2-05 ようこそ王都へ(前編)
それから1ヶ月後、私と先生は王都にやってきた。
運よく学院寮の一室を借りる事が出来たのだ。
―――と言っても、この部屋は教員向けの部屋で、先生に貸された部屋の一室を私は間借りしている。先生とは店でもルームシェアなので、寮についても大きな抵抗は無かった。
この時期は部屋を借りる希望者が多く、どこもかしこも部屋が埋まっていた。みんな三カ月前から借り出すらしい。私達は完全に出遅れてしまったのだ。
ちなみに、一か月店を空けてしまうので、子ミミックも木箱に入れて連れて来ている。不思議そうに私を見上げては口をパクパクしている。
家具は寮に備え付けられているので、荷物は勉強道具や着替えなど最小限だ。必要なものが出てきたら、王都でも買えるし学院内の
荷物を置いて一息ついた。もう夕方だ、窓から夕陽が差し込んでいる。扉がノックされた。
「入るぞー。今日この後
そのまま・・・そういう訳には行かないでしょう。私はよそ行きの服に着替えて、身なりを整えた。
「お待たせしました」と部屋の共有部分に行くと先生はいつも通りの格好でお茶を飲んでいた。本当にそのままなんだ。
二人で暗くなってきた王都を歩く。やはり王都はこの時間でも人通りが多い。魔法の光に灯された街灯が綺麗だ。
城の近くまで来ると、先生は例のごとく、秘密の通路を開けて、そこから敷地内へと入って行くのだった。
「先生?この通路って先生が作った訳じゃないですよね?迷路みたいに入り組んでて複雑ですね。」
「ああ、これは昔から有るものだ。王族のみが知る秘密の通路だ。初代の王が建築好きで隠し通路まで作らせたらしい。俺みたいに城を抜け出して暮らしていた奴もいたらしいぞ。」
みんな考える事は一緒か。隠し通路を進むと、見覚えの有る扉の前に出た。確かここは以前、王の執務室や寝室近くに繋がる隠し扉だ。先生は執務室の扉に特徴的なノックをする。
「大丈夫だ。入っておいで。」
扉を開けると国王陛下ともう一人、新緑色の髪の男性・・・長い前髪を上げ、眼鏡を外した状態の
私は隣の先生と見比べる。生き写し・・・ドッペルゲンガー・・・そっくりだ。鏡に映したかのように見事だ。入れ替わられたら分からない。
「こちらに着いたばかりで忙しいのにすまない。たまには食事でもと思ってな。」
「ああ、
「それならば良かった。食事は隣の部屋に用意させるから。フードを被って部屋に入ってくれ。」
そう言われて先生はフードを目深に被る。私も真似てローブのフードを目深に被った。4人で隣の部屋に移動しそれぞれ席に着く。すると、目の前に食事が運ばれてきた。皆無言だ。ただ一人国王陛下だけは―――
「ありがとう、何かあったら呼ぶよ。誰も近づかないように頼む。」
そういって人払いをした。「二人とも大丈夫だよ。」と声が掛かり、私たちはフードを下す。
「初対面の人がいるから紹介するよ。こちらはエスタの影武者のシャル。そしてこちらはマヤ、エスタの助手で僕の契約者だ。」
シャルと呼ばれた青年はこちらを見て「よろしく」とあいさつする。私も「よろしくお願いいたします。」と返した。
そうなのだ、私は王と召喚契約を結んだ
対価は王の命だ。命を奪ってもいいし、命を懸けて何かしてもらうでもいいし、残りの人生を捧げてもらってもいいという。扱いに困る対価なのだ。それなので決まるまで延長してもらっている。
「悪かったなシャル。大変だろ。」
「まったくそうだよ。縁談しろしろって大臣たちの目が血走ってて怖いんだよ。そろそろ俺の仮病は効かなくなる。諦めて縁談するか?エスタ。」
クールな方と思いきや結構話す人だな・・・。
「俺はしない。シャルが代わりに縁談受けるだけなら。」
「いいのか?結構可愛い見合い写真が届いていてだな・・・。」
「悪かったやめてくれ。」
先生が
口は我慢しているが目が笑ってしまった。
それを陛下に見られてしまい。彼も笑い出す。
「二人は仲がいいだろ?学院時代からの親友なんだ。」
「「腐れ縁だ」」
耐え切れず笑ってしまった。小さく震えながら「すみません。」と謝る。
和やかなムードの中、会食が始まった。人の出入りを最小限に済ませる為、料理はほぼすべて運ばれていた。
「しばらく、マヤと二人で王都に滞在することになった。
「いや、ずっとここに居てくれて構わないぜ、逆に俺が魔学で・・・。」
「やめろ、お前ナンパしに行くつもりだろ?」
「いいじゃないか!いいな~俺も魔学でもう一度キャンパスライフを送りたい!女の子といちゃいちゃしたい。なー?マヤちゃん、俺と遊ぼうよ?」
ひぇ。キラーパスが来た。影武者君、チャラいのか?
「いえ結構です。」
「ダーメ。」
「駄目だよ。」
「3人で同時に否定しなくてもいいじゃん!」
エスタとシャル同じ顔なのに、中身のギャップが有り過ぎて。混乱してしまう。
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