2-17 夢幻迷宮
二人で寮に戻り食事と雑務と湯あみを済ませて床に就いて、サキュバスの体へとなった。私は王宮に向かい、いつも通り陛下に催眠をかけておしゃべりをして戻ってきた。
部屋に戻ると共有スペースで先生が待っていた。
「お疲れ様、こき使って申し訳ない。」
「ホントですよ!じゃあ先生にも催眠かけますよ。ベッドに入ってもらった方がいいですね。今夜も冷えますし。」
「ああ、よろしく頼む。」
彼は自室に戻りベッドに潜り込んで眠る準備をする。
そして彼に『催眠』をかけた。妖精の私は彼の夢の中へと引きずり込まれていった。夢の中では先生がスタンバイ済みだ。
「じゃあ、行こうか?学院の旧館の向かってくれ。匂いを辿れば簡単だ。」
「そこに入れる夢が有るんですか?それにまたさっきみたいに魅惑に掛かったら・・・。」
「ああ、有る。学校の地下には古の妖精の夢が有る。魅惑に掛かりかけたら動けなくなる前にまた吸ってもらっていい。」
『吸ってもらっていい』って簡単に言われましても。・・・仕方ない。
私は先生の手を取って匂いのする方へと進んだ。
暫く歩くと周囲が金色の靄に包まれる。足を踏み入れたのは石造りの迷路の中だった。壁は高く電柱くらいの高さが有る。人がよじ登るのは難しそうだ。私はそっと壁に触れるとしっかりと石の感触が返ってきた。この壁は透過できそうにない。
そして極めつけは体が現実世界のように重い。魔力のロスが激しくてずっと浮遊しているのは難しそうだ。
「わぁ・・・ここが地下迷宮・・・。」
「ああ、古の妖精の夢の中だ。夢幻迷宮と言った方が近いかもな?この中で魂を食べられると元の世界に帰れなくなると言われている。・・・さて、生徒たちを探すか。では『お前達の主の居場所を教えてくれ』」
先生は学院から借りた生徒たちの所持品・・・ネクタイ・ハンカチ・タイピンを身に付けて眠りに就いた。なので今の先生の見た目にもそれが反映されている。
先生はそれらに語りかける。
失せ物さがしの魔法だ。
古典魔法の一つで現代では使われていない忘れ去られた魔法の1つだ。便利なのに何で残らなかったんだろう?複雑な術式だったから仕方ないか。
そう問われると、品物から光の糸が伸びた。
3本の糸はするすると迷路を縫うように進んで行った。どこかの国の伝説で聞いたアリアドネの糸みたいだ。
「よし。これを辿ろう。」
私達は糸を辿り寄せながら歩いて行く。
暫くすると辺りに金色の靄が見えて甘い香りが漂い出した。案の定私は目の前が青くちかちかし始めた。私の体が魅惑に対する抵抗を始めたのだ。
『くっくっくっくっ・・・・』
迷路の上から愉しそうな笑い声と視線を感じる。
「どうやら見つかったようだな・・・。」
先生も気づいて警戒するが視線の主は何もしてこない。30分程迷路を進むと頭がクラクラする。心なしか膝も笑ってきた。このままではまずい!
「先生、休憩していいですか?あと・・・その、ドレインもさせてください。」
「ああ構わない、体調は大丈夫か?」
「ええ、膝が笑い出しちゃって。あっ・・・。」
そう言って私はあっけなく転んだ。先生が慌てて支えてくれたので怪我は無い。
手から生気を分けてもらい。少し休憩した。真夜の君が言ったっ通り膝の震えが止まり、体が少し軽くなった。これなら何とか歩けそう!!動こうとした時だった。
「ほら、乗れ。無理するな。」
そういて彼は私に背中を見せしゃがむ。
まさか・・・おんぶって事?いやいやいや・・・気遣いは嬉しいけど恥ずかしい。何より先生の生気を分けてもらっているのに私の体重で体力まで削ってしまう。妖精の体とはいえ重みが有る。
「いえいえいえ!大丈夫です!!!」
「また倒れたら困る。乗れ。」
あーーー!!!しどうしよう!!!先生も退く気がない。
ホント恥ずかしい!!せめて・・・私もう少しコンパクトになれればいいのに・・・・。
(何言っておる!?なればいいではないか。頭が固いのう。)
頭の中に声が響いた。彼女はこの状況をどこか楽しそうに見ている。少し笑っているでしょ??そんな無茶を当たり前のように言って!
