2-06 ようこそ王都へ(後編)

 美味しい食事を楽しんでいると、デザートが届いた。

 私と先生はフードを被り、人が去るのを待つ。合図が有りフードを下すと、目にも鮮やかなデザートプレートが有った。

 生菓子だ!やはり王宮はすごい。目を輝かせ食べていると新たな会話が始まった。


「そうだ。兄貴、眠れないって聞いたけど・・・魔術医の催眠もダメだったのか?」


 急に話を振られて、王がびっくりする。彼は明るくも少し困ったように話す。


「そうだね、悪夢に触れ過ぎたのか、良くない事ばかり考えてしまってね。魔術医を困らせてしまった。」

「魔術医の中でも一番優秀な奴にかけてもらったんだけどな。今、王宮内でも催眠をかけられる術士を探している。」


 それを聞いて、先生は悩み、私に申し訳なさそうに尋ねる。


「マヤ、この後兄貴に催眠をかけてもらってもいいか?」

「ええ、もちろん。」


 断る理由が無い。


「マヤちゃんも魔術士なの?」

「いいや、マヤは人間寄りのサキュバスだ。」


 そう言われて、改めてぺこりとお辞儀する。


 シャルが固まり驚いて私を見る。手で顔を隠し何故か照れてる。何を想像しているのよ。


 陛下は静かに考えて、答えた。


「そうだね、頼らせてもらおう・・・。早く元気にならなくてはね。すまないが三人には会食の後も時間をもらって構わないかな?シャル、食べ終えたら秘書官に『今日は私の友人の術者に【催眠】をかけてもらう。』と話を通しておいてほしい。」


「はい、わかりました。」


 彼は今までのゆるい態度が嘘のように、凛として答える。

 公私はしっかりと使い分けているようだった。

 

 食後、シャルは部屋を出て行った。

 私達も元来た扉から執務室に戻り、席について待機する。暫くすると特徴的なノックの後、シャルが戻ってきた。


「秘書官に話は通しました。条件としては、俺の監督の元掛けるようにと。」

「ありがとうシャル。分かった。では支度をするよ。終わったら使いをつかわすから来て欲しい。」

「ああ分かった。慌てなくていいぞ。」


 そう言葉を交わし、陛下は部屋を出て行った。


「エスタはいいな~。こんなに可愛い子と一緒に暮らせて。俺も二人と一緒にく―らーしーたーい!!」


 子供が駄々をこねるかのように、シャルが駄々をこねだした。彼の温度差で風邪をひきそうだ。それを見た先生は呆れながら言い放った。


「何だよ、女はもう懲り懲りだって言ってなかったか?」

「傷は癒えたけど、心の穴は開いたままなんだよ。埋めてくれマヤちゃん。いい子いい子してくれ」

「ぇぇぇ・・・。」


 そう聞いて、しくしく悲しむ。その時ノックが鳴った。先生は瞬時にフードを被るが、ワンテンポ遅れた私はシャルにフードをかぶせられるのであった。速い。


「どうぞ」と王子モードのシャルが使いと対応する。どうやら王の支度が終ったようだ。

「分かった。では後はこちらで。下がっていい。」


 カッコよく言い放つと、プライベートモードに戻っていた。


「もういいよ。ということで寝室に行こうぜ!」


 ◇◇◇


 廊下の様子を確認してから私たちは王の寝室へと移動した。

 部屋はそんなに離れていない。ノックをすると。「ああ、入って大丈夫だ。」と返事が有った。私達は部屋に入りフードを下げる。寝間着姿の王が椅子に座っていた。

 私は改めて初めて使う術と期待のプレッシャーで震えた。


「こんな格好ですまない。マヤ、申し訳ないが頼むよ。」

「わかりました。そうしたら、ベッドで横になってください。私、これ催眠初めてで上手にできるかわかりませんが、頑張ります。」


 背後で、シャルが、キャーキャー言っていたが、先生が彼の頭をバシッと叩いた音が聞こえた。何をしているの?二人は。


 陛下はベッドで横になり。布団をかける。

 私はベッドすぐ横の椅子に座りまぶたを閉じて集中する。

 私の技は念じれば発動する。なので、彼が安心して眠れるようにと願いながら、瞼を開いた。ちかっと目の前が青く光った気がした。大丈夫、出来そう。私は穏やかに微笑み、そして彼の目を見つめながらつぶやく。


「大丈夫です。安心して眠ってください。おやすみなさい。」

「ああ、おやすみ・・・。」


 陛下の目の奥にも青い光が見えた気がした。ゆっくりと彼は目を瞑り静かな寝息を立てた。

 私達は5分程、彼の様子を伺う。無事眠りに就いたようだ。

 私は先生から行くぞ、と合図をもらい3人で部屋を出た。執務室に戻り、私と先生は寮に帰る準備をする。


「マヤちゃんすげーな。完璧じゃん。」

「あ、ありがとう・・・ございます」

「じゃあ悪いなシャル。俺達は戻るよ。兄貴の様子はまた明日教えてくれ。」

「おう、わかった。じゃあな。マヤちゃん遊ぼーねー!」


 気温差の激しいシャルの元を私たちは去るのであった。最近は気温も下がってきた。気を付けないと本格的に風邪をひいてしまう。そんな肌寒さを感じる、星が綺麗な夜だった。

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