひぃ!!」


 先を行く先生に助けを求めるように、彼にしがみつく。


「何だよ。どうした?顔色が悪いぞ?」

「せ、先生?その・・・私、こういう雰囲気の場所怖くて苦手で・・・。」


 震える私を見て彼は呆れたように、ほれと左腕を貸してくれた。

 申し訳ないけど本当にダメなんです。


 私は先生の腕にしがみつきながら旧校舎を進む。

 奥に進むにつれて、この雰囲気には不釣り合いな甘い香りが鼻孔をくすぐる。先日もこの香りを嗅いだ。


 しかし・・・本当に怖い!


 しがみつく力が自然と強くなる。一方、先生は涼しい顔で進んで行く。古い校舎なので軋みが酷い。音が聞こえるたびに私はビクリと震え上がる。


 生徒たちが倒れていた所を2人で巡る。二階資料室。三階実習室、そして一階階段前。全部階段の近くだったので簡単に巡れた。


 一階階段の脇に柱時計と大きな扉が有った。美しい細工の時計でまさに工芸品だ。


 扉は異様だった。「地下階段」と書かれた扉の前には立ち入り禁止のポールが立てられ、扉が開かないよう古い杭と鎖で塞がれているが、幾つか杭が外れていて鎖が弛んでいた。


「あれ?この時計止まっているんですね・・・この前は動いていたのに・・・。」

「え?俺が学生の時から止まっていたぞ。その時計は旧館が立った時に寄贈されたもので、今はもう動かない。学院伝説の一つだ。」

「あぁ・・・時計の中から妖精が覗いているでしたっけ?」


 脳裏に先日、旧館図書室で金色の瞳と目があった事を思い出した。


「そうだ、本当だがな。」


 ―――え?怖いこと言いましたよね?今。


「な、何が覗くんです?」

「迷宮の怪物だ。隣に扉が有るだろう?この扉の奥は学院の地下につながっていて奥には怪物が封印されていて、ここから出られない。だから時計の裏から表を観察しているらしい。・・・でも封印は健在だな?どうやって出てきた?確か、封印は再来月末に張り替え予定だ。」


 彼はそういって目を凝らした。何を見ているのだろう?私も真似をして目を凝らす。集中してみると、時計と地下への扉の隙間から薄らと金色の靄が出で居る。


 この霞いい匂い・・・時折香ってきた甘い香りはこれだったのか。少しクラクラ・・・いやフワフワする。お酒に酔った時の様な感覚で心地いい。目の前に青い光がちらついた。なんだろう?力が反応している。


「先生?この金色の靄、何ですか?すごくいい匂いがして・・・。」

「霞?匂い?・・・おい!マヤ、大丈夫かその眼・・・!?様子が変だぞ?」


 先生の心配する声をよそに、私は恐怖心が無くなっていた。

 私はそっと先生の腕を離れて、時計を観察しようと近づく。


 何でこんなに気になるのだろう?本当にきれいな時計だ。金細工で幾何学模様が描かれている。ずっと眺めていられる。


 振り子の奥の飾りを眺めていたら。飾りが動いて、目があった。金色の瞳だ・・・嬉しそうに目を細める。金色の靄がもっと濃くなる。


 ボーン!ボーン!ボーン!・・・


 壊れているはずの時計が時を告げた。鐘の音が低く不気味に響く。

 隣にあった扉が開いた気がした。3cm程の隙間が開いて・・・誰かがこちらを見ている。

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