(当たり前だから言っておる。どのくらいの大きさになりたいか考えてみろ。)
えー?・・・そうだな、子猫ぐらいのサイズならいいかもな。肩のりサイズ。
そう念じたら周囲の空気が動いた。風景が変わり迷路の壁が更に高く感じた。同時に先生の姿も遠く感じた。というか先生が巨人のように大きい!!
「マヤどうした!?何だその姿は?」
私の気配が変わった事に気付いた先生が驚いて振り返る。そして両手で私を拾い上げた。自分の視界に映る自分の手が人間の手ではない。
黒いもふもふの獣の脚になっていた!翼と尻尾の感覚もある。生気を吸われ過ぎた後のモロの様な姿だ。なるほど!!こういう事か。
(のう?できるじゃろう?夢の中なら姿形は自在よ。)
真夜の君は「ひゃっひゃっひゃ」と得意そうに頭の中で笑った後、またスンと眠ってしまった。自由だなぁ相変わらず。
この事を驚いている先生に報告する。
「先生、どうやら私夢の中なら姿形が自在らしいです!小さくなったら生気の消耗が少なくなりました!!」
「そら良かった。そうしたら暫くは俺の肩にでも乗っていろ。」
そう言って彼は私をひょいっと肩に乗せた。ありがたい・・・とても楽だ。時々彼の頬に触れてチャージさせてもらいながら迷路を進むのだった。おかげさまで消費よりも回復が勝りすっかり元気になった。
糸を辿り、迷宮を進むと迷路の途中に黒い学生ローブを着た人物が一人座り込んでいた。被害に有った生徒だ。先生が駆け寄り彼に話しかける。
「君、無事か?怪我は無いか?」
生徒は先生を見ると安心したのか涙を流した。こんなところで一人ぼっちは、さぞ辛かったろうに。彼が落ち着くと、一緒に次の糸を辿る。こうして一時間歩き回りやっと三人見つかった。みんな無事だ。生徒同士抱き合い互いの無事を喜んでいた。
「さて、ではゴールを目指そう扉が有る筈だ。マヤ飛べるか?上から案内を頼みたい。」
「わかりました!待っててくださいね。」
そう言って私は羽ばたいて迷路の上空へと飛び上がった。上から迷路を見るとゴールは意外にも近い。突き当りを右に曲がりそのまま道なりで100m程だ。しかし、私たちのほかに動く影が一つ。剣を引きずった人型の何かがゴールからこちらに向かって歩いてきていた。その姿に私は息を呑む。素早く先生の元に戻り報告した。
「先生、ゴールはこの近くですけど、ゴールから剣を持った何者かがこっちに向かって来ています。」
「わかった。まずは生徒を逃がす。俺がそいつの相手をするから、その隙に生徒たちをゴールまで誘導してくれ。」
先生は古典魔法で光の剣を作り出した。丁度その時、曲がり角からそれは姿を現した。
旧館で見かけた金色の瞳の・・・あの少年だ!今は前に見た時より育って青年になっている。黒い髪は少し長く、柔らかくクルクルとして、その中に一対の牡牛の様な大きな黒い角が生えている。
先生とニグルム陛下に似た顔つきだ。
そして・・・・。
――――ギィィィィィィ!!!
彼がこちらに気付き、目を爛々と輝かせながら向かって走り出した。剣を壁に擦らせて不協和音と火花を立てながら走ってくる。
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